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症例:生徒さんが突然倒れてしまった!
最近ヨガを始めたA子さん。仕事が押して、今日はいつも参加しているレッスンに遅れそう。スタジオに急いで駆け込み、息を切らしてヨガマットの上へ。さぁ、気持ちを落ち着けて。お気に入りの先生の指導のもと今日もいつものように太陽礼拝Aからスタート。
順調に経過していたけれども、最後の深い前屈のポーズ(ウッターナーサナ)から、両手を上に上げるポーズ(ウールドヴァ・ハスタ・アーサナ)に移った際に、クラクラっとして目の前が暗くなって、倒れてしまった。
原因:急激に姿勢を変えたことによって、血圧の維持が困難に
皆さんの中には同じような経験をされた方も多いと思います。
上記のケースでは、脱水を背景として急激に姿勢を変えたことによって、血圧の維持が困難になりその結果クラクラとふらついてしまった。という事が起きています。
(※他の可能性もありますが、可能性の高いものを挙げています)
太陽礼拝Aに限らず
- 急に
- 起き上がる、立ち上がる
等の動きをすると、脳内の血流が一時的に少なくなることが原因で目の前が暗くなるという症状が出ることがあります。
脱水はもとの循環血液量を減らすことによって、こうした姿勢変化による脳の血流低下を助長します。
ちなみに、目の前が真っ暗になるという症状を医学用語では「眼前暗黒感(がんぜんあんこくかん)」という強そうな表現をします。
世間ではこういった立ち眩み全般を「貧血」と表現しますが、これはまた本来の医学用語の示す貧血とは別の概念を示しており、正確には立ち眩みを医学的には「起立性低血圧」と表現します。
豆知識:自律神経が不調な方や脱水状態の方は、立ち眩みを招きやすい
- 何故、急激な姿勢の変化で脳の血流が一時的に低下するのでしょうか?
- そして何故一時的な変化でその後血流は速やかに改善するのでしょうか?
少し難しい話になりますが、人間の体はある一定の状態を保つように神経系そして内分泌系、循環器系等によるコントロールを受けています。今回のケースはこの調整が一瞬追いつかなかった、という状態です。背景にある脱水がこの状態を後押ししていた犯人になります。
脳の血流を一定の状態に保っておくための調整には、大きく分けて神経系の役割と循環器系の役割があります。神経系は姿勢の急激な変化があったとしても、自律神経の作用で脳の血流を一定に保つように働きかけます。循環器系は急激な姿勢の変化に対して、心拍数を増やすことで脳の血流を一定に保とうとします。
よって、自律神経の調子が悪いなど自律神経障害をきたす疾患がある方は、立ち眩みになりやすいですし、今回のケースのように脱水状態の方は急激な姿勢の変化によって立ち眩みになりやすいという事になります。
妊婦さんも起立性低血圧になりやすい
妊婦さんも起立性低血圧になりやすく、それは大きく二つの要因が挙げられます。
- 妊娠に伴い循環血液量が増えて、そのために血管が柔らかくなり非妊娠時より血圧が下がるため(ゴムが下に伸びるイメージです)
- 妊娠時に代謝が促進し発汗量が増えること、また、つわりなどで水分摂取が不十分になりがちなことなどから、脱水になりやすいため
解決策:水分摂取を心がけ、ゆっくり動くこと
- 脱水をしっかりと補正しておく:水分摂取を心がけましょう。特に暑い夏にはいつもより多めに
- 急な姿勢の変化をしないようにする:ゆっくりと動くことを心がけて下さい
- 高齢者が多いクラス:立ち上がり時にいったん膝に手を置いてから立ち上がるなど、1呼吸動作を増やす
これだけは覚えておこう!
- 夏は脱水になりやすい
- 脱水は立ち眩み(起立性低血圧)を起こす誘因となる
- 急な姿勢の変化があるアーサナのシークエンスは立ち眩みを起こす可能性に注意する
- 脱水以外にも、自律神経障害や不整脈等循環器障害により立ち眩みは出やすい
ヨガ人口が増えてくる中、健康目的にヨガをする方が増えていっています。より安全な指導をするために適切な医学知識を少しずつ身につけていきましょう。