ヨガ界に溢れる「解剖学っぽさ」は危うい!
ヨガのクラスでこんな言葉を耳にした、あるいはご自身が使ったことはありませんか?
「〇〇さんは坐骨が開きぎみだから~」
「肋骨(ろっこつ)を大きく開いて~」
この中で、解剖学的にまちがった表現はどれでしょうか?
……答えは「全て」です。
「えっ!?」と驚いた方、「なんとなくわかるけど、説明しろと言われたら難しい……」という方は、ぜひこのインタビューをお読みください。鍼灸師・ヨガ解剖学講師の内田かつのり先生に、ヨガ解剖学の重要性や可能性について詳しくうかがいました。
解剖学、東洋医学、ヨガとの出会い
ところが、学ぶうちに鍼の限界も見えてきたんですよ。確かに効果はある。でも、鍼はずっと打ち続けないといけない。これはどこかで自分の身体を根本から変える必要があるなと。
そこでもっと能動的にアプローチする方法として、ヨガやピラティスに興味を持ったんです。鍼灸学校は夜間だったので、日中にヨガやピラティスのクラスをあれこれ試しました。
「解剖学っぽい」ヨガというのは要するに、筋肉や骨格の名前を使ってはいるものの、教えている側の知識に解剖学のベースがないんです。だから、途中まで「僧帽筋(そうぼうきん)を下げて」とか「脛(すね)を内側に寄せて」といったディレクションをしているのに、最後はふわっとした感覚的なヨガ独特の用語で説明してしまう。
残念ながら、筋肉や骨について解剖学的に正しい知識を持っているヨガの先生は、本当に少ないんですよ。
ヨガの先生がみんな解剖学に精通する必要があると言いません。でも生徒さんに骨や筋肉の話をするなら、最低おさえるべき知識というものがあるはず。それを分かってほしい。
ヨガ界に溢れる「解剖学っぽさ」は危うい!
典型的な例を挙げると、「脛(すね)を寄せると太ももの骨が開きます」という説明を聞いたことはないですか? これは解剖学的にはまちがいです。太ももの骨の「遊び」なんてほんの少ししかないので、開くわけがない。むしろどちらかと言えば太ももも閉じます。こういうまちがった知識が溢れているんですよ。
「解剖学っぽい」ヨガは身体を動かす方法論やテクニックの1つとしては有効だし、いい面もたくさんあると思います。でもあくまで「解剖学っぽい」だけ。そこをかんちがいせず、自分が「知らない」ということをちゃんと認識してほしい。
骨だったら、バラバラに分解した骨格標本を組み立てられるかどうか。人の身体を扱うなら、本来このくらいの知識は身に付けてほしいです。
医療とヨガにはそれぞれ役割がある
「ハラアーサナは甲状腺を刺激してホルモンの分泌をうながします」なんて、医療関係者が聞いたら怒ると思うんですよ。医療分野では何十年もの研究を重ねたうえでそれでも投薬や手術という手段をとるしかないのに、じゃあハラアーサナで実際に患者の数値をどれだけ変えられるの?と。
ヨガの「ふわり感」や精神性を大切にすることが悪いとは言いません。僕が言いたいのは、守備範囲外のことを「知っている」ふりをするのはデメリットしかないからやめようよ、ということです。東洋医学、西洋医学、ヨガ、それぞれの守備範囲を理解して尊重することで、互いを活かせると思うんです。