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ハタヨガで大切な呼吸と心の関係
ハタヨガ・プラディーピカは16世紀から17世紀に書かれたハタヨガの教典です。瞑想に重きを置くヨガ・スートラに比べて、ハタヨガではアーサナやプラーナヤーマ、ムドラなど身体を使ったヨガを中心に解説しています。現代の主流になっているアーサナを中心としたヨガはハタヨガに属すため、ハタヨガの理論を勉強することはとても役に立ちます。
なお、ハタヨガではプラーナヤーマ(調気法)をとても大切に考えています。
気が動くと心も動く。気が動かなければ心も動かない。ヨガ実践者は心の動きを止めなければならない。それゆえに、気の動きを止めなければならない(ハタヨガ・プラディーピカ2章2節)
一方、ヨガ・スートラではヨガの定義として、「心の働きを止めること」と説明しています。
ヨガとは心の働きを死滅させることである(ヨガ・スートラ1章2節)
ヨガの目的は心のコントロールですが、心と連動している気をコントロールすることも、とても大切と言えます。
日常生活でも実感しやすい呼吸と心の関係
日常生活の中で注意して呼吸を観察してみると、呼吸は心の状態に深く影響されていることが分かります。
例えば…
- 根詰めて仕事をしている時、気が付くと息が止まっている
- 野球選手がバッターボックスに立つ前に深呼吸する(気持ちを落ち着けるため)
- 怒っている人が荒い呼吸をしている
- 自然の中に行くと深呼吸したくなる
- 感情が荒れて泣きじゃくっている時、呼吸も上手くできなくなる(過呼吸など)
気持ちを落ち着けたい時の深呼吸は、誰でも日常的に行っていますよね。その他の呼吸は無意識なことが多いです。普段自分がどのような呼吸をしているのかを観察しても良いでしょう。呼吸の状態=心の状態ですので、呼吸をコントロールすることでも、心をコントロールすることができます。
では、呼吸をコントロールするプラーナヤーマとはどのような技術なのでしょうか?
気(プラーナ)とは?息と気との違い
プラーナヤーマは呼吸法と考えられることもありますが、正確には気(プラーナ)をコントロールする方法です。プラーナとは、体内外に流れる生命エネルギーです。
「気功」などの気とも同じ意味です。気の流れがスムーズかどうかで、私たちの活動エネルギーが左右されています。そのため、プラーナをコントロールすることはとても大切です。
気が体内に留まっている状態を生きているという。気が身体から離れることを死という。よって、気を保持しなければならない。(ハタヨガ・プラディーピカ2章3節)
ハタヨガでは肉体の生死の定義を、気(プラーナ)が体内に留まっているかどうかで定義しています。プラーナは私たちの体内にも流れていますが、同時に身体の外、世界全体にも流れています。体外のプラーナと体内のプラーナの交流は、呼吸によってコントロールすることができます。
私たちは外の世界のプラーナにも影響を受けています。神社仏閣を訪れた時に良い気を感じるのは、そこに流れているプラーナを感じ取っているからです。
10種類のプラーナ
ハタヨガでは、体内を流れる気には10種類あると考えられています。
ヴァーユ(気)には10種ある。プラーナ、アパーナ、サマーナ、ウダーナ、ヴァアーナ、ナーガ、クールマ、クリカラ、デーヴァダッタ、ダナンジャヤ。(ゲーランダ・サンヒター5章60節)
(ここではヴァーユと表現されていますが、私たちが通常使っているプラーナと同意です)
10種に分けられた気の中で、最初の5つは、身体の特定の場所に留まって生命を維持するために働きます。後半の5つは特定の活動に関連しています。
- プラーナ:鼻頭から心臓まで。息を運ぶ
- アパーナ:心臓からへそまで。消化、エネルギーの分配
- サマーナ:へそから足の裏。身体の浄化
- ウダーナ:鼻頭から頭頂。上昇
- ヴァアーナ:身体全体を覆うエネルギー
- ナーガ(竜):おくび(げっぷ)
- クールマ(亀):まばたき
- クリカラ(しゃこ):くしゃみ。喉の渇き
- デーヴァダッタ:あくび
- ダナンジャヤ:生命がある間は留まるエネルギー。声を出す
プラーナは息を運ぶエネルギーでもあり、その他の身体全体の活動の流れを作るエネルギーでもあります。プラーナの流れが滞ってしまうと、生命活動が上手く行えません。
なお、「プラーナ」という言葉を使う時は、上記10種の気全てを統括して呼ぶ場合と、体内の気の中の1種類のみを示すケースがあります。
プラーナヤーマの定義
息を吸って吐く呼吸がプラーナヤーマだと考えられがちですが、プラーナヤーマは呼吸を止めることを意味します。
アーサナが習得された後、吸気と呼気の流れを停止することがプラーナヤーマである。(ヨガ・スートラ2章49節)
呼吸は「吸う・吐く・止める」の3つに分けることができます。
息を止めることをクンバカと呼び、ヨガ・スートラではクンバカを行うことをプラーナヤーマと呼びます。プラーナヤーマの練習は左右の鼻孔で「吸う・吐く・止める」を行い、その組み合わせで様々な種類の実践方法があります。
ヨガ・スートラでは詳しい実践方法は書かれていませんが、後期に書かれたハタヨガ・プラディーピカでは8種類のクンバカの方法が書かれています。短いクンバカから始めて、徐々に息を止める時間を長くします。プラーナヤーマの実践は、ゆっくりと段階を踏みながら練習する必要があります。
ライオン、象やトラが徐々に調教されるように、呼吸もゆっくりとコントロール出来るようになる。さもなくば(急げば)、その人を滅ぼすだろう。(ハタヨガ・プラディーピカ2章15節)
呼吸のコントロールは猛獣に例えられるくらい困難なことです。生命に直接関係している呼吸を止めることは、間違った方法で行うと自分自身を傷つけてしまうことなり得ます。
プラーナヤーマを正しく行うと、一切の病気が無くなる。しかし、誤った実践を行うと、かえってあらゆる病が生じる(ハタヨガ・プラディーピカ2章16節)
ヨガは結果を焦ってはいけません。プラーナヤーマも、じっくりと時間をかけて練習する必要があります。
プラーナヤーマの最終形、ケーヴァラ・クンバカとは?
プラーナヤーマの実践が深まると無意識にクンバカが起こるようになります。それをケーヴァラ・クンバカと呼びます。通常のクンバカは、吸気と呼気と組み合わせて故意に行います。
吐いたのちに息を止める「レーチャカ(呼気)・クンバカ」と吸ったのちに息を止める「プーラカ(吸気)・クンバカ」と呼ばれるクンバカです。それに対して、全く意図せずに自然に起こるクンバカがケーヴァラ・クンバカです。呼吸に対する無意識の状態は、サマディの状態と同一です。
(ケーヴァラ・クンバカに達すると)ラージャ・ヨガの段階に到達する。それは疑いのないことである。(ハタヨガ・プラディーピカ2章75節)
ハタヨガとは、深い瞑想状態であるラージャ・ヨガを実現するためのヨガです。プラーナヤーマの実践を続けると、ハタヨガの最終目標であるラージャ・ヨガの実現が可能です。
ヨガの練習中も、日常でも呼吸に意識を向けましょう
すでに述べたように、私たちが日常無意識に行っている呼吸は人生全体に関わっています。
<呼吸のまとめ>
- 私たちの心の状態と連動している
- 体内のエネルギーをコントロールし、生きるためのエネルギーに関係する
- プラーナヤーマの実践を積むことでラージャ・ヨガ(サマディー)に到達することができる。
まずはヨガの練習中から自身の呼吸に意識を向ける練習をして、少しずつ日常生活でも自身の呼吸を観察できるようになりましょう。良い精神状態の時の呼吸が分かれば、今度は心を落ち着けたい時に良い呼吸をすることで自身の心の状態や身体のエネルギーをコントロールできるようになります。
呼吸の大切さへの理解を深めて、より良く生きる術を身につけましょう。