記事の項目
ヨガ哲学では、この世界の全ては3つのグナ(性質)が原理となって作られたと説かれています。この3つのグナとは、サットバ(純質)・ラジャス(激質)、タマス(鈍質)のこと。これらを理解して生活の中の“選択”に活かすことで、自分自身の性質を整えることができます。世界を作り出す3つのグナの特性についてご説明します。
3つのグナとは?世界が作られた仕組み
ヨガの哲学部分を担ったサーンキャ哲学では、世界はプルシャとプラクリティの出会いによって作られたと説かれます。
プルシャ:私たちの本質部分、霊魂、真我です。傍観すること以外に何も行動を起こさない純粋な存在です。
プラクリティ:物質全ての原理です。私たちがこの世にあると認識できるものは全てプラクリティが根源となって生まれました。
プラクリティとプルシャは共に無始であると知られるべきだ。それらの変異と要素は、プラクリティから作られた。(バガヴァッド・ギーター13章19節)
プラクリティによって全ての原因と結果を作るものだと言われる。プルシャは様々な苦痛と快楽を受け取る要因である。(バガヴァッド・ギーター13章20節)
物質的な要因のプラクリティと、そこから生じた感覚を受け取るプルシャの両方で世界は成り立っています。
プラクリティは3つのグナ(性質)で構成されています
世界を成立させる、プラクリティとプルシャのうち、プラクリティが、先にも述べた3つのグナで構成されているのです。それぞれの性質は下記のとおり。
- サットバ:汚れないもの、軽い、照らし輝く、調和、軽い、幸福、知識
- ラジャス:激しい動き、激情、渇愛、執着、行為、躁状態、貪欲
- タマス:濁っている、思い込み、怠慢、怠惰、睡眠、怠慢、迷想、無活動
プラクリティがプルシャと出会って活動を始めて、最初に優勢になったのはサットバです。サットバは限りなく純粋な状態。つまり、プルシャに近い状態です。その後、活動的なラジャスが活発に動くことにより、タマスも活動を始めて様々な性質をもった存在が生まれました。
私たちはサットバが優勢になると上昇し、ラジャスが強くなると中間に留まり、タマスが優勢になると下降します。私たちは純粋なプルシャ(幸福)に近づくために、自分自身のサットバ性を上げなくてはいけません。
グナを意識して日常に活かす
世の中のあらゆるものは、3つのグナで構成されています。できるだけサットバ性が多く、タマスが低いものを自身に取り入れることによって、自分自身の意識を高い次元(本来あるべきプルシャに近い状態)にもっていくことができます。
食品のグナ
例えば、食べ物を選ぶ時にもそれぞれの性質を考えるようにしましょう。
サットバ性の食べ物
- 新鮮なもの、軽いもの、調理したばかりのもの、長時間調理していないもの。
例)新鮮な野菜、果物、豆、ミルク、シンプルな調理のもの、消化しやすいもの
ラジャス性の食べ物
- 刺激の強いもの、辛味、苦み、酸味などがあるもの。
例)辛味スパイスの多い料理、コーヒーなどのカフェイン飲料
タマス性の食べ物
- 一度調理したあと時間が経って温め直したもの、古くて新鮮でないもの、加工し過ぎたもの。
例)インスタント食品、保存料の入ったもの、前日に調理した料理、お酒、カフェイン飲料(一度活発になった後、タマス性が上がる)、砂糖の多く含まれたもの
ライフスタイルによっては常に新鮮な野菜ばかり食べられないこともあるでしょう。しかし、できるだけ良くないものを減らす努力は難しくありません。
お酒を飲まないと寝れない、コーヒーを飲まないと集中できない……。このような習慣を変えるだけでも効果がとても大きいです。
自分の思考の状態を観察してみましょう
自分の思考の状態がどのグナに当てはまっているかを観察することも、とても役に立ちます。すぐにサットバ性の思考に変更することは難しいですが、現状を理解することで冷静になり、対処法が分かるようになります。
それぞれのグナの心理状態
サットバ
- 穏やか、安定、長く続く幸福感、寛大、温かい愛、集中力
ラジャス
- 感情的、渇愛、執着、切迫感、短期の極端な楽しみ、貪欲、集中力がなく落ち着きがない
タマス
- 怠け、やる気のなさ、眠気、思い込み、妄想、答え出ない悩み
自身の心の状態を観察すると、どのグナが優勢になっているかを観察することができます。タマスの状態はヨガの練習や生活全体で心地良く生きることの妨げになってしまいます。ヨガの障害として以前紹介した心の状態はタマスの状態と言えます。
自分の心の状態を自覚して、サットバ性を上げることができると良いですね。
あらゆる選択の判断基準に活用しましょう
普段の生活で自分が触れるもの、行うこと、口にするもの、言葉などをできるだけサットバ性の高いものにしましょう。
場所も重要です。自然の中にいるだけで心が洗われる感覚になるのも、場所のサットバ性の影響を受けているからです。自宅が綺麗に整っているのかもとても大切です。汚れている部屋、物の散乱している部屋は精神状態にも良くない影響を与えます。気持ちが沈んでいる時に、自宅を掃除して自分のいる環境のサットバ性を高めると、気持ちも整うかもしれません。
何を行うのかも大切ですし、汚い言葉を使わないことも大切。全てのエネルギーは繋がっていることを認識して、自分自身の周りをサットバ性の高い状態に保つようにしましょう。
サットバ性が上がると本当の自分を感じやすい
ヨガの目的とは、本来の自分の姿であるプルシャに出会うことです。自身のサットバ性を上げると、自身の本質を見ることができます。
プルシャは池の底の地面の部分のようなものです。
池が汚れて濁っていると底は見えません。それはタマス(鈍質)が上がっている状態です。池の水に動きがあり波紋が立っていても底は見えません。それはラジャス(激質)の上がっている状態です。サットバの状態である澄んだ水、それ自体が底ではありませんが、サットバな状態である水を通し、底を見ることができます。
私たちは身体を通して行動し、あらゆる対象を見ます。プラクリティによって作り出された身体は本来のプルシャとなることはできませんが、自分自身の純粋さを高めていくことで自身の本質を見ることができます。
3グナが活動を止める時
ヨガの実践により、実践者が真我(プルシャ)に到達することができると3つのグナは活動を停止します。
カイバルヤ(孤立)とは、3グナがプルシャのために行う目的が叶い没し去ることである。もしくは、プルシャが本来の状態に安住することである。(ヨガスートラ4章34節)
3つのグナ、つまりプラクリティの全ての活動は、プルシャのための活動です。ヨガの実践によって、私たちが本来のプルシャの状態に到達することが叶うとプラクリティは活動の目的を果たします。本来プルシャとプラクリティは別々に存在し、安住していました。活動を止めた先には、プルシャの本来の姿である永遠の平穏さ、至高の状態に戻ります。それがヨガの最終的な到達点です。
生活に活かせる3グナの考え方
3グナは、あらゆる物質、事柄の性質を考えるために、とても分かりやすいコンセプトです。自分が心地いいと思える状態は、できるだけサットバ性の高いものを選択することで叶います。世の中の「好き」という感情は様々な種類があります。タマス性のものは痛みを伴う快楽、ラジャス性のものは劇的で瞬間的な快楽、この2つは、一時的な楽しみの後、苦痛に繋がってしまいがちです。長く幸福が続くサットバ性の喜びを選ぶことで、人生が安定して幸せなものに近づいていきます。