苦しみという幻想にヨガで打ち勝つ

苦しみという幻想にヨガで打ち勝つ

見えている世界は夢のごとき

見えている世界は夢のごとき
見えている世界は夢のごとき

自分が見ている世界が真実かどうかを考えたことはありますか?

日中、目が覚めている時に見て・感じている世界さえ、自分自身の心が作りだした思い込みである場合があります。

夢の中では、ただ一つの夢みる心が多くの形で発現するが如く、覚醒時に於いても、アートマン(宇宙意識)は唯一であるが、万物は種々雑多の形を有っているのである。(『シヴァ・サンヒター』1章38節)

私たちは、毎晩違う夢を見ます。

昨日は夢の中で歌手になり、今晩の夢では亡くなったペットに会えるかもしれません。一晩の中で見た夢でも、最初に見た夢はとても幸せであったのに、起床前の最後に見た夢は悪夢の場合もあります。

私たちの心はたった一つであるのに、その一つの心が作りだす夢は多種多様に展開します。夢から覚めた時には、それが夢であったと理解できますが、夢を見ているその瞬間には夢だと認識できない場合が多いです。

このように、私たちの心は現実ではないものを現実だと誤認することがあります。

ヨガ哲学においての唯一の自己の本質であるアートマン(個の本質)は、ブラフマン(宇宙全体の原理)と同一であると考えられています。ではなぜ、たった一つのブラフマンが、人間の数だけ個々に全く違う世界を見ているでしょうか。それは、ブラフマン(宇宙)が多様な夢を見ているからだと考えられています。

こうしたヨガ哲学の背景を正しく理解することで、何が真実で、何が幻想なのかを見抜く力もヨガで養うことができます。

ブラフマンとアートマン:ヨガを理解するためのインド思想の基本

自分の恐れの本質を見る

自分の恐れの本質を見る
自分の恐れの本質を見る

私たちの心は、トラウマや恐れているものがあると、無意識にネガティブな感情に意識が集中してしまいます。そのため、悪い妄想をしがちです。インドでは、夜道に落ちている縄を蛇だと勘違いしてしまうたとえ話を頻繁に使います。

  • 夜に暗闇を歩いている時に、人は自然と警戒心や恐怖心が強くなっています。
  • その結果、道に落ちている縄を蛇だと勘違いしてしまう。
  • 蛇がいると勘違いした人は、恐れて、それを確かめようとせずに逃げます。
  • よって、その人にとっては、蛇がいたという妄想だけが残り、真実は知られることがない。

私たちの人生では、たくさんの勘違いがあり、真実を知らないままのことが多々おこります。その結果、実際には存在しない問題について大きな恐怖心を感じていることがあります。

真実を見極めることによって消える恐れ

心に冷静さを備えていると、どのような状態の時にでも真実を見ることができます。真実を知ることで、幻想によって生まれた恐れの心は消え去ります。

それが縄であることを知れば、錯覚である蛇の姿は消えるが如く、アートマン(至上我、宇宙意識)を知れば、錯覚によって存立するこの万象は消え去る(『シヴァ・サンヒター』1章40節)

縄を蛇と勘違いするような見間違えも、視覚の問題ではなくて、「恐怖心」という心の作用が原因です。それは、暗い=不吉という先入観から、「怖いことが起きる」と思い込み、蛇との遭遇という結果を自分の心の中で作りだしてしまっている状態です。

恐れに冷静に向き合ってみましょう

自分の日常生活のあらゆる場面で当てはめてみましょう。

例えば人見知りの人は、他人から良くない評価を受けることや上手く人間関係が気づけないことを恐れています。

「こんな私は嫌われるに違いない」という恐怖心から、人に会った時に緊張して上手く振舞うことができません。その結果、会話をすることもたどたどしくなってしまい、「やっぱり私みたいな人間は上手く人間関係を築けないのだ」と思い込みが深まります。

しかし実際には、本人が思っているほど周りは気にしていないことが多いものです。「自分は他人から好かれない」という思い込み以外、問題など、本当は存在しない幻影なのかもしれません。

他の悩みも同じです。「自分は周りの人のように仕事ができない」と思っている人も、「自分はいつもお金がなくて人生がつらい」と思っている人も、その苦悩は幻影であり、正しいものの見方を身に着けることができれば自分で恐れを消し去ることができる場合が多いです。

良いことも悪いことも幻想から始まる

インド哲学では、この世の全てのものは、ブラフマン(宇宙原理)の見た幻想から作りだされたと考えられます。

マーヤー(幻影)こそは万物の母である。彼女以外に世界創造の原理はない。マーヤーが滅び去ったならば万物は全て存在しない。(『シヴァ・サンヒター』1章66節)

私たち個々の人生で考えると、人生の苦悩を生みだすのは自分自身の思い込み(無知)であることがほとんどです。

私たちを苦しめる5つのクレーシャ(煩悩)の弱め方

例えば、災害や感染病などの大きな世界の流れは、自分個人では変えることができません。しかし、自分自身の人生は、間違った幻想を消し去ることで変えることができます。

恐れを消し去るヨガの光

ヨガは魔法ではないので、物質的な望みを解決することはできません。

しかし、自身が問題だと思っていることが、本当に問題の本質なのかを見極める叡知を与えてくれます。その結果、魔法にかけられたように人生が大きく変わることはあります。

それが縄であることを知れば、錯覚である蛇の姿は消えるが如く、アートマン(至上我、宇宙意識)を知れば、錯覚によって存立するこの万象は消え去る(『シヴァ・サンヒター』1章40節)

例えば摂食障害の人にとっては、脂肪こそが悪であり、それによって人生が苦しめられていると感じているかもしれません。しかし、客観的に見ている周りの人にとっては、彼女が多少ぽっちゃりしていても、全く問題はありません。

暗闇で見えた蛇の姿は錯覚であるので、現実を見る冷静さを取り戻した瞬間に、蛇の姿は消えて縄になります。真実を見ることは、苦しみや恐怖を消し去ります。どのような辛い状況であっても、まずは自分の心を落ち着けて冷静さを取り戻しましょう。

例えば、過酷な労働で体調を崩してしまっている人にとっての問題点は、その環境を変えるための方法が分からないことであり、「上司や社会が悪いから」と他人の責任にしていても、いつまでも問題の解決はできませんね。

ストレスが蓄積されると思考が働きにくくなってしまいますが、心のトレーニングであるヨガで精神状態を整えることによって冷静さを取り戻すことができます。その結果、以下のような改善策を考えることができます。

  • 仕事の非効率さを見直し、無駄な労力を省く
  • 上長に相談して労働環境の改善を試みる
  • 手遅れになる前に、仕事を退職する

……など、その時の自分にとって最適の解決方法を見つけることができるかもしれません。

自分の時間、瞑想こそが心の光

自分の時間、瞑想こそが心の光
自分の時間、瞑想こそが心の光

このように、問題に直面した時には、冷静で客観的な視野が最も大切になります。それを取り戻すことが、ヨガの実践です。

瞑想が苦手な人が、急に「毎日朝と夜に30分ずつ瞑想しなさい」と言われても難しいかもしれません。その場合は、30分間アーサナの練習をして、その時の身体と呼吸に集中しましょう。

忙しくて本当に時間のない時には、1日に数回、コーヒーを飲む時間に集中して、コーヒーの香りと味を感じる、心の静けさを見つけるなど、マインドフルネスな状態を意識的に作るだけでも効果があります。

気持ちが穏やかでない時には、5分間の深呼吸でも違ってきます。積極的に心を整えるためにヨガを生活に取り入れましょう。

  • 常に冷静さを取り戻すこと
  • 未来ではなくて、今に意識すること
  • 客観的な視野を身に着けること
  • 思考を止めるヨガの時間を設けること

これらでマーヤー(幻影)は弱まり、様々な不安の解決への糸口が現れます。ヨガの経典を読み、学んだことを実践することで、心の穏やかさを身につけましょう。

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