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前回のコラムでは、コロナ禍で身体活動の低下で、体重が増加するなどして生活習慣病のリスクが増加していることに触れました。
身体活動量の減少は様々な病気のリスクになりえます。例えば、肥満症、メタボリックシンドロームやフレイル、糖尿病、脂質異常症、高血圧、骨粗鬆症、サルコペニアなどの生活習慣病は、いずれも身体活動量が少ないことが、それらの発症や悪化に関連するのです。
身体を動かしたくなる習慣のつくりかた
では、どうすれば運動をしない方が、運動をするようになるのでしょう。ヨガをしてほしい方に、ヨガへの関心を高めるには……。
全世界で14億人、日本人の3分の1が運動不足という現状を鑑みるとこれはとても、難しい課題なのです。もし解決できているのであれば、運動不足をWHOが問題として取り上げることもないでしょう。筆者は「ヨガを臨床に導入する」ことがライフワークなので、課題として感じています。
今回は2人のケースを取り上げ、運動をしてもらうように勧める(身体活動への介入)にはどのようにアプローチすれば効果的かを考えてみたいと思います。
趣味はゲーム。インドア派の女性のケース
まずは健康相談にいらした研究者のユキコさんです。
もともとインドア派で趣味もゲームというユキコさん。コロナ禍でリモートワークになってからというもの、一日の歩数は2000歩を下回るようになってしまいました。出勤していた頃は、自然と8000歩は歩いていたのですから、かなりの低下です。加えてついつい仕事の合間の間食も増えてしまいます。6月の健康診断では前年に比べて体重が5キロも増えていて、その他の脂質や肝機能の数値も悪くなってしまっています。
会社の保健室にいらしたユキコさんに、運動の必要性を説明しますが、運動という言葉を聞いただけで苦手意識が強くなってしまうようです。そこで1日4000歩を目安に散歩することを提案し、エクセルの表で自己管理していただくことにしました。自分で管理することで
心地いい感覚を大切にしたい、サーファーの男性
次に、外来にいらしたサーファーのサトルさんです。
怪我や不眠、倦怠感などで悩んでおり、大好きだったサーフィンや運動全般から遠ざかっているサトルさん。薬物療法を開始しましたがあまり奏功しません。
そこで、ヨガで柔軟性を高め、アーサナや呼吸でリラックスすることで再びサーフィンができる身体になれるのではないかと考えた筆者は、熱心にヨガについて説明しました。ハワイのサーファーのカリスマ的存在であるサーファー、ジェリー・ロペスも50年もの長い間ヨガの練習を行っていることで有名だからです。
外来にいらっしゃるたびにヨガをすすめていましたが、一向にヨガに関心を抱かないばかりか、しまいには「うるせーんだよ!」と怒られてしまいました。よくお話を伺うと不眠が出始めたときにサーファー仲間からヨガを勧められてすでに試してみたものの、ゆっくりとした動きや女性ばかりのスタジオに居心地が悪くなってしまい、ヨガにあまり良い印象を抱いていなかったようでした。
そこで、ジェリー・ロペスのDVDをお渡しし、ヨガについて良い印象を持っていただくことからはじめたところ、自宅でのヨガを始められ、心と身体がとてもリラックスできた感じがしたと話されました。少しずつですが、自己の身体に向き合うようになっています。
自発的な目標設定でコロナ太り解消!運動習慣が定着
身体活動への介入のメカニズムに関する研究では,
- 自己調整
- 内発的動機づけ
の重要性が指摘されています。
「自己調整」とは運動の計画や目標設定、実施状況の記録や評価などを自分で行うことですが、それらを勧めることが、運動を促すのに効果的である可能性が示されています。
上記の研究者のユキコさんは、運動の自己管理を始め、運動が促進されました。自らが能動的に関与することがここでのポイントです。
ヨガクラスでも目標や目的をお伝えすることがあるかもしれません。その際はヨガの先生が目標を設定するのではなく、生徒さんに設定してもらうことで能動的な学びのステップを提供できることでしょう。
内側の“楽しい”を育てることも継続のコツ
身体活動への介入における、もう一つの大切な要素である内発的動機づけについてもみていきましょう。
動機づけに関する研究では,他者からの推奨や報酬、義務感などによる外発的な動機づけよりも、楽しみ、挑戦、満足感などによる内発的な動機づけのほうが、運動の促進に対して重要であることが示唆されています。
サーファーのサトルさんは最初毛嫌いしていたヨガに取り組むきっかけは、実践してみたら、意外と良かったという満足感を得たからです。
やらされ感満載の体育の授業で取り組んでいたときはつまらなかったけれども、大人になって改めて取り組んでみたらこんなに楽しいのか!と感じたスポーツが皆様にもあるかと思います。
身体活動への介入には楽しさ、ワクワク、満足を引き出すことが重要です。もし周りの方にヨガを含め運動をすすめるときには、これらの点に留意してみると良いかもしれません。
ヨガ行者、ジェリー・ロペスの金言
最後に、伝説的なレジェンドサーファー、ジェリー・ロペスの言葉を紹介させてください。ヨガの奥深さとともに、みずからが取り組む全てがヨガであることが伝わる、心に響くメッセージです。
サーフィンを60年以上続けてきて、ヨガは50年になります、ヨガとサーフィンは、私の人生の陰と陽のような役割でバランスを取っています。これまで私はこの2つが並列に進む道のように認識してきましたが、しかし実践中にこれは1つの道なのではないかという気づきに至りました。この2つは一本の道で1つの目標を目指しているが、ただそれぞれのやり方が違うだけなのだと。
参考資料
- 原田和弘著『身体活動促進に関する心理学研究の動向』(運動疫学研究 2013; 15(1): 8-16)
- 『THE SURF NEWS』