脳がリラックス、集中力も向上! ヨガの呼吸を科学で検証

脳がリラックス、集中力も向上! ヨガの呼吸を科学で検証

古くから語り継がれ、ヨギが実践しているプラーナヤーマ。今回は、『ヨガ・スートラ』が説くプラーナヤーマの説明を、現代科学の言葉を使って紐解いていきます。

なぜ、呼吸をコントロールすると、感情が落ち着き集中できるのか、また呼吸をコントロールすると得られる更なる恩恵とは?脳と呼吸の繋がりに着目しながら解説します!

心を静かにする呼吸法〜プラーナヤーマ〜

『ヨガ・スートラ』は、プラーナヤーマ(呼吸法)について下記のように説きます。

その結果、心の内面にある光を覆っていたベールが破壊される。そして心はダーラナー(集中)への適性を得る『ヨガ・スートラ』第2章52-53節

古くからヨギは呼吸をコントロールすることで、執着・欲望・怠惰・散漫を手放し、心が平静になることを説き、実践してきました。

こうした大昔からの叡知が、現代科学でも証明されつつあります。まずは、様々な呼吸の種類と、それぞれで使われる脳の領域・役割を理解してみましょう。

呼吸と脳のつながり

呼吸と脳のつながり
呼吸と脳のつながり

ゆっくりした呼吸をすると心が落ち着く、というのは皆さん経験があると思います。実際に研究によっても、ゆっくりした呼吸によって不安感が少なくなる1)と示されています。これは、呼吸と脳の独特な繋がりが関係しています。

呼吸に関する脳の領域は3つ2)もあります。

  1. 脳幹(生命維持機能/自律神経の中枢)
  2. 無意識に呼吸をし、生命維持を担う。

  3. 大脳皮質(知性の脳/意志・思考の中枢)
  4. 深呼吸などの意識的な呼吸を担う。

  5. 扁桃体(本能的な警告装置/恐怖や不安を察知しアラームを発する)
  6. ストレスがかかると速くなるなど、無意識に感情によって左右される呼吸を担う。

扁桃体に直接電気刺激を行うと、「周りの渦に巻き込まれていく不安」を感じるそうです。そして同時に、呼吸も速くなります。この呼吸の変化は同じ扁桃体によって無意識に引き起こされ、心拍数上昇や発汗など、自律神経による反応より速く起きるのが特徴です。

逆に、不安を感じている時に、意識的にゆっくり呼吸をしてもらうと不安感が減ります。意志・思考を司る大脳皮質を使った呼吸に変わることで、扁桃体の反応が弱まった結果だと言えるでしょう。

『ヨガ・スートラ』を科学的に読み解くと…

『ヨガ・スートラ』が説く「プラーナヤーマの結果、心の内面にある光を覆っていたベールが破壊される。」のうち、“ベール”は本能的な脳である扁桃体のことを意味し、“光”は意志や思考を司る大脳皮質と読み取ることができます。

扁桃体は危険を察知し、とっさに自分の生命を守ろうとする部位です。これは動物にも備わっている本能であり、この部位が反応している時、私たちは人間らしい高度な考えや意志を担う大脳皮質を使う余裕はありません。

まさしく、ベールが心の内面にある光を覆っている状態なのです。ヨガスートラは「そして心はダーラナー(集中)への適性を得る。」と続きます。

扁桃体が反応している時は、原始時代で言えばマンモスや猪などに襲われて命の危険を感じている時です。そんな時は四方八方に注意を分散し、次にどこから襲われるのか?どこに危険があるのか?気を配らなくてはなりません。集中とは逆の状態です。

外敵を倒し、安全が確保された時、どうなるでしょうか。ようやく安心して何か1つに集中できるようになります。扁桃体の活動が鎮まり、大脳皮質が使われ始めた状態です。

現代では、そう外敵に襲われることはありません。しかしながら、ストレスなどで扁桃体が過剰に反応することはあります。イライラして、集中するどころではありません。

『ヨガ・スートラ』を科学的に読み解くと…
ストレスなどで扁桃体が過剰に反応

そんな時にも、呼吸を制御することで扁桃体が鎮まり、大脳皮質が使われていきます。この大脳皮質は理にかなっていることに、集中も司っている領域です。だからこそ、呼吸をコントロールすることで集中できる、ダーラナーへの適性を得ることができるのです。

脳波にあらわれる!プラーナヤーマの免疫活性効果

これまで紹介してきた内容は、脳波を測定する実験でも示されています。

ヨガの熟練者がプラーナヤーマ・瞑想を行う時の脳波を測定した研究3)からは、プラーナヤーマによって精神的にはリラックスしていながら、注意力は保たれている状態が創り出されていることが推察されています。

日常生活では、リラックスしている状態になると大脳皮質の活動も抑えられ、注意力は保たれません。プラーナヤーマによってもたらされる脳の状態は、日常生活では起こりにくい独特のリラクゼーション状態なのです。

脳波にあらわれる!プラーナヤーマの免疫活性効果
プラーナヤーマは独特のリラクゼーション状態

更に、ヨガの熟練者では、プラーナヤーマの段階で瞑想状態の脳波に近づくことも示されており、この脳の状態は、免疫細胞(ヘルパーTリンパ球)の増加に関与すると推察されています。

この変化は、家族の死別など強いストレスがかかった場合と真逆の反応であり、ストレス社会に生きる私たちにとって、その意義は大きいのではないでしょうか。

ただし、プラーナヤーマをやれば全ての人で免疫細胞が増加するわけではありません。プラーナヤーマの状態で、瞑想に近い心理状態になれる、ヨガを続けてきた熟練者が得られるものです。

ヨガの修行は“一日してならず”ですね。ヨガのうちアーサナだけが注目されがちですが、プラーナヤーマや瞑想もコツコツ続けることで、心身の調和、意志・思考を司る大脳皮質の活性化、免疫細胞の増加など更なる健康増進効果が得られるのではないでしょうか。

参考資料

  1. 政岡ゆり, 本間生夫(2004) 香りと予期不安 −呼吸パターン変化からの検討−. Aroma Research, 17(5), 44-49
  2. 政岡ゆり, (2009) 香り豊かに暮らす −呼吸・嗅覚・情動の脳内関連視点から−. 心理健康科学, 5(2), 64-69
  3. 亀井勉, (2006) ヨーガの呼吸運動による脳波の変化がもたらす細胞性免疫の賦活化, 第7回馬淵ホリスティック医学奨励賞