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呼吸について深く追求するスワラ・ヨガでは、私たちが無意識に行っている呼吸にさえ音があると考えます。その音は、ヨガの実践で非常に繊細な感覚を養うことで聞くことができます。今回は、この呼吸の音を使うマントラ瞑想についてご説明します。
呼吸の波動は、どんな音?
スワラ・ヨガによると、世の中の全てのものを動かすプラーナ(生命エネルギー)は波動を持ち、すべての波動には音があるとのこと。
この説に基づくと、プラーナを循環させる呼吸にも音があることになります。しかしながら普通の人には呼吸の音を聞くことができません。
それは、呼吸の波動はとても微細なものだからです。人間の耳は通常20Hzから20kHzくらいまで聞こえると言われます。しかし、年齢を重ねると共に、高音が聞こえなくなってきます。
聞こえなくなったとしても、音がなくなったわけではありません。人間以外の動物は、非常に高い音も聞き取ることができます。人が認知できなくても、音自体は常に存在しています。
呼吸の波動は、限りなく平らに近い微細なプラーナの振動です。そのため、聴覚で聞き取ることは困難ですが、実際には存在しているのです。
ヨガチュダマニ・ウパニシャッドによると、息はHam(ハム)の音と共に体外へと出ていき、So(ソー)の音で体内に入ってきます。この音は、耳の内側で聞こえる、とても微細な音です。古代からヨガの聖者たちが意識を呼吸に深く向けることで聞こえたと伝えられています。
呼吸の音“So-Ham”を唱えるマントラ瞑想
呼吸の音はSo-Ham(ソー・ハム)ですが、これを繰り返し唱えて、その音に意識を向け瞑想すると、その音が意味する意識の状態に到達することができると説かれます。
2つの音にはそれぞれの意味があります。
So:吸う・シヴァ・宇宙意識(ブラフマン)
ハタ・ヨガではシヴァとシャクティの融合によって超自然的な能力を発揮することを目指します。超自然能力とは、私たちが通常カルマなどによって縛られているあらゆる制限から解放された状態を意味します。
それは全てのヨガの目的である解脱を意味します。呼吸の音So-Hamに意識を向ける瞑想では、ハタ・ヨガの目的である解脱に到達できると言われます。
1日に21,600回も、人はマントラを唱えていた!?
チュダマニ・ウパニシャッドによると、人は1日24時間に21,600回呼吸をしている。つまり、So-Ham(ソー・ハム)の音を生みだしていると言われます。
このように、自然に繰り返し唱えられるマントラの実践をアジャパ・ジャパと呼びます。操作しない自然な呼吸の音に意識を向けましょう。慣れないうちは、声に出してSo-Hamとい唱えてもいいですが、どうしても吐く息に偏ってしまいます。慣れてきたら、呼吸に意識を向けて、吸う息と吐く息に合わせて心の中でSo-Hamと唱えるようにします。
アジャパ・ジャパには様々な実践方法があり、それらはタントラやハタヨガの師によって受け継がれています。例えば、吸う息で「オームナモ」吐く息で「シヴァーヤ」と、シヴァ神に向けたマントラを心の中で唱えるものなどは有名です。
唱えるマントラによって瞑想の効果は変わりますが、自然に生まれる呼吸に合わせて行うことがとても大切です。
身体の内側から聞える音を唱えるチャクラマントラ
スワラ・ヨガのSo-Ham(ソーハム)のように、タントラでは1語の非常に短いマントラを多く使います。1音の短いマントラのことをビージャ・マントラと呼びます。
マントラといって一般的に思い浮かべるものにはオーム・シャンティやガヤトリー・マントラなどがあり、それらは意味を持つマントラです。タントラ的なマントラは、音の波動でダイレクトに人の内側のプラーナ(生命エネルギー)に影響を与えるので、意味のない短いマントラが多く使われます。
7つのチャクラの波動が発する音
私たちの身体の内外を流れるプラーナ(生命エネルギー)は、様々な周波数で活動しています。呼吸によって取り入れたプラーナが体内で活動する様子にも意識を向けてみましょう。
体内でプラーナの集まる場所は、背骨に沿って存在するチャクラと呼ばれるエネルギー・センターです。それぞれのチャクラには特徴があり、プラーナの状態が違うため、チャクラごとに違う波動の音を生みだしています。
チャクラに深く瞑想して聞こえた音を、それぞれ1語のマントラに書き表したものがチャクラ・マントラです。
- ムーラダーラ・チャクラ:Lam(ラム)
- スヴァディシュターナ・チャクラ:Vam(ヴァム)
- マニプーラ・チャクラ:Ram(ラム)
- アナーハタ・チャクラ:Yam(ヤム)
- ヴィシュダ・チャクラ:Ham(ハム)
- アージニャー・チャクラ:Om(オーム)
- サハスラーラ・チャクラ:Om(オーム)
これらの音は、実際に古代の聖者が聞いた音を書き表したものなので、教本を書いた聖者や流派によって多少の違いがあります。
それぞれのチャクラごとに、精神的・身体的なエネルギーの働きをつかさどっています。自分に必要なチャクラのマントラを繰り返し唱え、その音が表すチャクラを念想することによって、チャクラの活動を活性化することができます。例えば、エネルギー不足を感じる時にはマニプーラ・チャクラのマントラ瞑想を行うと良いでしょう。
日常そのものが音の瞑想。生活の中の荒い音と微細な音に意識を向けて
音には波動のクオリティがあります。破裂音のように、急激に激しく動く音は、心を大きくかき乱してしまいます。逆に、安定して滑らかに振動する音は、心を落ち着けてくれます。
雨の音や、潮騒、風が木の葉を揺らす音など、繰り返し流れる滑らかな音には高いリラックス効果がありますね。
自分たちが日常生活で発している音にも気を付けてみましょう。無意識に荒い音を出しているかもしれません。
- 机にグラスなどを雑に置く音
- ドアを「ドン!」と閉める
- 不注意で物を落としたときの音
- 怒った時の自分の声
- 大きすぎる携帯電話の着信音
- 車のクラクション
- フォークやスプーンを落とした音
これらの音は、他人を不快にするだけではなく、自分自身の心の状態も荒ぶる状態にしてしまいます。日常生活で、自分の出している音の質に意識を向けてみましょう。
穏やかな音を出そうとすると、食事中にも、不快な音を出さないように気を付けるようになります。例えば食器とフォークが触れ合うときにも荒い音を出さないように、咀嚼するときに口を開けてクチャクチャしないようにすると、とてもマインドフルネスな状態で生活することができます。
最初は窮屈と感じるかもしれませんが、慣れてくると、生活の中の様々な音を楽しめるようになります。
意識を集中すれば、身体の音を体感できる
自分の外の音に意識を向けることに慣れてきたらもっと微細な音に意識を向けます。最も微細な音は私たちの身体の音です。
最初は呼吸の音に意識を向けましょう。深い呼吸をすると、空気が気道を触れる音を感じやすくなります。また、心臓の音にも意識を向けます。静かな場所では鼓動を感じることは難しくありません。
血液が身体中に流れる音にも意識を向けてみましょう。非常に微細な音なので感じることは難しいのですが、血液で酸素などを身体全体に送る時にもプラーナ(生命エネルギー)が振動して音を発しています。
まずは自分の外側に聞こえる荒い音から聞き、徐々に微細な音に意識を向けていくことによって、とても心が穏やかになり、深い瞑想状態に入っていくことができます。
音のエネルギーを活用すれば、ヨガの集中力も向上
全ての音は、プラーナの振動によって現れます。私たちの心もプラーナの動きです。そのため、私たちが聞く音の振動は、ダイレクトに心の状態に作用します。
ヨガを練習していてもなかなか集中出来ない時、心が穏やかにならない時は、自分の呼吸とその音に意識を向けましょう。自然と冷静さを取り戻せるはずです。
上手くいかない時には、音を出すような深い呼吸から始めて、徐々に自然な呼吸に戻していきます。慣れてくれば、呼吸によって取り入れたエネルギーがチャクラに到達する様子、身体全身に広まる様子も感じることができるかもしれません。