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ヨガ・スートラはインドの正統学派の1つであるヨガ派の教典です。現代でもヨガのもっとも権威ある教典として世界中の人に読まれています。
ヨガ・スートラについて簡単に紹介すると以下の通りです。
- 成立時期:4-5世紀ごろ
- 編纂者※1:パタンジャリ
- 流派:ヨガ派
- 哲学・宇宙観:サーンキャ哲学
- ヨガの種類:ラージャ・ヨガ(王のヨガ)
- 実践方:八支則(アシュタンガ・ヨガ)
今回はこのヨガ・スートラについて10分でわかるようにわかりやすく要約しました。
ヨガ・スートラのヨガは現代広く実践されているヨガの土台になっています。
ヨガ哲学の原点でもあるヨガ・スートラの概要を知っていると、今自分が練習しているヨガへの理解も深まって、ヨガがもっと楽しくなるはずです。
- ※1 編纂:いろいろの材料を集め、整理・加筆などして書物にまとめること。(デジタル大辞泉)
ざっくり知りたい!ヨガ・スートラとはどんな本?
ヨガ・スートラは4-5世紀ごろにパタンジャリという名前のリシ(聖者)によってまとめられたヨガの教典です。
ヨガ・スートラのスートラには「糸」という意味があります。教典の生まれた当時は木の葉に文字を書いて、それを糸で括って書物にしていました。スートラとは、そのように教典をまとめた糸を意味しています。
ヨガ・スートラを編纂したとされるパタンジャリがどのような人物であったのかは全く記録が残っていません。誰が書いたのかも不明なのに現代まで読まれているのは神秘的ですね。
ヨガ・スートラのヨガはどんなヨガ?
インドには6つの正統な哲学学派があるとされますが、ヨガ・スートラはその中のヨガ派の教典です。ヨガ・スートラで実践されるヨガのことをラージャ・ヨガ(王のヨガ)と呼びます。
ラージャ・ヨガは心の働きを制御することに重きをおいています。
ヨガとは心の働きを止滅させることである。(ヨガ・スートラ1章2節)
ヨガ・スートラの冒頭に書いてある通り、最終的には心の働きを完全にコントロールして止めていきます。
自分の心や精神について理解してコントロールできるようになるために、八支則(アシュタンガ・ヨガ)という8つの段階を1つずつ順番に練習します。
各章の内容で見るヨガ・スートラの流れ
ヨガ・スートラは4つの章に分かれています。それぞれの章の内容からヨガ・スートラの内容をダイジェストで見てみましょう。
第1章:サマディ・パーダ(三昧の章)
ヨガとは何か?ヨガの八支則で到達するサマディ(三昧)とは何か?について説かれています。
また、ヨガの実践で私たちが制御すべき心の働きとは何かについても説明されています。
第2章:サーダナ・パーダ(実践の章)
ヨガの実践について書かれています。
最初はクリヤ・ヨガ(行動のヨガ)と呼ばれる3つの基本の実践。クリヤ・ヨガにはタパス(苦行)、スヴァーディヤーヤ(読誦)、イシュワラ・プラニダーナ(神への祈念)の3つが含まれています。
2章の後半では八支則の説明のうち、1つ目のヤマから5つ目のプラティヤハーラまでが説かれています。
第3章:ヴィブーティ・パーダ(超自然能力の章)
3章では八支則の中の6番目であるダーラナ(集中)から8番目のサマディ(三昧)について書かれています。
この章で説かれるのは深い瞑想状態であり、ダーラナ(集中)・ディヤーナ(静慮)・サマディ(三昧)の3つを合わせてサンヤマ(綜制)と呼びます。
瞑想が深まって人が自身の心の限界を飛び越えることができると、スピリチュアル的な超自然能力を発揮できると考えられています。
3章では、瞑想の結果身につく様々な超自然能力について説明しながらも、そのような不思議な力には執着しないようにと注意しています。
第4章:カイヴァリャ・パーダ(独存の章)
サマディ(三昧)が確立するとどうなるのかが説かれています。
ヨガ哲学では、本当の自分は心ではなくてプルシャ(真我)と呼ばれる意識体だと考えられています。サマディの実践によって心の働きが制御されると、そとの世界のあらゆるものに左右されない、本当の自分自身が独立した状態になれると説かれます。
それがヨガで目指すべき解放された状態であり、本当の幸福だとされます。
ヨガの実践方法八支則(アシュタンガ・ヨガ)とは?
ヨガ・スートラの中で最も有名な部分が、実践パートである八支則です。
八支則では8種類のヨガの修業を行いますが、1番目から順番に行うことで徐々に心をコントロールできるようになります。それぞれを簡単にみていきましょう。
1:ヤマ(制戒)
ヤマは社会的な禁止事項です。ヨガを志す人は、まず最初に日常の生活習慣から見直して、ヨガの実践にふさわしい状態に整えます。ヤマには5つの実践が含まれます。
- アヒムサー(非暴力):肉体的に、言語的に、思考のレベルでも暴力を振るわないこと。
- サティヤ(正直): 嘘をつかなこと。
- アスティヤ(不盗):他人のものを盗まないこと。
- ブラフマチャリヤ(禁欲):性欲などでエネルギーの無駄遣いをしないこと。
- アパリグラハ(不貪):所有しないこと。
日常の生活で心の中に不純な思考を生み出し続けていると、どれだけ瞑想をしても心の中が綺麗になりません。ヨガをする人にとってヤマはとても大切な教えです。
2:ニヤマ(内制)
ニヤマはヤマと同じく、日常から気を付けるべき自分自身を制御する実践です。ヤマと同じように5つの実践方法が含まれています。
- シャウチャ(清浄):自身を清潔に保つこと。
- サントーシャ(知足):自身に与えられたものに満足すること。
- タパス(苦行・熱業):困難をやり遂げること。
- スヴァディアーヤ(読誦):聖典を読むこと。
- イシュワラ・プラニダーナ(祈念):神への信仰。
ニヤマを実践することで、心の中の不純性は消えていき、深いヨガの練習の準備が整います。
3:アーサナ(座法)
アーサナは安定して快適な座り方です。
ヨガ・スートラは精神面に特化して説かれた教典なので、具体的なアーサナの名前や練習方法については書かれていませんが、瞑想のために行うパドマ・アーサナ(蓮華座)のようなアーサナを意味していると考えられています。
アーサナが安定したものとなると、実践者は緊張から解放されます。また、熱い寒い、苦楽などの感覚から解放され、より内側に意識が向きます。
4:プラーナーヤーマ(調気法)
プラーナヤーマとは、プラーナ(気)をコントロールする方法です。プラーナは私たちが生命活動を行うのに必要な生命エネルギーのことを意味しています。
プラーナは呼吸法によってコントロールすることができます。心の働きと呼吸の働きは常につながっているため、不安定な呼吸の流れを制御することによって、心の働きも徐々に穏やかになり止まっていきます。その結果様々な雑念は消えていき、瞑想状態に入っていくことができます。
5:プラティヤーハーラ(制感)
プラティヤハーラは、外の世界に心が完全に結びつかなくなった状態です。
まるで亀が手足や頭、しっぽを甲羅の中にしまい込んでしまうように、外で音が鳴っていても気が付かず、気温が暑くても寒くても感じません。それは、自分の意識が完全に内側に向いているからです。
プラティヤハーラの具体的な方法は書いていませんが、プラーナヤーマの実践を続けることで自然に起こると考えられます。
6:ダーラナ(集中)
ダーラナからは深い瞑想状態に入ります。
ダーラナは心の中の意識が1点に集中した状態を意味しています。例えば蓮の花に対して瞑想すると、意識が完全に蓮の花に縛り付けられることによって、その他の雑念は全く生まれなくなっている状態です。
7:ディヤーナ(静慮)
ディヤーナはダーラナの実践が深まった結果、継続して途絶えなくなった状態です。
始めは1点の蓮の花という意識ですが、そのイメージがどんどん膨らんでいき、心の中を満たしていきます。
8:サマーディ(三昧)
サマディは、ディヤーナがさらに深まり、自分自身の存在さえも忘れてしまった状態です。
ヨガの目的は「私は○○である」というエゴ(自我意識)を手放していくことです。人にとって1番大きな執着は自我意識です。そのエゴを手放していくことによって、心は世界のどのような対象からも自由になることができます。
ヨガ・スートラを知るとヨガが深まる!
ヨガ・スートラは、私たちが実践しているヨガが何かを理解するのにとても大切な教科書です。同じアーサナの練習をしていても、ヨガとは何か?を理解して練習すると、よりヨガの効果が深まってきます。
古典ヨガは身体的な健康体操ではなくて、私たちの心が幸せを感じやすくなるコツを教えてくれます。ぜひ少しづつでも読み進めて、自分の心と向き合うきっかけにしてください。