芝生に敷いたヨガマットの上に胡座で座り瞑想する年老いた男女

ヨガで認知機能の衰えを防ぐ!~音を使った呼吸法と瞑想~

健康の維持・向上、心の安定、美容など、さまざまな目的でヨガをされている方が多いかと思いますが、海外ではすでに医療の補助や代替ケアとしても注目されています。

文献検索サイトに「Yoga」と入力してみると、2021年末までに6,600件をも超える報告がされていて、科学的な視点からもヨガの効果が確認されつつあります。

瞑想というと、“静かに・長時間座った姿勢で・心を無にする”といったようなイメージから、苦手感を感じる方もいるかもしれません.

しかし、“自分で音を出しながらその音に集中する”という、音を使った呼吸法や瞑想は、今まで苦手さを感じていた人、呼吸法や瞑想が初めての人、子どもからお年寄りまで幅広い人にやりやすさを感じていただけると思います。

今回は、音を使った呼吸法や瞑想の効果について事例を紹介します。

ブラーマリー呼吸法の反応抑制に対する効果(インドの事例)

両手でチンムドラを組んで目を閉じるインド人の男性

研究の背景・目的

「反応抑制」は様々な状況下において、不適切または無関係なことに対しては応答を抑制するための、人の行動に関する能力のことです。

この反応抑制機能の欠乏が起こった場合、ADHD(注意欠陥多動性障害)など精神病理学的に様々な障害につながることが分かってきています。

そして、すでにヨガは神経生理学的にも良い効果があることも分かってきています。

ブラーマリー呼吸法は、雌ハチのハミングの音とも呼ばれるように、息を長く吐きながら「ン~」と低い音を鳴らす呼吸法です。

過去の研究においてブラーマリー呼吸法を20回、8セット行い脳波を測定したところ、瞑想時と同様にシータ波※1が増加したとの報告がありました。

他にも、過敏症、うつや不安症が減ったとの報告もありました。

認知機能に対するブラーマリー呼吸法の効果を測定するために、一般的な測定方法であるストップシグナル課題※2を用いた反応抑制機能を検証しました。

  • ※1 シータ波:脳波の1つで、4Hzから8Hzの周波数の事。神経細胞の集団が同期活動をすることにより生成され、レム睡眠や学習の際などに特徴的に表れる。記憶を司る海馬との関係性がある事がわかっている。
  • ※2 ストップシグナル課題:Go 刺激(行動を行うように指定された刺激)と Stop 刺激(行動を行わないように指定された刺激)の異なる2条件を利用し、その刺激に対する反応を測定する。

研究の結果

インド、ベンガルにあるヨガ大学に通う19~31歳の34名の男子学生が参加しました。

約20回のブラーマリー呼吸法をしてストップシグナル課題によって測定したところ、停止信号に反応する時間が顕著に短くなり、反応抑制機能が向上していることが分かりました。

また、同時に行った深呼吸での評価と比較しても、ブラーマリー呼吸法の方が高い効果があったことが分かりました。

キールタン・クリヤ瞑想のアルツハイマー病予防に対する効果(アメリカの事例)

屋外で楽しそうに談笑する白髪のお年寄りの人々

研究の背景・目的

アルツハイマー病の予防が近年注目を集めています。

予防または治療のための薬の研究の他にも、脳の健康レベルを高めて進行中の変性を止め、脳細胞の損傷を修復するようなライフスタイルの変化による最先端の対策についても議論がされてきました。

FINGER Study(フィンランド認知症予防の老年医学的介入研究)では、食事・運動・認知トレーニング・社会活動を通じて、認知機能への効果があったと報告されました。

また、生活様式による慢性ストレスが脳細胞の破壊と関係し、それによってアルツハイマー病のリスクが高まることも考えられています。

瞑想は、さまざまなストレスを軽減し、健康や認知機能の様々な面で改善することがすでに報告されています。

キールタン・クリヤと呼ばれる12分間のシンプルな瞑想法について、脳機能や記憶、細胞機能、遺伝子発現などに対する効果を検証しました。

キールタン・クリヤ瞑想の方法

両手でチンムドラを組んで膝に載せている人の手元

  1. 自然な呼吸で行う
  2. 椅子や床に快適な姿勢で座わる
  3. 特別な音階を利用する
  4. 特別な手指のポーズをとりながら実施する

メリーさんの羊の「めーりーさんの♪」と同じ、ラ→ソ→ファ→ソの音階に合わせて、「サー→ター→ナー→マー」と、1秒に1音くらいのゆっくりの速さで発音します。

それに合わせて、親指と人差し指→親指と中指→親指と薬指→親指と小指の順にムドラー※3のような手を両手でつくります。

最初の2分は声に出しながら、次の2分は小声で、次の4分は自分自身に囁くほどで、次の2分は小声に戻り、最後の2分はまた声に出しながら行います。

  • ※3 ムドラー:手印という、手や指で形作るシンボル、ジェスチャー。

研究の結果

12分間のキールタン・クリヤ瞑想を1日1回、8週間継続したところ、主観的認知機能低下(SCD)、軽度認知障害(MIC)、高ストレス介護者など、アルツハイマー病の発症リスクがある参加者に対して、記憶力向上の効果があったことが分かりました。

その他にも、睡眠の向上、うつや不安の減少、炎症反応の低下、免疫の向上、インシュリンと糖の安定、テロメア(遺伝子を間違いなく増幅し発がん予防などに効果)の増加、精神的霊的な心身の健康増進、認知機能の向上など、様々な効果も認められました。

音と指先を使いながらの呼吸法や瞑想によって、どんな方でも楽しみながら脳への心地よい刺激とともにストレスケアをし、集中力を高めることができ、加齢による認知機能の衰えに対しても効果が期待できそうです。