健康の維持・向上、心の安定、美容など、さまざまな目的でヨガをされている方がいらっしゃるかと思いますが、海外ではすでに医療の補助や代替ケアとしても注目されています。
文献検索サイトに「Yoga」と入力してみると、2022年6月末までで約7,000件の報告がされていて、科学的な視点からもヨガの効果が確認されつつあります。
今回はヨガを含む産前エクササイズの効果に関する2020年の研究について紹介します。
研究の背景・目的:出産前エクササイズの効果を検証する
女性にとって出産は、特に第一子目においてはとても負荷のかかることであり、妊娠と出産の過程は1人ひとりの女性によって状態も異なるため大変複雑です。
産前準備は、胎児の胎位や心臓の異常、帝王切開につながるような事象など、出産中に発生しうる様々な有害事象を減らす効果が期待されます。
陣痛のコントロールには、一般的には鎮痛剤や麻酔薬が用いられますが、母体および胎児への副作用も懸念されています。
一方で、臨床医が妊婦に対して「エクササイズ」を処方するためには、より包括的なデータによる根拠を得ることが求められています。
この研究では、分娩・出産・妊娠の過程における、ヨガを含む出産前エクササイズの効果を検証します。
研究の方法:産前エクササイズの有無によるグループ分け
20~40歳代の約200名の第一子目の妊婦がこの研究に参加しました。
調査の期間は2018年4月~2019年4月です。(糖尿病等の基礎疾患、ハイリスク妊婦、帝王切開を希望する妊婦などは非対象)
個人に関する情報や妊娠・出産時の状況、医療歴なども含めて、産後6週までのデータを集め、産前エクササイズの有無によってグループ分けをして結果を比較しました。
産前エクササイズを行ったグループは、インストラクターなど専門家のもとで安全にエクササイズが行われ、運動量は少なくとも妊娠中に3か月間、30分の運動を週に1回した妊婦を対象としています。
産前エクササイズの内容は、レジスタンス運動(筋肉に繰り返しの負荷をかける)、有酸素運動、ヨガ、骨盤底筋運動、ストレッチ、リラクセーション運動、またはそれらの組み合わせを対象とし、ウォーキングのみの場合は比較群(産前エクササイズ:無)に分類しました。
問診・測定項目には以下を含みます。
- 誘発剤や促進剤の使用の有無
- 分娩中の痛みの認識や動きへの知覚
- 分娩にかかった時間や性質
- 新生児の体重や母体の体重増加
- 腰痛などの履歴
- 産後の回復期
研究の結果・結論:産前エクササイズは良い影響をもたらす
分娩・出産時については、産前エクササイズを行ったグループの方が、陣痛促進剤の使用率が低く、帝王切開も少なく、また分娩にかかった時間も短いことが分かりました。
妊娠期12~14週および産後6週間における母体の体重増加は、産前エクササイズを行ったグループの方が低く、新生児の体重は高いことが分かりました。
また、産後の回復もコントロール群と比較すると早いことが分かりました。
妊娠中の腰痛も少なく、分娩・出産時の痛みに対するスコアや妊娠期全般の不快感に対するスコアも低い値を示しました。
他のいくつかの研究においても、週に30分程度の運動により妊婦にとって良い効果が得られたという結果が示唆されているものの、妊娠・出産・産後の状態は1人ひとり異なり、ベネフィットとリスクを考慮しながら、専門家のもとで安全な範囲で行われることが望ましいです。
ヨガを含む定期的な適度な運動が母体および新生児にとって何らかの良い影響があることが分かりつつありますが、今後さらに研究が進むことに期待がされます。
ヨガは、ポーズや呼吸、瞑想など色々な方法があり、また強度も自分で選択しながら行うことが出来るのも良いところの1つであると感じます。
ヨガや好きなことをお腹の中の赤ちゃんと一緒に楽しむことで、ママの感じる心地よさ、幸せな気持ちが伝わり、お腹の中で元気にすくすくと育ってくれそうです。
それが、「新生児の体重が高い」という研究結果にも表れているようにも思います。
お腹の赤ちゃんに負荷がかからないことや、ママの体調を優先しながら、無理のない範囲でヨガなどの適度な運動が取り入れられるといいですね。
参考文献
- Effect of Antenatal Exercises, Including Yoga, on the Course of Labor, Delivery and Pregnancy: A Retrospective Study
Int J Environ Res Public Health. 2020 Jul 22;17(15):5274
Effect of Antenatal Exercises, Including Yoga, on the Course of Labor, Delivery and Pregnancy: A Retrospective Study – PubMed (nih.gov)