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健康の維持・向上、心の安定、美容など、さまざまな目的でヨガをされている方がいらっしゃるかと思いますが、海外ではすでに医療の補助や代替ケアとしても注目されています。
文献検索サイトに「Yoga」と入力してみると、2023年7月末までで7,700件を超える報告がされていて、科学的な視点からもヨガの効果が確認されつつあります。
今回はヨガと瞑想の細胞老化に対する効果について、2017年の前向き非盲検単腕探索(検証の目的を理解した参加者による、比較対象を置かない方法)による研究を紹介します。
研究の背景:増加する生活習慣病
過去十数年間で、複雑な生活習慣が原因の1つと考えられるうつ病、糖尿病、心血管疾患、がん、不妊症が大幅に増加していており、これらの病気は細胞老化の加速と強く関連すると言われています。
細胞老化の生物学的指標の主な物として、DNA の損傷、テロメア長さの減少、酸化ストレス物質が挙げられます。
DNA の損傷は、遺伝子が不安定となり、生活習慣病発症における細胞機能不全を引き起こすことにつながります。
酸化ストレス物質は、DNA の損傷の最も重要な原因の1つで、研究対象としても注目を集めており、うつ病、肥満、不妊症などの複雑な生活習慣病や慢性疾患の発症に関与していることが知られています。
テロメアは DNA 末端にあり、細胞分裂の際に間違いなくコピーをするための遺伝子情報の保護をしている箇所で、テロメア長の減少は遺伝子の不安定性の一因となり、老化や生活習慣病と関係すると考えられています。
細胞老化に影響する他の生物学的指標としてはストレスや炎症反応なども挙げられます。
慢性的なストレス刺激によって持続的にストレス反応が引き起こされると、コルチゾール(ストレスホルモンとも呼ばれる)が継続的に上昇し、それによって脂肪の蓄積や神経変性の増加など全身組織の異常につながる可能性があります。
ヨガは、心と体の両面をポジティブに調整することが可能な統合的健康分野です。
過去の研究からうつ病、肥満、高血圧、喘息、Ⅱ型糖尿病、がんなど、様々な症状を改善することが示されてきました。
そこで、この研究では、健常者に対するヨガと瞑想に基づくライフスタイルによって細胞の老化や寿命に及ぼす効果について、生物学的指標を用いて詳しく評価することを目的としました。
研究の方法:12週間のヨガと瞑想
30~65歳の94名(男性42名:女性52名)の健康な被験者を対象として、12週間のヨガと瞑想に基づくライフスタイルプログラム(Yoga and Meditation Based Lifestyle Intervention)を実施しました。
プログラムは、ハタヨガとラージャヨガを基本とした古典的ヨガの要素を組み込んだ内容で、アーサナ、呼吸法、瞑想からなります。
約90分のクラスを週に5日の頻度で実施しました。
最初の2週間はヨガ療法の資格を有する専門の指導者のもとでクラスが行われ、残りの10週間は各個人で行いました。
※プログラムで実施されたアーサナや呼吸法等を含むクラスの一例が表になって掲載されています。よかったら本文にアクセスしてみてください。
研究の結果: 生物学的指標に大きな増進
ヨガと瞑想に基づくライフスタイルプログラムを12週間継続した結果、プログラムの実施前と比較すると以下の細胞老化に関する生物学的指標に大きな増進あったことが分かりました。
大きく減少したもの
ストレスに関連する物質が減少しました。
- 破損した DNA
- 活性酸素(細胞にダメージを与える物質)
- コルチゾール(ストレスホルモン)
- インターロイキン(炎症反応に関連するタンパク質)
増加・向上したもの
細胞長寿に関連する物質が増加しました。
- 総抗酸化能力(細胞へのダメージを守る)
- テロメラーゼ酵素の活性(遺伝子のミスコピーを防ぐテロメアを保護又は伸長する)
- β-エンドルフィン(鎮静効果や幸福感に関連する幸せホルモン)
- BDNF(脳由来神経栄養因子:脳機能を高め、記憶や学習とも関係すると言われる)
- サーチュイン(長寿遺伝子)
ヨガが健康や長寿に効果あり?
ヒトの細胞の数は説により37~60兆個あると言われていて、新陳代謝により日々新しく入れ替わっています。
新陳代謝の活動自体が活発であり、また間違いなく新しい細胞が作られ続けることが健康長寿の秘訣かもしれません。
ヨガをしている人を見ると、元気で・若々しく・いきいきとした方が多いように感じます。
ヨガは健康や長寿に効果がありそうだということが、近年の科学技術や医療の発展によって、目で見えない細胞レベルにおいてもより詳しく証明されつつありそうです。