呼吸の難しさを感じたことありますか?
ヨガをやっていると、「深い呼吸を(Deep Breath)」という言葉を耳にする機会も多いかと思います。わたし自身もヨガクラスで、この声がけをする時があります。
けれども、初めてヨガクラスに足を運んだ方から「鼻で呼吸を深くするのがこんなに難しいとは思わなかったです」という感想を聞くこともよくあり、わたしたちが無意識にしている呼吸の奥深さを実感すると共に、難しく感じられることをいかに抵抗感を感じず楽しんでいただけるかを常に意識して臨んでいます。
わたしも呼吸の難しさに直面したことがあります。それは、人生初めてのスキューバダイビングを体験した時のことでした。
鼻呼吸と口呼吸で混乱!
いまから約10年前、ヨガティーチャートレーニングのために1ヵ月間をハワイのカウアイ島で過ごしたあと、自分へのご褒美にと、延泊をしてオアフ島で数日過ごした時のことです。
あらかじめ、その期間でスキューバダイビングのライセンスを取ろうと予定していたので、初めてのスキューバ体験に心躍らせていました。
水泳部だったこともあるし、得意なスポーツは?と聞かれたら迷わず「水泳!」と今でも答えるほど泳ぎは得意。けれども、わたしが直面した試練は、スキューバダイビングの呼吸はすべて口でするということ!
ヨガで鼻呼吸に親しみ、特に直前の1ヵ月はヨガトレーニングでさらに鼻での呼吸が日常となっていたところに、鼻はマスクで閉じられ、口だけで呼吸をしなければいけない状況に、予想外のパニックになってしまいました。
インストラクターの根気づよい丁寧な指導のおかげで、なんとか初歩のライセンスを取ることはできたので結果として良い体験になったのですが、当たり前にできると思われがちな出来事も、人によっては当たり前にできない出来事になりうる、という物事の見方が変わった機会でもありました。
すべての人が深く呼吸できるわけではない
鼻呼吸でも、口呼吸でも、酸素を身体に取り入れ、不要な二酸化炭素を体外へ排出するという「呼吸」の機能は、生命維持に大切な行為です。
けれど、何か表からは見えない病を抱えていたり、治療後の後遺症や、「深い呼吸」という言葉自体に抵抗を感じてしまうような人もいるかもしれません。わたし自身、乳がん手術直後は胸を安定させるためのベルト(マンモバンド)で締め付けられていたことと、傷の痛みから大きく胸を動かす呼吸がしづらく、浅い呼吸でなんとかしのぐ時間をとても長く、辛く感じました。
また、乳がんを経験した方にとっては、「胸を開いて」というヨガクラスでのポーズの声がけが、心の傷にふれてしまうこともありうるとタリ・プリンスター先生(Tari Prinster / ヨガフォーキャンサー創設者)はおっしゃいます。
自分が乳がんを経験するまで、そのことにも気づかず、ヨガクラスで「胸を開いて」という言葉をセリフのように繰り返していたことにハッとしました。
決して「胸を開いて」という言葉をクラスで使ってはいけないということではありません。ただ、どんな人にとっても心地良い場を提供したいという心持ちでヨガティーチャーという立場にいるのであれば、そういう相手に対する配慮も常に意識して、責任ある言動、行動をしていくことが必要なのだということを心に留めておくことも大切でしょう。ヨガを実践し、伝えていくうえで、身体の扱い方以上に、言葉の扱い方も大切なことなのだと思います。
いまここにある、というマインドフルな呼吸を
タリ先生がヨガフォーキャンサークラスでよくお話しになる言葉です。
容器が満タンのままでは何も入れることができないのと同じように、まずは優しく吐き出すこと。そうすれば、空いたスペースに自然に吸う息が満たされていきます。その量が少なくても、また、優しく吐き出していく。その繰り返し。
そうやって呼吸に意識を向けることが、いまここにある自分に意識を向けることにつながるマインドフルな呼吸。「生きている」という実感が生まれます。
息をして、生きている、それだけで自分自身は奇跡的な、有り難い存在です。深い呼吸でなくてもかまいません。優しく自分を慈しむ呼吸で、日々を紡いでいきましょう。