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瞑想&ヨガを医療に!マインドフルネスストレス低減法(MBSR)とは
マインドフルネス低減療法(Mindfulness-Based Stress Reduction/MBSR) をご存じでしょうか?MBSRとは、瞑想とハタヨガを組み合わせた8週間のプログラムであり、補完療法の一種です。
アメリカのマサチューセッツ工科大学 ジョン・カバット・ジン教授が、仏教や禅・ヨガからの学びを非宗教的な補完療法、セルフケアの方法として開発したのがMBSRはじまりです。その後、多くの臨床試験が行われ有用性が示され、今では世界各国の病院約720施設(2013年)で採用されています。また、医療の域に留まらず教育、ビジネス、スポーツなどにも応用されている手法です。
今回はこの中でも特に、補完医療として用いるMBSRの効果について疾患ごとに紹介していきます!
健康な方からがんや心血管病を患う方まで:MBSRの驚くべき効果
健康な方へのMBSRの効果:不安やストレスの減少
何も病気を患っていない方、健康な方へのMBSRの効果からみていきましょう!
大学生1431人を対象に行われたメタ解析では、MBSRを受けると不安・ストレスの減少に効果があることがわかりました。また、抑うつレベルが低い、ストレスホルモンであるコルチゾールの分泌が少なくなる、等の効果も示されています。[1]
こうした試験結果からも、MBSRが決して病を患った特定の人だけのものではなく、万人に対して有用なプログラムであることがわかるのではないでしょうか。
痛みに対するMBSRの効果:痛みが減る&生活への影響も緩和
最も身近な“痛み”というと、腰痛かもしれません。アメリカで342人の慢性腰痛の患者さんを対象に行われた試験では、「通常ケアを受けるより、MBSRを受ける方が痛みによる日常生活への影響が少なくなった」ということが報告されています。[2](下グラフ)
上のグラフは、腰痛による日常生活への影響が減った人の割合(=※RDQスコアが3割以上改善した人の割合)を示しています。通常ケアを行うよりもMBSRを行う方が、改善する人の割合が高いのが一目瞭然です。
※RDQスコアとは、腰痛による日常生活の障害(立つ、歩く、睡眠、仕事をする等)を患者さん本人が評価をし、0~24点で点数化したものです。
MBSRは、感じる痛みが少なくなるだけでなく、痛みに対する受容性を高めることで、日常生活への影響を緩和できると云われています。[3]
腰痛以外の痛みの効果も検証されています。強い痛みを伴う病気「繊維筋痛症」をご存じでしょうか?歌手のレディ・ガガさんが患っていることを明らかにしたことで、一度は耳にしたことがあるかもしれません。「繊維筋痛症」の患者さんに対する臨床試験では痛みの緩和だけでなく、QOL(※下述参照)や抑うつ症状を改善することが示されています。[2]
がん患者さんへのMBSRの効果:メンタルヘルスの改善に効果
がんの患者さんがMBSRを行うことで、メンタルヘルスの改善に効果があることが多くの臨床試験で示されています。[3]
がん治療に臨む患者さんは、がんと宣告されたことによりショックを受けていたり、不安を抱えていたり、また気分が落ち込む、ネガティブになる等、精神的な不調に悩まされる方も多いです。MBSRはこういった悩みに効果的だと言えるでしょう。メンタルヘルスを改善できることで、QOLの改善も期待できます。
QOL(Quality of life)とは、「生活の質」などと訳され、物理的な豊かさや身体の健康、検査値だけでなく、精神面を含めた生活全体の豊かさや満足度を表します。がん治療においては、治療効果だけでなくQOLの維持もしくは向上させることも重要であると言われ、治療による副作用の緩和やおしゃれが出来るようにウィッグを作ること等も含まれます。
MBSRはその中でも精神的な安定、治療に前向きに取り組めるようになる等の効果により、QOL改善に貢献できる手法だと言えるでしょう。
心血管病の患者さんへのMBSRの効果
がんに次いで、日本における死因の第2位[4]である心疾患への効果はどうでしょうか?心血管系患者さんに対しても、ストレスや不安、抑うつなどの精神的な効果が認められています。
また、高血圧予備軍の方がMBSRを8週間行うことによって、血圧が平均4.8mmHg低下した5)という報告もあります。こうした研究結果から、アメリカではMBSRによって血圧コントロール不十分な方の多剤併用を減らす、及び血圧の改善が期待でき、血圧治療の補助療法として期待されています。
ストレスは、血圧が上がる原因として有名です。MBSRは、メンタルにアプローチすることによって血圧上昇を回避し、更にはそれが、心筋梗塞・脳卒中などの重大な病の予防に繋がる可能性があります。[5]
MBSRプログラムに学ぶ瞑想の極意
MBSRの効果についてお伝えしてきました。こうしたマインドフルネスで得られる恩恵を最大限に発揮するには、どのようなことに気をつければいいのでしょうか?MBSRプログラムを創設したJ.カバットジン先生は著書の中で下記のように語っています。
瞑想を行う上では、(略)評価をくださず、忍耐づよく、初心を忘れず、自分を信じて、むやみに努力せずに、受け入れ、とらわれない、という七つの態度を意識的に心がけるようにしてください。とても効果があがるはずです。
引用:J.カバットジン著「マインドフルネスストレス低減法」
瞑想を行っていると、途中で気が散ってしまい、そんな自分に対して「そんなんじゃダメ!集中しなきゃ!」と否定したり、「退屈」「つまらない」と判断したりした経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか?
そんな時は、「自分が生活の中でどれだけ物事を評価しているのか」ということに気付くチャンスです。こうして評価をしている自分に気づいたら、それを押しとどめようとするのではなく、そこから一歩離れたところから観察することがマインドフルネスを行う上で最も重要な事項だと言えるでしょう。
瞑想を取り入れて心も体も健康に
マインドフルネスストレス低減法(MBSR)の効果について紹介してきました。瞑想の最大の特徴は、「どんな人でも実践できる」という点です。病気の人もそうでない人も、怪我をしている人もそうでない人も、呼吸に意識を向けるだけで“瞑想”のトレーニングができます。
現代人は、過去に起きたこと、これからやること、起こるかもしれないことばかりにとらわれ、「今」に集中している時間が少ないとも云われています。ですが、自分の人生は「今」という瞬間の積み重ねです。瞑想のトレーニングを生活に取り入れ、「今」に集中する時間を作ってみませんか?複雑でストレスフルだった人生も、客観的に見ると意外とシンプルだったりするかもしれませんよ。
参考資料
- Regehr C,et al.J Affect Disord, 2013 May 15;148(1):1-11
- Cherkin DC, et al. JAMA. 2016;315:1240-1249.
- Gotink RA, et al. plos one, 2015 Apr;10(4):e0124344
- 厚生労働省 平成29年(2017)人口動態統計
- Hughes JW, et al. Psychosom Med. 2013 Oct; 75(8)