聖音オーム(OM)の意味とは?

聖音オーム(OM)の意味とは?古典経典から学ぶヨガ哲学と世界観

ヨガのクラスでは、最後にOm Shanti Shanti Shantihi…(オーム シャンティ シャンティ シャンティ)とマントラを唱えることが多いかと思います。

Shanti(シャンティ)は平和を意味しますが、Om(オーム)が何を表した言葉かはあまり知られていません。なんとなく、ヨガの教えにとって大切な音であることは分かりますが、深く意味を考えたことのある人は少ないでしょう。

「宇宙を表す音」と、ざっくりとした認識の方もいるのではないでしょうか。

今回はOMという聖音の意味について、インド古来の聖典を元に、かなりマニアックに掘り下げてお話ししたいと思います。

オームを唱えるのは宗教?オームについて考えよう

ヨガスタジオなどでは、クラスの始めと終わりに毎回唱えているのではないでしょうか。全く無意識に唱えてしまっていたなら、非常にもったいない!
もっと深く感じながらオームを唱えられるよう、言葉の意味を考えてみましょう。

そもそもOMではなくてAUMだった!

さて、特に疑いもなく“オーム”と発音している方が多いのですが、そもそも本来の表記は”AUM”です。

AUMを続けて発音すると[ア]と[ウ]の音が自然と繋がって、[オー]に聞こえます。そこでOM(オーム)と表記されることが一般的になりました。

オームの正確な発音はAUMですが、この3つの音はそれぞれ、50音の最初の音[A・ア]、最後の音[M・ン]、と中間の[U・ウ]から構成された言葉です。このように最初の音と最後の音を組み合わせた聖音は世界各国にあります。なじみ深いものだとキリスト教のアーメンや、仏教の南無(ナム)が似ています。

オームを唱えることは宗教なのでしょうか?

オームのマークのペンダントが青い机の上に置かれた写真
オームを唱えることは宗教?

オームはヒンドゥ教の聖音でもあり、宗教的な意味を持っているため、日本や西洋諸国でもスポーツジムなどで唱和が禁止されることが多々あります。

そのため、「オームを唱えることは宗教か?」という問いに対する答えは、イエスでもノーでもあると思います。

実際、インドでオームという聖音が唱えられるとき、ほとんどの場合が宗教的な行為です。それを考えずに、宗教に対して警戒心や嫌悪感を抱いている人に唱和を求めてはいけません。特に、自分がヨガインストラクターとしてクラスを担当するときには気をつけましょう。

しかし先に述べた通り、オームは最初の音と、最後の音と、その中間の音のシンプルな組み合わせです。音とは振動であり、人間の身体は70%が水分で出来ているため、正しく発音されたオームの音は、体内のバランスを整えて調子を整えると云われています。

近年、音楽療法の研究も進んでいますが、水分を多く有する人間の身体と精神はとても音の影響を受けます。場の空気を整え、身体のバランスを整えるオームの振動は、宗教的な意味を除いてもとても効果が期待できるのではないでしょうか。

さて、次は古典のヨガ経典「ヨガ・スートラ」と「バガヴァッド・ギータ」の中で、オームについてどのように書かれているかについて見ていきます。

ヨガ・スートラ:オームは道を開いてくれる存在

ヨガ・スートラの中のオームは“自在神”だった

ヨガ・スートラ原本からの直訳だと、オームについて次のように書かれています。

その名前はプラナヴァ(PYS1/27)

この一文だけでは分かりにくいのですが、この文章は先の文章からの続きです。

煩悩、行い、行いの結果、行いへの依存、それらを伴わない特別なプルシャをイシュワラと呼ぶ。(PYS1/24)

サンスクリット語からの直訳ではとても分かりにくいですね。

ほとんどの翻訳家は「この自在神を言葉であらわしたものが、聖音「オーム」である」(佐保田鶴治著・「解説ヨーガ・スートラ」より)のように、分かりやすく訳しています。

私は、ビハール・ヨガ・スクールの創設者であるスワミ・サッチャナンダ氏の訳が美しくて好きです。

イシュワラを表現した言葉は 神秘的な音オームである。

この様に、インドの古典教本は翻訳や解説によって大きく変わってしまうのですが、今回はヨガ・スートラの中の本来の意味を考えたいので、あえて直訳を書きました。

原文を見て驚いたのですが、オームという言葉はサンスクリット語の原書には書かれておらず、「プラナヴァ」という単語で表現されています。

「プラナヴァ」とは「新しい音」を意味します。

オームという聖音は、全ての始まりの音として考えられているため、プラナヴァと呼ばれることがあります。どの本でも、さらっと「オーム」と訳されていますが、原文を読むことでさらに深く意味を理解することができます。

オームである自在神は、私たちの先生です

オームのマークが書かれた飲み物とグレーのマフラーとシンギングボールの写真
オーム=自在神=?

自在神イシュワラと聖音オームは同等なもの

と書かれていますが、では、ヨガにおいて自在神とはどのような存在なのでしょうか。

イシュワラとは、プルシャ(真我)の中で一度もプラクリティ(物質原理)によるカルマ(業・行為)や煩悩などの思考に汚されたことのない純粋なプルシャです。

プルシャという言葉は聞きなれない方もいるかと思いますが、プルシャとは私たち一人一人の内側にある本質の部分、魂です。

私たちのプルシャ(真我)は肉体や思考に隠れてしまって見ることが出来ませんが、イシュワラは物質世界の影響を受けない純粋な魂であるため、本質を見ることができます。

自在神イシュワラは古代のグル(先生)にとってもグルである。(PYS1/26)

さらにイシュワラは、グルのグルであると言われています。ヨガの成功にとって最も大切なものは正しいグル(先生)との出会いです。しかし、古代から正しい先生に出会うことは非常に困難と言われています。

道に迷ってしまったヨガ修行者に正しい道を授けるのがヨガ・スートラに登場するイシュワラであり、その名前が聖音オームです。

この聖音を繰り返し唱え、その意味するもの(イシュワラ)を念想しなさい。(PYS1/28)

聖音オームを繰り返し唱えることで、ヨガの成功を妨げる障害が消えると説かれています。

ヨガ・スートラの中に書かれたオームは、私たちの内側に存在するプルシャ(真我)と同じ存在であり、プルシャを見つけることができない私たちの道を開いてくれる存在です。そう考えると、とても暖かい気持ちになります。

ギータ:オームは宇宙原理ブラフマン

バガヴァット・ギータの中では、

オームという1音のブラフマン(BG8/13)

という呼び方が出てきます。

ギータは、ヒンドゥ教の土台になったヴェーダンタ学派に属する著者によって書かれました。そのため古代経典ウパニシャッドなどの考え方を採用しています。

また、次のような説明もあります。

タット(それ)、サット(真理)、オームはブラフマンを示している。(BG17/23)

聖音オームは宇宙原理であるブラフマンと同意だと説かれます。これは、宇宙の全てはブラフマン=オームという音から発生したのだという考え方です。

個の本質と宇宙全体の原理は同じ!
個の本質と宇宙全体の原理は同じ!

ところで、ヨガ・スートラでは私たちの内側にある本質をプルシャ(真我)と呼びますが、同様にギータの中では個人の本質部分をアートマン(個の原理)と呼びます。アートマンは個々に持っている本質ですが、実は宇宙全体の原理であるブラフマンに含まれていて、さらにアートマンとブラフマンは同意です。

全ては一つ、一つは全て

というヴェーダンタ哲学の有名な言葉があるように、個々に分かれていると考えられている私たちも、本来はたった一つだと説かれています。

オームという聖音は、私たち自身の本質でもあり、宇宙全体の原理でもあります。

オームに関してのみ書かれたマンドゥカ・ウパニシャッド

オームのマークのペンダントと古い本
オームに関してのみ書かれた書物も存在する

ギータはヴェーダンタ学派の教えを学者以外にも分かりやすく説明した書物です。さらに深く理解するためには、ヴェーダやウパニシャッドと呼ばれるヴェーダンタ派の古典教本が役に立ちます。

ウパニシャッドは、200以上ある書物の総称です。中にはオームの意味だけを説明したウパニシャッドもあります。それが「マンドゥカ・ウパニシャッド」です。(私は安易にヨガマットのブランドをイメージするので、とても愛着が湧くタイトルの書物です。マンドゥカはカエルを意味しますが、私たちの意識が高い次元へと飛び越える様子を例えています。)

オーム。 この不滅の言葉は、目に見える世界全てを含んでいる。つまり、[どのようであったのか]、[どのようであるのか]、[どのようになるのか]、誠に、これら全てでがオームである。
これら全ては、誠にブラフマンである。 個はブラフマンである。

上記はマンドゥカ・ウパニシャッドの1節目と2節目です。

とても濃い内容を、極端に簡潔な文章で説明した書物なので、最初の2行だけで全てを説明してしまっています。

ギータと同じくブラフマンとオームを同等のものとしています。

そして、過去、現在、未来に存在する全ての事柄がオームであり、ブラフマンだと伝えています。

ウパニシャッドの文章は、いかにも哲学の学問書らしい文章なので、ヨガの実践を行うための知識として哲学を学びたい方は、読みにくいと感じてしまうかもしれません。

しかし、私がマンドゥカ・ウパニシャッドに愛着を感じるのは、ちゃんと私たちの実感できる感覚を提示しながら説明してくれるところです。

下記のように、AUMそれぞれの音について、より分かりやすく説明をしてあります。1つずつの音を人の意識の状態に例えています。

  • 【A】 起きている状態:意識は外側に向いています。私たちが世の中に存在していると思っている全ての存在はここに含まれます。
  • 【U】 夢の状態:意識が内側に向いている状態。知識の状態。この状態さえも、プラクリティ(物質原理)の生み出した幻です。
  • 【M】 深い眠りの状態:無の意識の状態。思考が停止したこの状態では、深い至福を感じることができます。
  • 【―】 アートマンの状態:無音であるため、それを説明する言葉はありません。意識は存在しません。完全な寂静、平和、至福、平等であるアートマンの状態です。

オームはAUMと3つの音で構成されていると冒頭で説明しましたが、実は4つ目の無音を含んでいます。

[A][U][M]、そして[無音]と続く4つの段階は、私たちが瞑想で体験する各段階を説明しています。

最初に外側に向いていた意識が、内側に向き、内側の思考さえも止まった時に、完全な寂静である三昧(サマディ)に到達します。その体験すべてを含んでいるのが聖音オームです。

まとめ:ヨガの素晴らしさをオームで体験

なんとなく唱えているオームですが、ヨガに限らずインド思想の中では最も大切な聖音です。深い意味を持っているだけでなく、オームの音に集中することで心を安定させて深い意識に導いてくれます。

宗教的な定義は、信じても信じなくても個人の自由なので問題ありません。理論を知らなくても音そのものが私たちの精神に与えてくれる計り知れない効果は実際に体験できます。

ヨガの素晴らしい部分は、哲学学派でもありながら、実践を最も重視しているところです。

ぜひ、オームの音にもっと深く集中しながら唱えて、オームの響きが私たちに与える効果を体験して頂きたいです。

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