甘みのある人生を生きよう
つい最近、ヨガの師と会話をする機会がありました。ニュージーランドという離れた場所にいる師との、面と向かって会話できる時間はとても貴重です。
その会話の中で、こんなことを言われました。
初めてわたしが師に出会った9年前のことを覚えていてくださっている、ということに驚きと嬉しさを隠せませんでした。そしてその頃の自分自身を思い返してみました。
師と出会った頃は、理想の自分になりたいという希望に燃え、大きな夢を抱き、確かにキラキラと内面から甘さが染み出ていたように思います。
それがいつの間にか、乳がんという病との出会いもあり、環境も大きく変わるここ数年のうちに、病への恐怖や不安、そしてまわりからの心配や恐怖をも自分自身に取り込んでしまい、クラウンチャクラに曇りが生まれてしまっていたことを指摘されたのだと気づきました。
そこで、その場でバラを使ったエネルギー瞑想をし、クラウンチャクラの掃除(サウチャ/Saucha)をすると、
意識を向ければすぐに自分を自分で癒せるのだ、という気づきを再確認できた瞬間です。
そして、世界中にいる何千、もしかすると何万もの生徒たちとの出会いの場面を覚えている師。やはり師になるべくしてなる人というのは、明晰で聡明で、生徒ひとりひとりのことをいつでも想っていてくれる存在なのだ、という感動に包まれた時間でした。
ヨガの鍛錬で日常生活に活かせる生きる術を身につけられる
師はいつもシンプル(Simple)に、こう教えてくれます。
人生におけるすべての経験がプラクティス。
そのことを意識して日々のプラクティス(アーサナ、プラナヤーマ、瞑想)にも取り組むことが、日々を甘美に包みます。
ヨガの教典「バガヴァッド・ギーター」[1]ではクリシュナがこう説いています。
最初は毒のようで結末は甘露のような幸福、自己認識(アートマン)の清澄さから生ずる幸福、それは純質的な幸福と言われる。
感官とその対象の結合から生じ、最初は甘露のようで結末は毒のような幸福、それは激質的な幸福と伝えられる。
最初においても帰結においても、自己(アートマン)を迷わせる幸福、睡眠と怠惰と怠惰から生ずる幸福、それは暗質的な幸福と言われている。
地上においても、天の神々においても、プラクリティ(根本原質)より生じた三要素(グナ)から解放された生類はいない。
ー 「バガヴァッド・ギーター」第18章より
- 純質的:サットヴァ(Sattva)
- 激質的:ラジャス(Rajas)
- 暗質的:タマス(Tamas)
わたしたちは何よりも、過剰なラジャスとタマスから離れ、「最初は毒のよう」な困難と向き合いそれを乗り越えた先にある「結末は甘露のような幸福」、サットヴァ的な甘やかな人生を目指すために、ヨガのプラクティスを活用します。
日常の時間的なペースだけでなく、感情の動きのペースや心の動きのペースをスローダウン(Slow down)させることも、甘さを生み出します。それは自分を甘やかしているのではなく、サットヴァ(Sattva/純質的)な幸福感を心地よく感じられるゆとりです。
しがみつく強さではなく手放す強さ
そしてヨガは、どんなこともしなやかに切り抜ける(Survive)、強さ(Strength)と柔軟性を身につける手助けにもなります。
自分自身を変えることで、自分につきまとう問題も解決できるし、まわりとの関係性も変わるのです。
何かにしがみついて執着し、どうにもならないことをどうにか力任せに変えようとしても、いい結果は生まれません。変えられない結果を、なんとかねじ曲げて自分の思い通りにしようとすることが、苦しみを生むのです。
例えば。
もう修復の不可能な関係にしがみついて、いつか相手の気持ちが変わるだろうと空しい希望を持ち続けて、時間ばかりが過ぎていったり。
例えば。
相手の気持ちが自分には向っていないことがわかっていることを認めながら、前に進むことを恐れて気づかない振りをしていたり。
それらはいい意味で我慢強さと言うこともできるかもしれませんが、どうにもならないことにしがみつく強情さであり、時には自分を傷つけ、まわりも傷つけるでしょう。
より良い未来を歩んでいくためには、しがみつく強さではなく、手放す(Surrender)強さを身につけることが大切なのだということも、ヨガを通して学べる生き方のひとつです。
人生の最終的な目的は、心の静けさ
この世界を生きていくわたしたちの人生それぞれには、それに関わる人たちとのコミュニケーションも含まれています。人はひとりで生きてはいけないのです。どこかで誰かと関わり合って、協力したり妥協しながら人生という時間を積み重ねていく作業の道の途中です。
そのため、他人の意見やエネルギーに支配され、心をかき乱されることもあるかもしれません。自分で自分を責めてしまうこともあるかもしれません。
そんな時こそヨガが身近にあることを思い出しましょう。ヨガで呼吸に意識を向けることで、自分の内側に目を向けることができます。自分に不要なエネルギーを手放すこともできます。
また呼吸に合わせて身体を動かすことで、自分の身体のいまの状態を冷静に観察することができます。どういう感情にとらわれているのか。身体はどう感じているのか。痛い?心地いい?苦しい?何も感じない?すべての気づきは、いま、この瞬間を生きている自分の生命の奇跡をも愛おしく感じられるでしょう。
そしてにっこり自分自身に微笑みかけましょう。何かに失敗してしまう自分に対して笑い飛ばすことで、心にゆとりが生まれます。
その先にあるのは、心の静けさ(Stillness)です。起こることすべてに意味があると感じられる心のゆとりを持って、シンプルに人生を歩んでいきましょう。
参考資料
- 「バガヴァッド・ギーター」(上村勝彦訳/岩波文庫)