上腕二頭筋・上腕三頭筋の解剖学:腕の力で身体を支えるアサナを極めよう

上腕二頭筋・上腕三頭筋の解剖学:腕の力で身体を支えるアサナを極めよう

今回は肩関節、肘関節を代表する上腕二頭筋、上腕三頭筋について解説したいと思います。

この2つの筋肉は、押す、引き寄せる、物を持つ、投げるといった動作をする際の上半身のメインパワーになる筋肉です。ヨガでは板のポーズ、賢者のポーズといった腕の力で身体を支えるアーサナで働きます。

この時、上腕二頭筋と上腕三頭筋がバランスよく機能することがポイントになります。今回はそのポイントについて解説したいと思います。

上腕二頭筋:上半身の筋肉量を象徴

上腕二頭筋は腕を曲げた時にできる力こぶの筋肉です。ボディビルダーやアスリートが自分の筋肉を見せる時によく上腕二頭筋を見せていますよね。上半身の筋肉量を象徴する筋肉と言っても過言ではありません。

起始
  • 上腕二頭筋長頭・肩甲骨関節上結節、上方関節唇
  • 上腕二頭筋短頭・烏口突起
停止 上腕二頭筋長頭、短頭・橈骨粗面、前腕屈筋筋膜
作用
  • 肩関節屈曲
  • 90度外転位では水平屈曲
  • 肘関節屈曲
  • 前腕回外

主な動き:日常的に重たいものを持ち上げる

上腕二頭筋の作用は主に肘を曲げる動作(肘関節屈曲)と腕を前から上げる動作(肩関節屈曲)になります。

日常生活で上腕二頭筋が活躍する場面は荷物を持ち上げる、子どもを抱っこする、物を引き寄せるような上半身に力が必要な場面です。特に肘を曲げて顔の高さくらいまで持ち上げる時です。イメージで言えば子どもを高い高いする時に肘と顔が同じ高さにくるタイミングです。

そのため、上腕二頭筋が弱いと重たい物を持つことが難しくなります。

この上腕二頭筋ですが、力をとても発揮する分とても硬くなりやすい筋肉でもあります。

使いすぎると猫背を招く筋肉

例えば、重たい物を持つことが多い職業の人は上腕二頭筋が働く時間が長くなります。ということは上腕二頭筋が収縮し続けることになりますので、いざ筋肉を伸ばそうと思っても上腕二頭筋は上手く伸びてくれません。

この状態になると上腕二頭筋を使い続けると肩のあたりにある上腕二頭筋長頭腱という上腕二頭筋の付着部がストレスを受けてしまい、上腕二頭筋長頭腱炎、上腕二頭筋長頭腱断裂を発症する可能性があります。

このように上腕二頭筋の伸張性が無くなり短縮してしまうと、上腕骨頭が前方に引っ張られるため、肩が内側に入り結果的に猫背姿勢になってしまいます。

このような状態になると、仰向けで寝てリラックスしようとしても肩が床から浮く(上腕骨頭が前方に引っ張られる)ので、上半身が床にフィットせず違和感を生んでしまいます。こうなると寝ていても完全にリラックスするのは難しいでしょう。

ヨガをした最後に屍のポーズで身体が床にフィットして心身のリラックスができる理由の1つとして、ヨガをすることで上腕二頭筋の緊張がほどよく緩み、肩を床につけてリラックスすることができるからです。

上腕筋を伸張するオススメのポーズ

上腕二頭筋を鍛える方法はダンベルやウェイトマシーンを使うトレーニングがメインであり、自重ではほぼ鍛えることはできません。

そのため、ヨガでは上腕二頭筋を特別使うアーサナはありません。男性で上腕二頭筋を鍛えたいと考えている人はヨガではなくウェイトトレーニングをするのが無難です。

逆に上腕二頭筋をストレッチするアーサナのほうが多いです。肘を伸ばして腕を後方に引く動作をするアーサナで上腕二頭筋をストレッチします。

上腕二頭筋を伸張するアーサナ
上腕二頭筋を伸張するアーサナ

  • プルヴォッターナ・アーサナ(東のストレッチ:仰向けの状態で指先を足のほうに向けて両手を体側に置き、両手と足の裏で床を押して身体をマットから浮かせるポーズ)
  • ダヌーラーサナ(弓のポーズ)
  • セツバンダーサナ(橋のポーズ)

など肘を伸ばして腕を後方に引く動作をするアーサナで上腕二頭筋をストレッチします。

猫背が気になる人はこれらのアーサナをすると上腕二頭筋の柔軟性が上がり、姿勢改善につながります。

上腕三頭筋:プッシュする筋肉

上腕三頭筋の機能解剖

上腕三頭筋は力こぶの上腕二頭筋の反対側に付いている、言わば「二の腕」の筋肉です。なので作用は上腕二頭筋の真逆となります。

起始
  • 上腕三頭筋長頭・肩甲骨関節下結節
  • 上腕三頭筋短頭・上腕骨近位背側面で橈骨神経溝より近位
  • 上腕三頭筋内側頭・上腕骨近位背側面で橈骨神経溝より遠位
停止 上腕三頭筋長頭、短頭
尺骨肘頭
上腕三頭筋内側頭
尺骨肘頭、肘関節後方関節包
作用 肩関節伸展・肘関節伸展

主な動き:肘を伸ばす、腕を後ろに引く

肘を伸ばしたり(肘関節伸展)、腕を後ろに引いたりする動作(肩関節伸展)で上腕三頭筋は働きます。

日常生活では上腕二頭筋は先ほども述べたように肘を曲げる動作になるので物を引き寄せる”プル動作”を行います。では、上腕三頭筋は日常生活でどのような場面で働くかと言うと、物を押す、床から立ち上がる時に手で床を押す、など立つ場面です。これを”プッシュ動作”と言います。

例えば、下半身麻痺で車イス生活を送っている人が車イスやベッドに移乗する際や高齢者が床やイスから立ち上がる時に手で支える場面で上腕三頭筋が働きます。これは手で床やイスをプッシュして身体を持ち上げているからですね。

上腕筋を鍛える・伸張するオススメのポーズ

上腕三頭筋を鍛えるアーサナは、上腕二頭筋を伸張させるポーズとも言い変えることができるため、下記のような、腕の力を使って身体を支えるポーズで上腕三頭筋を鍛えることができます。

上腕三頭筋を鍛えるアーサナ
上腕三頭筋を鍛えるアーサナ

  • クンバカーサナ(プランクポーズ・板のポーズ)
  • プルヴォッターナ・アーサナ(東のストレッチ)
  • バシシュタアーサナ(賢者のポーズ:プランクのポーズから身体を壁に向けて片手を上に伸ばしたポーズ)

では上腕三頭筋の伸張性が低下するとどうなるでしょうか。

上腕三頭筋の作用は肘を伸ばす(腕の伸展)、腕を後ろに引く(肩の伸展)動作であり、上腕三頭筋が最も伸びるのは肘を曲げた状態で腕を前から上げるようなポジションです。そのため、伸張性が低下すると肘を曲げる動作、腕を前から上げる動作が制限されます。

ゴムカーサナ(牛の顔のポーズ)、アルダピンチャマユーラーサナ(イルカのポーズ:ダウンドッグで肘を床につけたポーズ)などの肘を曲げて腕を上げるアーサナをする際に腕が上手く上がらない人は、上腕三頭筋の伸張性が低下している可能性があります。(腕を上げる制限因子は他にもあり、必ず上腕三頭筋が原因というわけではないので注意してください。)

このような場合は上腕三頭筋の柔軟性を高めることで解決することができますので、一度入念にストレッチをしてからアーサナに取り組んでみましょう。

今回は肩関節、肘関節を代表する上腕二頭筋、上腕三頭筋について解説しました。この2つの筋肉は相反する動きをするため片方だけ筋力強化やストレッチしても意味がありません。

それぞれの機能を理解した上でアーサナに取り組むとより良いものになるはずです。