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アメリカで進む医療現場でのヨガ、遅れる日本
「ヨガは腰痛に効果がある」インストラクターならば、誰でもそう思っているのではないでしょうか。
実際、アメリカの医療現場では、腰痛には薬よりも代替療法が勧められており、その中には「ヨガ」も含まれています。一方、薬が勧められる日本の医療。この2つの違いはどこにあるのでしょうか。問題は、日本ではヨガのエビデンス(科学的根拠)が不十分なことと、国が認める資格制度がないことの2点。アメリカでは、ヨガの研究が盛んであり、ボストン大学などの有名大学でも、ヨガに関する研究が行われています。また、研究の中で行われるヨガレッスンを担当するインストラクターは、100ページ以上にも及ぶマニュアルを勉強する必要があります。ここまでやっているからこそ、ヨガの効果が実証されているのです。
今回は、アメリカで行われた『腰痛に関する研究結果』と、その研究に用いられた『インストラクター向けのマニュアル』を徹底解説します!
腰痛へのヨガの効果は理学療法に匹敵!
ヨガの科学的研究が盛んなアメリカ。昨年にも、
という新しい研究結果が発表されました。この研究は、12週間以上続く腰痛をもつ方320人を対象に、ヨガクラスに参加する人(ヨガ群)、理学療法を受ける人(理学療法群)、腰痛管理に関する本を受け取る人(教育群)の3群に分け、12週間後に痛みなどの指標を比較しました。ヨガ群は48%の人が改善し、この効果は教育群(23%)よりも大きく、理学療法群(37%)と同程度でした。
この研究を受けて、アメリカの医師は「素晴らしい研究結果である」と評価しています。一方で、効果が得られなかった人も多い点を忘れてはなりません。ヨガに限らず、全ての人に効果がある腰痛の治療法はないと言われています。一人一人に合う腰痛改善法を見つけるのが重要です。その選択肢の一つとして、多くの方にヨガを試してみて欲しいですね。
腰痛対策用の12週間ヨガプログラムの中身とは
前述した研究でヨガレッスンを担当するには、100ページ以上に及ぶマニュアルを勉強する必要があります。その内容は、
- ヨガの歴史
- 腰痛に関する医学的な内容
- レッスンにおける軽減ポーズ
など細かい点にまで及んでいます。その中でも、今回は12週間のヨガプログラムについて概要をご紹介します!
このプログラムは、週に1回75分のレッスンを12週間行います。4つのセグメントに分け、各セグメントにタイトルをつけレッスンの目標を明確にしています。それは以下の通りです。
- 第1セグメント(第1~3週目):オープニング
- 第2セグメント(第4~6週目):身体の声に耳をすます
- 第3セグメント(第7~9週目):自分のパワーを引き出す
- 第4セグメント(第10~12週目):家でも出来るように
腰痛持ちのヨガ初心者が12週間かけて、「自宅でもヨガを用いて腰痛のセルフケアが出来るようになる」ということを目標にプログラムが組まれています。
「自宅でも」というのがこの研究のキーポイントです。薬やマッサージに頼っていると、病院やマッサージ店に通い続けなければなりません。一方ヨガは、3ヶ月通った後、自宅でセルフケアが出来る可能性がある、ということです。これは、腰痛があってもお金や時間の事情で治療が出来ない人にとって、大変メリットがあります。たった12週間でセルフケアが出来るまでになる、このレッスンの内容が気になりますよね?続いて、各セグメントの内容について詳しく紹介します!
オープニング(第1~3週目)
第1セグメントでは、「ヨガ」について1から学ぶセグメントです。具体的には、全てのセグメントで行われる内容である以下3点の基礎を学ぶ期間です。
- (A)呼吸のコントロール方法 (普段の呼吸に気付く、呼吸を均等にする)
- (B)アーサナ (チャイルドポーズ、コブラのポーズ、橋のポーズetc.)
- (C)ヨガ哲学 (ヨガの定義、非暴力、正直)
ヨガ哲学は各レッスンのハイライトになります。ここでは、ヨガ哲学がヨガの練習や普段の生活にどのように適用されるか、という点について学びます。「腰痛のためのレッスンでヨガ哲学?」と思う方も多いでしょう。ですが、このヨガ哲学の時間によって、参加者のセルフコントロールを促し、腰痛の改善に直結する内容だと位置づけられています。
身体の声に耳をすます (第4~6週目)
このセグメントでは、自らの身体の声に耳をすまし、自分を受け入れることに重点が置かれます。呼吸法では、まず下腹部に手をあて、手を当てている部位が呼吸と共に動いているのを感じます。
同じ練習を肋骨の脇・胸と手をあてる場所を変えて行い、最終的には、全ての動きを組み合わせて、吸う息では下腹部から胸まで満たされ、吐く息では胸から下腹部にかけて出ていく様子を観察できるように練習します。また、第1セグメントで行ったアーサナに加え、壁を使ったダウンドッグやトリコナーサナなどを行い、背骨を支える筋肉を目覚めさせるように導きます。
自分のパワーを引き出す(第7~9週目)
このセグメントでは、チェアポーズや壁を使った戦士のポーズⅠなど、難しいポーズに挑戦することで、よりしなやかで強い腰へと導きます。また、ただポーズをとるだけでなく、ポーズをとる時に自分自身を見つめることにチャレンジしていきます。
ポーズの最中に、「緊張しているか」「リラックスできているか」を確認し、必要があれば自分自身でポーズを修正するよう促します。そして、自分にとって心地よいポーズとそうでないポーズを確認していく段階です。ここで重要なのは、インストラクターが教えるのではなく、生徒さん自分自身で「気づく」「知る」ということです。
家でも出来るように (第10~12週目)
前回のセグメントでは、自分自身で「気づく」ということに焦点をあてました。このセグメントでは、前回までの「気づき」を踏まえて、インストラクターなしでも自宅でセルフケア出来るように導きます。参加者には、「ヨガによって、自分の背中がどう変わったか?」聞き、12週間のヨガプログラムを終えた後もヨガを練習するよう促していく段階です。
また、これまで家で行ったヨガの練習をやってみて出てきた疑問にも丁寧に答えていくのがインストラクターの大切な仕事です。最後のレッスンでは参加者の皆さんにお礼と12週間頑張ったことを褒めるのを忘れずに。
以上が、理学療法に匹敵する効果が実証されたヨガプログラムの概要です。インストラクターが全て教えるのではなく、生徒さん自身が「気づく」「知る」ことが重要な点でした。ついつい、インストラクターの立場だと「教える」ことにフォーカスをあててしまいがちですが、ぜひ生徒さん自身に自分自身の身体と向き合ってもらい、「気づく」お手伝いができるインストラクターを目指しましょう!
腰痛持ちの人を指導する際に気を付けること
ここまで、腰痛対策用ヨガプログラムについて解説してきましたが、「難しいポーズ」といって出てくるアーサナが「基本的なポーズ」だと感じる方も多かったのはないでしょうか。ここが、重要なポイントです。研究を行った先生も
と述べています。「無理をして逆に悪化してしまった!」なんてことがないように、腰痛持ちの方を指導する際には以下の点に注意しましょう。
- 自分の身体と向き合い、無理をしないように導く
- 壁や椅子を使った軽減ポーズからチャレンジする
- 徐々に難易度を上げていく
以上、腰痛対策用ヨガプログラムを紹介しました。日本でも、このような研究が進み、ヨガの効果が実証される日が待ち遠しいですね。
参考資料
- Amir Qaseem, et al” Noninvasive Treatments for Acute, Subacute, and
Chronic Low Back Pain: A Clinical Practice Guideline From the American College
of Physicians” Ann Intern Med, 2017;166(7):514-530. - 腰痛診療ガイドライン2012
- Saper RB, et al “Yoga, Physical Therapy, or Education for Chronic Low Back Pain: A Randomized Noninferiority Trial,” Ann Intern Med, 2017 Jun 18;167(2);85-94.