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緊張して失敗する過去の私
- オーディションや面接になると緊張して、いつもの自分が出せない
- いざ、インストラクターとしてデビューするかと思うと緊張して怖い
こんなふうに、インストラクターという人前に出る仕事ならではのお悩みをお持ちの方はいらっしゃいませんか?実はこの悩み、すべて私が過去に抱いていた悩みです。
私はインストラクターになる前から、いわゆるあがり症でした。子どもの頃のピアノの発表会では、超スピードで弾き始めてしまい上手く弾けず、大学の卒業発表では頭が真っ白になりシドロモドロ。就職活動での面接ではフリーズして沈黙する等々、「穴があったら入りたい!」と思った経験は数え切れません。
そんな緊張している時の身体がどうなっているのかを思い返すと、決まって同じような反応をしています。私の場合、まず心臓がドキドキしてきます。そして、まるで自分の身体が振動器の上に乗っているかのように、手や足・声までもが震え、制御が出来なくなります。冷や汗も出てきて、大量の手汗に悩まされます。こんな状況になると、「あぁ、失敗したらどうしよう」という不安が襲ってきて、そして実際に失敗するのです。
とはいえ、緊張していてもなんとか上手く切り抜けることができた経験もあります。ある会社の面接では、嫌な質問をされても上手く回答できましたし、苦手なプレゼンも、回数をこなしていくうちに、プレッシャーのかかる場面で上手くできたこともありました。
緊張して失敗することが続くと、さらに不安になって失敗してしまうし、逆に緊張する場面で上手くいくと、次もなんとか上手くできる気がしてきませんか?
その通りです。緊張している時に成功するか失敗するかは、気持ち(=マインドセット)に大きく左右されるのです。まずは、その証拠となる実験をご紹介します。
緊張とマインドセットの科学
この実験では、参加者に「自分の強みと弱みについて語る3分間の即興スピーチ」にチャレンジしてもらいます。スピーチの内容はもちろん、ボディランゲージや立ち振る舞いなどすべてが審査対象で、行動分析の専門家である審査員によい印象を与えるよう指示されます。
これだけでも緊張してしまいそうな状況ですが、実は、審査員は専門家ではありません。実験参加者らにできる限り嫌な思いをさせるために雇われたスタッフなのです。
実験参加者があいさつしても笑顔であいさつを返すことなどなく、無表情で沈黙したまま。スピーチ中には、あえて「眉をひそめる」「ため息をつく」「しかめ面をする」「イライラと足踏みする」など、徹底的に否定的なそぶりをします。それだけでなく、「全然ダメですね」や「もう結構です」といった言葉をかけ、参加者を苦しめるのが審査員の役目です。
さて、こんなひどい即興スピーチが待っているとは知らない実験参加者には3グループに分かれてもらい、それぞれ下記の内容を行ってもらいます。
Aグループ:ビデオ視聴
<ビデオ内容>※すべて真実の内容
- 緊張した時に心臓がドキドキするなどストレス反応が起こるのは、状況を乗り超えるのに必要なエネルギーを結集するためである。
- 心臓がドキドキしているのを感じたら、それはあなたの身体と脳に沢山の血液と酸素を送り込もうとして頑張っている印である。
- 不安やストレスを感じたら、身体のストレス反応は役に立つということを思い出すように。
Bグループ:ビデオ視聴
<ビデオ内容>※すべて嘘の内容
- 緊張を和らげて実力を発揮するには、ストレスを感じても無視をすることが一番良い。
Cグループ:テレビゲーム
- テレビゲームで遊んでストレス発散するよう指示を受ける。
上記の内容を行った後、先に述べた即興スピーチに挑んでもらいます。
結果は、Aグループだけが、他のグループに比べて良いでき栄えでした。Aグループの審査員が甘かったというわけではなく、Aグループの人たちは、他のグループの人たちと同様大きなストレスを感じている中、それを力に変えることができたのです。
緊張による良い影響と悪い影響
前回の記事で、「ストレスは良い面と悪い面がある」ということをお伝えしました。
これに当てはめると、Aグループの人たちはストレスの良い影響を受け、B・Cグループは逆に悪い影響を受けた、ということです。
ストレスがかかると、ストレス反応と呼ばれる様々な変化が脳や身体に起きます。このストレス反応にはいくつか種類があり、どのストレス反応が起こるかによって、良い面と悪い面どちらの影響を受けるかが決まってくるのです。
B・Cグループの人たちは、命の危険を回避するために動物に備わっている本能による反応が起きました。つまり、心拍数があがり、呼吸が速くなり、血管は収縮し、筋肉が緊張して、闘ったり、逃げたりする準備をするのです。そして、思考や消化活動など逃げるのに不要な活動は停止します。これらは、狩猟などをしていた大昔には役に立った反応ですが、残念ながらスピーチのできを良くすることにはまったく役に立ちません。
一方Aグループの人たちは、B・Cグループの人たちと同様に心拍数が上がり、脳や筋肉にエネルギーが送り込まれました。ただし、異なるのはストレスホルモンの割合です。前回紹介した善玉ストレスホルモン「DHEA」の割合が高くなることで自信が湧き、集中力や勇気が出てきて、最高のパフォーマンスを発揮することができたのです。これは、ストレスはかかっているけれど、身の危険を感じていない時の反応です。
緊張を味方につける超簡単エクササイズ
それでは、ここまでの知識を活かして、緊張を味方につけるエクササイズをご紹介します。
それは「身体が助けてくれる」と思うこと、それだけです!具体的には下記のように考えます。
- 心臓がドキドキした時
- 呼吸が速くなった時
- 緊張や不安で落ち着かない時
→心臓が一生懸命血液を送って、身体にエネルギーを届けようとしてくれている!
→肺が一生懸命呼吸をして、身体に酸素を届けようとしてくれている!
→この瞬間が「大切である」と感じている証拠。
その大切なことを乗り越える力が自分には備わっている!
上記のように考えることで、緊張を打ち消そうとするのではなく、緊張を受け入れていきます。深呼吸して心を落ち着かせるのではなく、エネルギーがみなぎっているのを感じることができたら、それは緊張が味方になった瞬間です!
マインドセットで自分の力を引き出そう
私自身、ストレスに対するマインドセットが変わったことですごく大きな変化を感じています。
例えば、インストラクター採用の面接などで模擬レッスンをする時です。以前だったら「緊張して頭が真っ白。壊滅的にダメだった」なんて結果になりかねませんが、緊張してもそれなりに上手く乗り越えることができるようになってきました。
こうした恩恵を感じるのは、レッスンや面接、オーディションの場だけに留まりません。「自分には無理かも」と思うようなことにもチャレンジできるようになった結果、ヨガに関する仕事の幅も広がってきています。このヨガジェネレーションへの記事執筆もその1つです。
ここで重要なのは、こうした恩恵を受けている私が「緊張しなくなった」もしくは「不安や恐怖を感じず、自信だけが湧いている」、というわけではありません。今でも恐らく、人よりも緊張しやすいと思いますし、不安も感じます。お目にかかったことのない人、もしくは数回しかお話したことがない方と電話をすることにも、不安や緊張を覚えます。
では、何が変わったかというと、緊張や不安を心の奥に押し込めて蓋をしてしまおうとしなくなったということです。緊張や不安を受け入れて、「身体が助けてくれている」と思うことで、自分の力を引き出せるようになったのです。
同じお悩みをお持ちの方、今日から「身体が助けてくれる!」と思うエクササイズを実践し、緊張を味方にしてみませんか?
参考資料
- ケリー・マクゴニガル(2015)『スタンフォードのストレスを力に変える教科書』神崎 朗子訳, 大和書房
- Jamieson JP, et al, J Exp Psychol Gen, 2012 Aug ; 141(3): 417–422