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突然ですが、我々のヨガスタジオ『WellnessLabo.』はALLYを表明しています。
ALLY(アライ)をご存知ですか?LGBTなど、困りごとや問題に直面している人々と連携しながら、これを自分たちの問題として主体的に取り組む人を指す言葉です。「同盟」や「連盟」を意味するAllianceが語源になっています。
LGBTの方を漠然とは理解しているつもりではありましたが、主体的に取り組む必要があるのではないか。それが、私達がALLYを表明した理由です。
当スタジオでレッスンを受け持っている、個人的な友人でもある翔太先生(通称・お松)はLGBTです。精神保健福祉士の資格をもつヨガティーチャーで、当スタジオでは患者様向けのヨガレッスンを受け持ってくれています。
先日翔太先生と筆者とでオフィスヨガを開催するため、とある会社に伺ったときのこと。ヨガのレッスン後、歓談していたときに一人の社員さんがALLYのステッカーを社員証につけていたのを見つけて……
幼馴染がレズビアンだったことや、翔太先生が身近にいることでLGBTの方のことを理解しているつもりになっていましたが、自分ごととしては考えていなかったことに気付かされました。何か私達にできることがあれば……そんな気持ちでALLYを表明することにしたのです。
一人ひとりがLGBTを正しく理解することが大切
LGBTとは、Lesbian(レズビアン、女性同性愛者)、Gay(ゲイ、男性同性愛者)、Bisexual(バイセクシュアル、両性愛者)、Transgender(トランスジェンダー、性別越境者)の頭文字をとった単語で、セクシュアル・マイノリティ(性的少数者)の総称のひとつです。
国内外の様々な調査から、LGBTの方は全人口の7〜10%程度といわれています。左利きの方が10%程度といわれていますからその多さがわかりますね。
ここで注意を要する言葉として「オネエ」「おかま」「ホモ」「レズ」があります。うっかり使ってしまうこともある言葉だと思いますが、侮蔑的なニュアンスがあると受け取る方もいらっしゃるので、公式には「LGBT」または「レズビアン」「ゲイ」「バイセクシャル」「トランスジェンダー」と、省略せずに表現するのが適切なことば使いです。
「SOGI」への理解の連鎖が、差別や偏見なき社会を作る
ではLGBTの方をめぐる課題は何でしょうか?それはもちろん性的指向や性的自認を理由とした差別・偏見の解消です。性別・人種・民族・肌の色・障がいの有無と同じように、性的指向・性自認のいかんにかかわらず、誰もが平等・公平に扱われるべきなのです。それらの課題を理解するとき理解しておくべき言葉がSOGI(ソジ)です。
- SO(Sexual Orientation):好きになる相手の性別(性的指向)
- GI(Gender Identity):性別に関するアイデンティティ(性自認)
SOGIは、マイノリティかマジョリティかを問わず、すべての人にかかわる要素です。「LGBTが困っているから助ける、支援する」のではなく、「SOGIを理由とした差別・偏見をなくしていこう」というアプローチの転換が、ダイバーシティ&インクルージョン施策に求められているのです。
精神医学では性同一性障害が疾病ではなくなろうとしている
世界保健機関(WHO)が発表している「国際疾病分類(ICD)」が世界の医学界の疾病の基準となっていますが、2018年に11番目の改訂版(ICD-11)が公表されました。
その中では性同一性障害が「精神障害」の分類から除外され、「性の健康に関連する状態」という分類の中の「Gender Incongruence(性別不合)」に変更され、これにより、出生時に割り当てられた性別への違和が「病気」や「障害」ではないと宣言されることになりました。
今まで疾病に分類されてきたことこそが、スティグマ(LGBT等の属性にネガティブなレッテルを貼ること)や差別を生んできたともいわれています。今回の変更によって、これまで「性同一性障害」の人たちが受けてきた差別が解消されることが期待されています。
さらに全米ヨガアライアンスの認定基準の改定でも、これまでヨガが限られた人のみに提供されてきたという反省点から、ダイバーシティ、アクセシビリティ、インクルージョン、およびエクイティ(DAIEカリキュラム)をRYT(全米ヨガアライアンス認定のヨガ指導者養成コース)のコースに組み込むことを求めています。
このように確実に世の中は変化しており、我々の意識の変革が求められているときでもあります。
翔太先生にとってのヨガとは
翔太先生にも人生が辛い時期はあったといいます。
学校や職場で過剰に「男らしさ」を求められ、どうしても馴染めず、常に自分の居場所がないような感覚があったといいます。その感覚から、学校や職場では鎧を着て触れられないようにしており、孤独だったと振り返ります。本当の自分のあるべき姿にとどまれず、周囲からは男らしさを強要される。とてもつらい日々であったことは容易に想像できます。
そんな中、翔太先生はヨガに出会います。
ヨガの学びを深めるうちに、自己を見つめ、本来の自分自身に気づき鎧を脱ぎ捨てられたのだと振り返ります。ヴェーダの一節にもあるように自分を自由にするためにヨガはあるのです。
人間は自由になるためにこの世界にきた。自由になる術は、自分の真実を知ることにある。苦悩しているという考えは実体のない物にすぎない。本当に実体があるのは、考えを観る存在であり、考えの本質である自分自身である。
自分自身とは、自由で、幸せの意味である。ヨガとは、自分の本当を知り、一切の苦悩から自由な本来の自分自身に帰る道であり、真実に至る生き方なのだ
ヨガがダイバーシティに貢献する
さらに翔太先生はヨガがダイバーシティに貢献できると指摘しています。
ダイバーシティとは個人や集団間に存在する様々な違い、すなわち多様性を尊重することです。ヨガを実践していると、自然と人に対して寛容になることを実感します。筆者の師である友永淳子先生の言葉を借りると……
ヨガでは勝敗にとらわれることなく自らの内面の世界を広げながら、生きる姿勢を内なる自らの力(内在智)によって学び、力強く、懸命に生き抜くことが気負いなくできる方法
このことを実践を通して学んでいるのです。お互いの自由を認め、調和し続ける広い心と思いやりやさしさを持つこと。ヨガの実践を通じて実感するこの力こそ、ダイバーシティに役立つはず。
社会の発展には多様性が不可欠とされます。今後ますます、ヨガのもつ寛容力・包容力が、世の中に求められていくのではないかと思います。
排除の代償(動画)
参考資料
- OUT IN JAPAN Project#15 松浦翔太
- 『職場におけるLGBT・SOGI入門』(特定非営利活動法人 虹色ダイバーシティ、2019年)
- WHOの「国際疾病分類」が改訂され、性同一性障害が「精神疾患」から外れることになりました
- The Ethical Commitment
- 向井田みお『やさしく学ぶYOGA哲学 ヨーガスートラ』(アンダーザライト、2015年)
- 友永淳子『母と子のヨーガ健康法 入門篇』(総合科学出版、1985年)