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私たちの身体の中にはプラーナ(気)という生命エネルギーが流れています。これは生命活動を維持するために欠かせません。ハタヨガは、体内を流れているプラーナをコントロールする実践でもあります。
この体内を流れるプラーナ(気)の通り道がナーディー(気道)です。ナーディーを整えることは自分のエネルギーを健康的な状態に整えるためにとても大切です。
プラーナの流れとナーディーの関係
プラーナとは、元来自然界を動かしているエネルギーのこと。私たち人間は、体内に取り込んだプラーナによって、生命を維持しています。
人間はプラーナなしでは生きていくことができません。動くこと、考えること、食べること、話すこと、全ての活動はプラーナによって行われているのです。ヨガのプラーナヤーマ(調気法)とは、体内に取り込んだプラーナをコントロールするための実践です。
自然界に流れているプラーナを体内に取り込むためには、食事によって口から摂取するか、呼吸によって鼻から息を取り込む必要があります(息をするための器官は鼻であるため、口呼吸は基本的に行いません)。
呼吸によって体内に取り込まれた息は、ナーディーと呼ばれる気道を通って体内に流れます。ナーディーはプラーナ運ぶための大切な器官であるため、ヨガではナーディーの状態を常に良い状態に保つようにします。
体内のナーディーの種類
ナーディーとは、呼吸による息だけにとどまらず、生きるためのエネルギー全てを通す気道です。体内にはたくさんのナーディーが存在しています。
人間の体内には35万のナーディーがあり、その中で主要なものは14本である。(シヴァサンヒター2章13節)
ハタヨガプラディーピカによると、体内には35万のナーディーがあります。もちろん、それら全てを自覚することはできません。しかし、主に重要なものには下記の14種が挙げられます。
- スシュムナー
- イダー
- ピンガラ―
- ガーンダーリー
- ハスティジフヴィカー
- クフー
- サラスワティ
- プーシャー
- シャンキニー
- パヤスヴァニー
- ヴァールニー
- アランブサー
- ヴィシュヴォーダリー
- ヤシャスヴィニー
この14種のナーディーの中で、プラーナヤーマで意識しなければいけないのはスシュムナー・イダー・ピンガラの3つの気道です。
これら3本の気道の入り口は下にあり蓮の糸のように細い。これらのナーディは背骨に沿っていて、月と日と火を表している。(シヴァサンヒター2章17節)
イダーは左の鼻孔から入ってくるプラーナを通す気道で月を表します。ピンガラは右の鼻孔から始まり太陽を表す。スシュムナーは背骨に沿って存在し、火を表します。
プラーナヤーマによってプラーナをコントロールする
プラーナヤーマの実践では、体内のナーディーに流れるプラーナの分量を調節しながら、体内のエネルギーの状態をコントロールします。
たとえば、ナーディーのうち月と太陽を表す「イダー」と「ピンガラ」を流れるプラーナの分量をコントロールすることで、身体の状態をアクティブにしたり、リラックス状態にすることができます。
プラーナヤーマには、左右の鼻孔を使ったり、呼吸の長さや強さを調節する。さらにバンダ(締め付け)を加えるなど、多様な技術があり、各テクニックに応じて、必要な効果を得ることができます。
身体の中心を流れるスシュムナー
体内で最も大切なナーディーは、身体の中心を流れる「スシュムナー」です。この、スシュムナーの中心部分の細い通り道を「チトラー」と呼びます。
スシュムナーの中心を通っているチトラーは5色に輝き純粋である。スシュムナーの中心に表れるチトラーは、身体全体の中心である。(シヴァサンヒター2章19節)
スシュムナーの中をプラーナが流れることで、私たちは本来自然から与えられたエネルギーを活用するこができます。
気道が詰まっていると気が流れない
本来プラーナはナーディーを通って身体の隅々まで流れるようにできていますが、ほとんどの人が、ナーディーの中に汚れが詰まっていて、プラーナを上手く流せないでいます。
ゲーランダ曰く、
気道が汚物で詰まっている間は気は気道を流れない。どうしてプラーナヤーマの成就があり得るというのだろう。どうして真の智が訪れよう。よって、まずは気道を清浄し、それからプラーナヤーマを行うべきである。(ゲーランダ・サンヒター5章35節)
血管を流れる血液の関係ととても似ています。特にスシュムナーの中心にあるチトラーはとても細く、プラーナが流れにくい。そのため、ヨガ実践者は様々なプラーナヤーマや日常生活を整えることでナーディーの中の汚れを取り除きます。
日常生活が崩れてもナーディーは汚れる
ハタヨガの経典には、プラーナヤーマの実践方法の前に、必ず適切な食べ物について説明されています。特に実践の初期では、消化しやすい食べものを勧めています。
実践の初期の段階では、牛乳とバターを加えた食べ物が適している。その後、修練が確固たるものになった暁には、かかる規制を守る必要はない。(ハタヨガ・プラディーピカ2章14節)
心の状態もコントロールする必要があります。身体・心・呼吸は常に連動しているからです。タマス(鈍性)の思考に偏っていると身体、呼吸さえ純粋さを失ってします。
心理的なストレスによって血液中のコレステロールや糖分が上がり血管が傷ついてしまうことは広く知られていますが、同じようにプラーナを流すためのナーディーにも汚物を溜め、エネルギーの流れを阻害してしまいます。
上手く自身を整えることができない時は、3つのうちの1つを整えることが大切です。
- 精神的なストレスの原因を整える
- 物質的に身体を整えるためのアーサナの実践をしたり、食べ物に気を使う
- プラーナヤーマの実践によって、ナーディーを清浄してプラーナの流れを整える
身体・心・呼吸の1つを整えることによって、他の2つにも変化をもたらすことができます。古典的なハタヨガではプラーナヤーマの実践で身体の中心を通るスシュムナーを清浄することがとても重要とされるため、食べ物への規定があり、またストレスの元になる人の多い場所から離れた場所での実践を勧めています。
ハタヨガにとって最も大切なナーディーであるスシュムナー
身体の中心を通っているスシュムナーは最も大切なナーディーです。スシュムナーは身体の根底部分のムーラダーラチャクラから、頭頂のサハスラーラチャクラまで通じています。
ムーラダーラチャクラには、クンダリニーと呼ばれる力が宿っています。通常の人間にとっては未開の潜在能力です。プラーナヤーマの実践によって、左右を流れるイダーとピンガラのバランスが整い、クンダリニーを刺激すると、眠っていたクンダリニーが起きてスシュムナーの中を上昇します。
かくして、クンダリニーはスシュムナー気道の門を断固として押し開く。そうすると、科のプラーナは自然にスシュムナー気道の中を流れるようになる。(ハタヨガ経典プラディーピカ3章117節)
背骨沿いに通るスシュムナーには、途中でいくつもの門(チャクラ)があり、通常その中をプラーナが通ることはできません。クンダリニーが目覚めてスシュムナーの中を上昇していくことで、スシュムナーの中の流れを塞き止めている門を破壊。
そして、クンバカ(プラーナヤーマ)によってクンダリニーを刺激することで、スシュムナーの中が完全に通り、プラーナが流れ始めるのです。
プラーナがスシュムナーの中を通るようになると、他の2つのナーディー(イダーとピンガラ)は活動をやめ、チッタ(心・意識)はプラクリティから作られる対象から切り離されて、時間や死から解放されると説かれます。
その状態をラージャヨガに到達した状態と呼びます。サマディー(三昧)の状態です。
ヨガで身体の中を気が通りやすい状態にしましょう
プラーナの流れを認識することは簡単ではありませんが、呼吸に意識していると感じることができるようになってきます。例えば、シャバアーサナの状態で深呼吸をすると、身体が地面に沈んでいるような感覚になりますし、腕を上げるポーズなどでは吸う呼吸に合わせるととてもスムーズです。
アーサナの練習の時に、呼吸に合わせて、エネルギーが身体の中のどこで、どの方向に動いているかに意識を向けてみましょう。深い呼吸はナーディーの中の汚れを取り除いて、体内のエネルギーの働きを活発にしてくれます。