ヨガを指導していると生徒さんに対して上手くアーサナを指導できないという場面があります。
普段からヨガをされている人や過去にダンス、バレエ、体操などの競技をしていてボディイメージが良い人は、アーサナの形を見せてあげるだけで上手くいくことが多いのですが、ヨガの経験はもちろん、運動経験自体が少ない人は、アーサナを見せるだけでは、上手くいかない場合が多いのです。
これは当然のことでもあります。今まで経験したことのない動きをしてみてようと思っても、いきなりできるわけがありません。
日本には多くの職人さんがいますが、彼らは練習を積み重ねていく中で筋肉や関節の繊細な動きを感覚で覚えていきます。それが見事な職人技になるわけです。ですから、本来、見習い中の新人さんには、先輩が手取り足取り指導するのが一番です(見て覚えろという職人さんもいますが)。
新しい技術を覚えるうえで、使いたいのが頭ではなく“感覚”です。例えば、見て覚える(視覚)、言われて覚える(聴覚)、触られて覚える(触覚)。これが料理人なら匂いで覚える(嗅覚)、味で覚える(味覚)。
ヨガの現場でも、生徒さんに、この五感を上手く利用してもらえる指導法を取り入れれば、感覚的にスムーズに覚えてもらえるでしょう。
今回は、この五感のうち、触覚を用いた指導法について紹介します。
言葉よりも早く、正確に伝わる3つの方法
身体を誘導する
これは、もっとも一般的な方法で、アーサナを正しく行えていない人に対して身体に触れて正しい姿勢に誘導するというもの。
例えば「ダウンドック」を指導する場合、脊柱をニュートラルポジションで行うのが理想ですが、身体が丸まってしまう人がいたとしましょう。その時、脊柱が丸まっている部位に手を添えて、ニュートラルポジションへと誘導する。これが身体を誘導する方法です。
触れられることで、正しいアライメントポジションをつかみやすくなります。また、言葉だけでは理解しにくい部分も、ダイレクトに身体の動きをサポートしてもらうことで、アーサナの修正点を理解しやすくなるでしょう。こうした指導を繰り返すことで、生徒さんの身体感覚はどんどん繊細になり、正しいアライメントを覚えられる素地も培われていきます。
ただし、身体に直接触れる指導時には、注意が必要です。無理に誘導すると身体を傷つけてしまう場合もあるからです。
仮に生徒さんが高齢者で、元々加齢による脊柱の変形があった場合、無理矢理ニュートラルポジションに誘導すると脊柱のどこかを痛めてしまいます。指導者は、生徒さんの身体に直接触れる過程で、その人にとって負担にならない可動域を見極める、高度なテクニックが必要です。
タッピングで意識を高める
タッピングとはトレーニング指導時に用いられる手法です。方法は、意識してもらいたい筋肉を手指でリズムよくタップします。そうすることで自然と筋肉に力が入り、身体への意識が高まります。
これを、ヨガのアーサナ修正に応用できるのです。イスのポーズを指導するとしましょう。
このポーズは下肢の強さ、特に大腿四頭筋と大臀筋の筋収縮が必要になります。大腿四頭筋は意識しなくても筋収縮しやすいのですが、大臀筋の筋収縮が疎かになりやすいので、そんなと時、大臀筋を指でトントントンとタップ。すると大臀筋への意識が高まり、筋収縮を促すことができます。
抵抗を加える
誘導したい身体の運動方向に対して、抵抗を加えることで意識を高める手法です。例えば、「英雄のポーズⅱ」を指導する際、前側の股関節を開くように意識させたいのであれば、指導者が膝の外側から負荷をかけて股関節を閉じる方向に誘導します。
すると、アーサナを行う側は、その動きに抵抗するように股関節が開く方向に意識し始めるのです。キューイングで股関節を開くように伝えるのも効果はありますが、実際に触れて抵抗をかけるとより効果があると言えます。
臨床の現場では高齢者のリハビリで応用できます。抗重力下にて腹筋、背筋が弱化し円背姿勢(えんぱいしせい)になっている患者様へのアプローチとしてイスに座ってもらい、頭頂部にセラピストが手を置いて骨盤方向に優しく押します。
これに対し抵抗するように脊柱を鉛直方向に伸ばしてもらうことで、ただ単に「背筋を伸ばしてください」とキューイングするより、抵抗が身体に直接語りかけてくるのでわかりやすいのです。
この方法を、座を組んで「プラーナヤーマ」をする前に用いれば、正しい姿勢で実践することが可能になります。
身体に手を触れる際の注意点
以上、3つ手法を紹介しましたが、この全てに言えるポイントは、生徒さんの身体に触れる時は指先ではなく、手のひら全体で優しく覆うようにしましょう。生徒さんの身体の状態は指先の感覚だけではわかりません。
生徒さんにとっても、指先では中途半端な触覚刺激になり、かえって集中力を妨げてしまいます。手のひら全体で覆うことで、生徒さんの身体を察知し安心感を与えながら、正しいアライメントへと誘導してあげましょう。
ただし、いずれにしても事前に身体に触れていいか確認を取ることを忘れないようにしましょう。中にはあまり身体を触れられて欲しくない方も当然います。そのような方に無理矢理触れてしまうとトラブルの元になります。男性インストラクターが女性の参加者へ指導する時は、特に注意が必要になります。
今回はヨガレッスンの質を高めるポイントとして触覚を用いた指導法について解説しました。この手法は大人数のレッスンよりセミグループレッスンのような参加者の人数が少ない時に特に生きてきます。是非指導の時に意識してみてください。