体験からひも解く「心を無にする」ということ

体験からひも解く「心を無にする」ということ

ヨガは「心の作用を止滅させる」ことが目標です。『ヨガ・スートラ』に書かれている八支則のうち、「5:制感」「6:凝念」「7:静慮」が、いわゆる瞑想の部分に当たり、心の作用を止滅させます。そして「無心」の状態になり、森羅万象との一体化を目指すのです。

ただ、この「無心」という状態が、イマイチよくわからないのが正直な感想です。なぜなら心は目に見えるものではないので、他者から心が無になっているか評価してもらうことができないからです。

スマホアプリで心の状態を数値化、視覚化できたら良いのですがしばらくは実現しなさそうです。こんな風に、無心に対して、素直に頷くことができない私ですが、じつは先日、その境地を体験。その経験を経て、いかに、無になる時間が重要なのかが腑に落ちました。

情報量を極限まで減らせば、無心へ至れる

とても複雑な東京の路線図、情報量の多さがストレスになることも。
とても複雑な東京の路線図、情報量の多さがストレスになることも。

私が体験した「無心」について、お話する前に、まずはその状態に至るメカニズムについて見ていきたいと思います。「無心」になるためには視覚・聴覚・触覚・嗅覚・味覚の五感をコントロールすることが大事になります。

特に、五感を通じて入ってくる「情報」を少なくすることが必要です。瞑想をする際、人が多くて雑多な生活音が聴こえてくる場所よりも、静かで落ち着いた空間で行いたいですよね。つまり、入ってくる情報が少ない環境ほど、瞑想に適しているということです。

インターネットやスマートフォンが普及し、多くの情報が入ってくる現代社会。この過剰な情報量こそストレスの元凶といえるでしょう。

私の経験談ですが先日、地元の広島から東京に訪問する機会がありました。都内での移動は電車を利用したのですが、都心は路線が多い為、駅構内の案内図一つとっても、多くの情報に溢れています。地方から出てきた私にとってそれは非常に大きなストレスになりました。加えて、電車内はディスプレイでの広告が流れていますから、何もしていなくてもどんどん、たくさんの情報が入ってくる。

過剰な情報が、精神をゆがませる

日常的に多くの情報が意図せずに入ってくるのが現代社会
日常的に多くの情報が意図せずに入ってくるのが現代社会

一方、広島は路線図もシンプルですし、ディスプレイでの広告もありませんので移動だけでも東京の情報量の多さに驚きました。情報は求めている人にとっては必要ですが、必要でない人や求めていても処理しきれない多すぎる情報量はストレスになります。

私も頭の中で処理しきれない情報にストレスを感じました。こうした現象は、都心の駅や電車に限ったことではありません。私生活、仕事、学生生活……など、日常的にも多くの情報が、意図せずに入ってくるのが現代社会です。そうした日々が続くと、自分と向き合うこともできず心身のストレスは溜まるいっぽう。そのストレスは、いつしか精神のゆがみとなって現れることでしょう。

何にも邪魔されない時間は、ヨガそのもの

雄大な景色を眺めて「無心」になる経験をした、山口県北長門海岸地域
筆者が雄大な景色を眺めて「無心」になる経験をした、山口県北長門海岸地域

さて、そんな情報過多な現代に生きながら、先日旅先で、自然と無心になる経験をしたのです。

私は旅行が趣味で、特に海岸線の景勝地や離島に行くことが好きです。私が住んでいる広島の海は瀬戸内の穏やかな多島美が特徴で、その穏やかな海を眺めているだけでも心が落ち着くのですが、たまに日本海や太平洋の広い海を見に行きたくなります。

そして先日、お休みをいただき山口県下関市から山口県長門市までの海岸線を走る旅行に行きました。北長門海岸地域は非常に海が綺麗な景勝地で、年1回は訪れる大好きな地域です。有名な場所として橋と水色の海が綺麗な「角島大橋」、目の前に広がる壮大な日本海と真っ赤な鳥居が立ち並ぶ姿が圧巻の「元乃隅稲荷神社」があります。

宿泊は、角島の近くのホテルにしたのですが、そこは露天風呂からの眺めがとにかく素晴らしい。目の前に広がる日本海、海に沈む夕日、角島、角島大橋…、圧倒されるほど雄大な眺めでした。そんな雄大な景色に圧倒されると人は、何も考えなくなるもの。

そう私も、この雄大な景色に触れ、「無心」を体験したのですが、入ってくる「情報」が極めて少なかったことも「無心」になれた理由の一つだと感じています。

視覚で入る情報は「海」「島」「空」「雲」「夕日」「鳥」、聴覚で入る情報は波音だけ。あとは何もありません。これだけ情報が自然のものに限定されていると、自ずと無心になるものです。

無心になった後は、そのまま雄大な景色をボーッと眺めました。この状態は日々の喧騒から離れてストレスフリーになっている感覚だとすぐわかりました。そうして無心になると、自然と自分自身と向き合うようにもなります。

「今、何がしたいのか」「今後何がしたいのか」「その為に今、するべきことは何なのか」

私が経験した雄大な景色を眺めて「無心」になり、そして「自分自身と向き合う」という流れはまさに「ヨガ」と同じです。

自分時間で育む、健全な心と身体

1日10分でもいいので、自分のための時間を持つ
1日10分でもいいので、自分のための時間を持つ

整形外科の外来で来られる患者様の多くは自分自身の時間を持つことができず、自己メンテナンス不足で身体に支障が出ています。身体のメンテナンスもそうですが、心のメンテナンス不足のため自律神経系が乱れやすいのです。

そのような方には1日10分でもいいので、自分のための時間を作ってくださいとアドバイスします。ストレッチをするでも良いし、好きな音楽を聴く、見たいテレビ番組を見る、何でも良いので自分の時間を作り、「無心」になってもらうためです。好きな時間を過ごしている時は肩の力も抜けて自然とリラックスできるはず。

できれば、今回私が経験したような、余計な情報が入ってこない場所や空間で無心になってもらいたいですね。特に、日頃から多忙な毎日を過ごす中でストレスを抱えている人は、是非一度、自然の景観が良い場所を訪れてみてください。自然と無心になり自分自身と向き合えるはずです。