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ヨガを実践している方の多くは、健康に対しての意識が高く、マクロビやビーガン食などを実践されている人も、よく見かけます。アーユルヴェーダを同時に勉強して食事に取り入れている方も多いですね。
様々な食事法がある中で、古典ヨガではどのような食べ物が好まれていたのでしょうか。ヨガでは、厳格に食事のルールについて定められているわけではありませんが、食べるものがヨガの練習に大きく影響を当たえると考えられています。
ヨガの実践者にとって食事の大切さ
ヨガは心のコントロールを目的としていますが、心と身体は常に繋がっています。ヨガの成功のためには、身体を清浄な状態に保つことがとても大切です。
ハタヨガの経典ゲーランダ・サンヒターによると、食事に気を使わずに偏食・暴食の状態でヨガの練習をすることは、ヨガの効果を弱めてしまうだけでなく、身体を壊す原因にさえなると言われています。
摂食をしないでヨーガを始めるものは種々の病気にかかり、いかなるヨーガも成功し得ないだろう。(5章16節)
特にゲーランダ・サンヒターで書かれるようなハタヨガは、身体をダイナミックに使うヨガです。消化が上手く出来ていない状態で行うと悪い効果を与えてしまうことがあります。
普通のアーサナの練習でも、胃もたれをしているような状態で行うと苦しくなることがありますよね。ハタヨガの練習ではクリヤと呼ばれる身体の浄化法がとても大切だとされていますが、体内の不純物を取り除くだけでなく、これから取り入れるものに気を使うこともとても大切です。
身体だけでなくても心にも効く、食べ物の選び方
さらに古い経典であるギータ―に書かれた文章をみてみましょう。
食べすぎる者にも、全く食べない者にも、睡眠をとり過ぎる者にも、不眠の者にも、ヨーガは不可能である。(バガヴァッド・ギーター6章16節)
ギーターは紀元前2世紀ごろに成立したと言われる経典ですが、2000年前でもすでに食べすぎは良くないと言われていました。
では、どのような食べ物を選ぶのが適切なのでしょうか。
ギーターでは、世の中の全ては3つの性質(サットバ・ラジャス・タマス)によって成り立っていると考えられています。
食事を選ぶ時にも、この3つの性質に基づいて分類されていますが、自身の性質をサットバ性に近づけるためには、サットバ性の高い食べ物を選ばなければいけません。
ギーターではそれぞれの性質を持つ食べ物を以下のように分類しています。
サットバ性の食べ物
- 生命力、勇気、力、健康、幸福、喜びを増大させ、美味。
- 油質で、持続性があり、心地いい食物。
ラジャス性の食べ物
- (過度に)苦い、酸っぱい、塩辛い食べ物。
- (口などが)焼かれるような刺激性で、ひりひりするもの。
- 油気がなく、苦痛と憂いと病気をもたらす食物。
タマス性の食べ物
- 鮮度が落ちて、味が劣化
- 悪臭を放つ
- 前日調理された、あるいは食べ残しなどの不浄な食べ物。
サットバ性の食べ物に関しては、あまり具体的には書かれていませんが、食事の時に「幸せを感じるか」「美味しいと感じるか」「心地良いと感じるか」など、ちゃんと意識を向けて食べることも大切なのでしょう。
スマホを操作したり、テレビに気をとられての “ながら“食事では、ちゃんと味わうことができませんから、どんなにいいものを食べていても、食事の質を落としかねません。食事の時には、食べることに集中しましょう。
一方ラジャス性、タマス性の良くない食事については具体的に書かれています。
辛い、苦い、酸っぱいなどの刺激性の食事はヨガには良くありません。例えばコーヒーなどは、一時的に目を覚まさせてくれて良いと思われがちですが、急激にアクティブな状態にしますので、体内のカフェインが切れた際、集中力が急下降することが問題です。辛味などの刺激的な食べ物は、心の働きを活発にしますので、ヨガには適しません。
タマス性の食べ物は病気をもたらすので必ず避けなければなりません。現在のインドでも、その日に調理した料理は、次の日には食べないという家庭がけっこうあります。もちろん、冷蔵庫などなどの無かった古代インドに書かれたものなので、現代では状況が違います。自身で判断することがとても大切です。
具体的な食品もチェック!
ハタヨガ・プラディーピカでは、下記のような食べ物がヨガの練習に適していると考えられています。
小麦、米、大麦、早麦米、優秀な穀物、生乳、バター、砂糖、氷砂糖、ギー(精製バター)、はちみつ、乾燥しょうが、新鮮な野菜、ムーング豆、水。
穀物類が多いことに少し驚かされます。また、現代の感覚ではよくないと考えられている乳製品も多く、氷砂糖なども含まれていますが、なぜヨガに適しているのでしょうか……。
それは、これらは、とても消化しやすい食べ物だから。ムーング豆も、豆類の中ではダントツに消化しやすいのです。ヨガの経典に書かれているようなヨガの修業をしようとすると、一日のほとんどの時間をヨガの実践に費やす必要があります。
そのため、食べ物は出来るだけ消化しやすいものが選ばれているのでしょう。少ない量で充分な栄養素が摂れる、消化に良い食べ物が適切だと考えられていたようです。
ヨガ修行者は栄養になるもの、甘いもの、ギー入りの食物、牛乳性のものを、その人の好む食物を食べると良い。(ハタヨガ・プラディーピカ1章63節)
甘いものもすすめられているとは言え、甘くて美味しいものをお腹いっぱいに食べては意味がありません。
バターと甘味をもって味付けされた食物、胃の四分の一を空けておくこと、ただ生命への愛だけから食事をすること、それが摂食といわれるものである。(ハタヨガ・プラディーピカ1章57節)
これはとても有名なハタヨガの教訓です。ヨガの実践者は、お腹の半分を食べ物で満たします。4分の1を水で満たし、残りの4分の1は空気で満たすと言われています。
こちらはヨガの修業期間の食事に関してなので、日常では必ずしも従う必要はないかもしれませんが、満腹になるまで食べないことは、消化不良による体内のアーマ(毒素)を作らないためにも意識したほうが良いでしょう。
何を食べるかよりも、きちんと選ぶことが大切
上記は、ハタヨガ・プラディーピカで勧められている食材ですが、他のハタヨガ文献だと、乳製品を全くすすめない場合もあります。また、白砂糖は良くないとされる場合も多いですよ。
現代みたいに自由に食材が手に入り、冷蔵保管も簡単な時代には様々な選択肢がありますが、当時の人里離れた場所に住んでいたヨガ実践者に取っては、常温で長く保管が出来て、消化が良く、栄養素の高い食材が最も適切でした。
つまり、環境や生活スタイルによっても食事内容を変える必要があるということです。
ヨガと密接に関係しているアーユルヴェーダでは、その人が生まれ持った性質や、その時の状態によって食べるべき食材が違います。その辺りの考え方を参照して、臨機応変に自分に適した食事を選びましょう。
出来るだけ避けたい食材
教本では、実践者が好む食べ物も適切と書かれています。美味しいと感じて食べることは消化力も上げますし、人間には本来、自身に必要な食材を選ぶ力があるということです。
その一方で、やはり出来るだけ避けたい食べ物もいくつかあります。
例えば、アルコールはヨガでは良くないと考えられています。アルコールはタマス性を上げてしまい、心の純粋さを覆い隠してしまいます。また、インドでは殺生を伴う肉類も避けられています。
日本では完全なベジタリアンとして生きることはとても努力を必要としますので、そちらも必ず必要だとは思いませんが、無意識ではなくて、意識して頂きたいものです。
日常の食事に意識を向けるようにしましょう
ヨガはマットの上だけで行うものではありません。生活の細部にまで意識を向けて選択することがとても大切です。自分自身の純粋さを向上させるためには、口にするものへの意識も重要なポイントになります。
自分自身の心と身体が本当に喜ぶものが何なのかを考える癖をつけましょう。食事がもっと幸せな時間になると思います。