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HRVという言葉を聞いたことがあるでしょうか?これは、「Heart Rate Variavility」の略で、日本語では心拍変動と訳されます。宇宙飛行士やアスリートが自らの健康状態を知るために使われている指標であり、スマホで簡単に測定できるのが特徴です。
今回は、ヨガインストラクターの私が実際に約1ヶ月間測ってみた結果も踏まえて、ヨガとHRVの関連性についてお伝えします!
心と身体の声を教えてくれるHRV
心拍、つまり心臓の鼓動は運動すると速くなり、安静にしていると遅くなるのは、皆さんも経験上知っていることだと思います。では安静にしている時、心拍はずっと一定でしょうか?
特に動いていなければ、規則的に一定のリズムを刻んでいると思われがちですが、実はそうではありません。心拍には周期的な“ゆらぎ”があるのです。この“ゆらぎ”のことを英語ではHRV(Heart Rate Variavility)、日本語では心拍変動と言います。
そして意外にも、このゆらぎがあればあるほど、心と身体が正常に機能していることを示すのです。
心拍変動は、呼吸や血圧の変動など自律神経の働きによって生まれます。たとえば、息を吸う時心拍は少し早くなり、息を吐く時少し遅くなるなど、周期的なゆらぎが繰り返されるのです。
つまり、心拍変動が大きく周期的である時には、自律神経系がバランス良く機能していることがわかります。逆に、ストレスがかかり自律神経系が上手く機能していない時、心拍変動は小さくなり周期性も乱れるのです。
自律神経系はストレスの他にも、生活習慣や、運動、疲労、睡眠などと関わりがあることが分かっています。つまり、心拍変動を測ることで今の自分がどのような状態にあるのか、下記のような観点から客観的に知ることができるのです。
- ストレスの大きさ
- ストレスを上手く対処できているか?
- 自律神経のバランス
- 生活習慣(睡眠・食事・運動)が適切か? 等
ヨガを行うとHRVはどのように変化する?
自律神経やストレスなどで変化するHRVという指標があると知ると、ヨギ・ヨギーニの皆さんは「ヨガでHRVが改善するのではないか?」と期待するのではないでしょうか?
私もその1人です。そして、文献を探してみました。しかし、残念ながら「ヨガでHRVが改善できる」というエビデンス(科学的根拠)は未だ確立されていないことがわかりました。
“HRVに変化があった”という研究結果が存在する一方、“変化がなかった”という研究結果も存在し、統一的な結果が示されていないのです。1)
この事実を踏まえた上で、1つだけ良い結果が示された試験内容2)をお伝えします。うつ病を患い、活動量が少なめの女性を、ヨガグループ(60分×週2回)とヨガをしないグループにわけ、12週間後にHRV、抑うつ症状、自覚ストレスを比較した試験です。
ヨガグループのHRVを解析すると、自律神経のうちリラックスモードを司る副交感神経が試験前に比べて高くなっていました。加えて、抑うつ症状と自覚ストレスの減少も報告されました。一方で、ヨガをしないグループに変化はありませんでした。
このことから、定期的なヨガの練習がHRVを改善する可能性があることがわかります。今後ますます研究が進み、ヨガとHRVのエビデンスが確立されることに期待しましょう。
スマホでHRVを測る
心拍変動という聞きなれない言葉なので、「心電図の検査など大掛かりな検査をしないと測定できないんでしょ?」と思われるかもしれません。ですが、最近では皆さんがお持ちのスマートフォンでも簡単に計れるようになりました。
必要なのは専用のアプリをダウンロードするだけ。スマートフォンのカメラに約1~2分指先を当てれば測定完了です。カメラに指先を当ててライトを当てることで、血管の脈拍を光度の差から感知することができるのです。そこで、私自身も実際に測ってみました!!
実際にヨガイントラの私が毎日測ってみた!
個人的な体験ですが、約1ヶ月間、毎日HRVを測り、その結果からわかったことをご紹介します。
使用したアプリ:Welltory
HRVを測定できるアプリは、実に多くのものが配信されています。私は5つほど試したうえでWelltory(リンク先は英語のみ)というアプリを気に入りました。
1ヶ月使ってわかったメリット・デメリットがこちら。
メリット |
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デメリット |
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HRVを測定し続けて分かった3つのこと
(a)シャバーサナが超大切
アーサナの練習をした後、時間がなくてついついシャバーサナをサボってしまった時があります。そうすると、直後の測定結果が悪いのです。直後だけなら良いですが、次の日まで悪い影響が残っていたような気がします。
逆に、アーサナや呼吸法の練習後、きちんと10分シャバーサナを行った時や、シャバーサナだけ行った時は良い結果が示されました。
(b)ヨガの効果は直後より、長期的に現れる
試しにヨガを全くやらない1週間と、ヨガを毎日1時間(アーサナ40分、呼吸法10分、シャバーサナ10分)を行う1週間を作ってみました。その結果がこちらです。
ヨガをやらない1週間は全体的にストレスが多い一方で、ヨガをやった1週間はストレスレベルが下がっていることがわかります。実は、ヨガをやった直後の結果が必ず良いとは限りませんでした。でも、平均してみるとヨガをやっている方がストレスと上手く付き合えていることがわかります。
※ヨガを全くやらない1週間も、生徒さんに教えるレッスンは行っています。自分の練習をやらなかったという意味です。
(c)睡眠の質を知るのにも役に立つ
測定時の状況をタグ付けすることで、どのような習慣がHRVに良い/悪い影響を与えているのか、解析してくれます。
私のブースターを見てみると、2位に睡眠がランクインしています。でも、睡眠をとれば必ずHRVが改善するとは限りません。1日だけ、寝る直前までスマホをいじってから寝た時、朝の測定結果が著しく悪かったのです。すなわち、朝一の測定結果が良いことは、睡眠の質が良かったことを示すのではないでしょうか?
1位は夫とTVをみながらおしゃべりをしていた時、3位には仕事がランクインしています。家族に恵まれ、そして好きなことを仕事にできている今の自分の環境に改めて感謝の想いが募る測定結果となりました。
約1ヶ月測定してみて、実に様々な発見がありました。記事を書くためにはじめた新習慣ですが、今ではすっかり私の生活に定着しています。皆さんも心と身体の声を客観的に知るツールとしてHRVを活用してみませんか。
参考資料
- Tyagi A, et al, Int J Yoga, 2016, Jul-Dec;9(2):97-113.
- Chu IH,et al, J Altern Complement Med, 2017, Apr;23(4):310-316.