記事の項目
植村智子がヨガとの出会いで、新たな気づきに目醒める
植村さんとヨガとの出会いは、いまから15年ほど前のこと。当時彼女は、アナウンサーとして地方のテレビ局に勤務をしていました。
アナウンサーの仕事は、限られた時間のなかで、必要な情報を簡潔かつ的確に伝えることが求められるのはもちろん、自らが現場に足を運び、そこで取材した内容を、その日のうちにアナウンス原稿にまとめるなど、一瞬一瞬が勝負の連続。まさに息をつく暇もないほど仕事に集中していたといいます。
そんなある日、会社の休暇を利用して訪れた屋久島で、思いがけずヨガを体験することに。
ガイドの方の誘導で、ゆったり深い呼吸に合わせて、アーサナをしていると、かつてない心地よさに包まれていくのを感じたとか。
また、呼吸ひとつで、こんなにも、心も体もラクになるなんて思わなかったので、それも嬉しい発見でしたね。
この体験を機に“ヨガはいまの自分にもっとも必要なもの”だと直感。ヨガのDVDを参考にしながら、練習をするようになったそう。
新たな可能性に、ひるむことなく直進
そのころ、フリーアナウンサーとして東京を拠点に活動したいと思うようになったという彼女は、会社を辞めることを決意。とはいえ、まだフリーランスとして、具体的な仕事が決まっていたわけではありません。
それでも自分の思いに、きちんと寄り添う植村さんは、東京に拠点を移します。できないことではなく、いまできることにフォーカスし、自らが選択した状況に対して常に思考をポジティブに切り替えながら、前進していくのが彼女の生き方。そして、なんと突如、カナダに留学をするのです。
それで、RYT200の講座を受けられるところをリサーチしていたのですが、当時はまだ日本で受講できるところが限られていて。そんなとき、カナダのスクールを見つけて、これだ! って。
インストラクターを目指していたわけではないのですが、ここしかない、とカナダへ行くことを決めたんです。
と、笑顔で振り返ります。
ヨガが日常の中で、活きはじめる
カナダでの1ヶ月間は、1日の大半をヨガと向き合う日々。ヨガへの知識が深まる反面、あまりにも日常とかけ離れていたせいか、「このままで大丈夫かな」と、不安がよぎることも度々あったそう。
その思いを果たすべく、帰国後はフリーのアナウンサーとしての地固めに集中し、仕事に没頭していたようですが、あることに気づきます。
かつての私は、緊張や不安を感じると、どんどんそっちに引っ張られるというか。負の感情に振り回されてしまう感覚が強かったのですが、カナダから帰ってきたらは、緊張したとしても、落ちつていられるんです。
あ、いま私、呼吸が浅くなっているから、一度深い呼吸をしてみよう、と。日常のなかでヨガの知恵を活かしていくうちに、プレッシャーを感じても、そこに立ち向かえる、芯の強さが生まれたように感じています。
“伝えたい”、その思いが新たな扉を開く
カナダで学んだヨガを、今度は日常のなかで深めながら、自分とよりコネクトしていく日々。呼吸に意識を向けることで、自分をいったん感情から切り離すことができるようになり、さらに声も出しやすくなるなど、仕事へのうれしいフィードバックも体感。そんななか、彼女はまたもや新たなひらめきを得ます。
「人間の体って、面白い!もっと体のことを知りたい」
この思いに突き動かされるように、なんと今度は渡印。アーユルヴェーダの病院に併設されているアカデミーに留学し、インド医学を学びます。さらに帰国後、鍼灸学校に通い東洋医学も追求。
たぐいまれなる行動力と探究心で、興味の惹かれたものはとことん調べ、知識を深めるなか、ヨガが体にもたらす効果に目醒め、いつしか、この感動は、もっと多くの人にヨガを伝えたい、という思いへと変化して……。
パラレルワーカーとしての人生が幕を開ける
最初は身内を対象とした小規模なレッスンだったそうですが「より多くの人に伝えたい」と、とあるカフェでも、ヨガ教室を開催することに。
アナウンサーというのは伝える仕事ですから、ヨガを伝えるというのも、アナウンサーの仕事とリンクしていることに気づき、どちらも私にとって不可欠な存在になっていきました。
そこからは、まさに運命のごとく奇跡的な縁に導かれていきます。ビジネス・ブレークスルー大学という、日本初のオンライン大学での体育の授業でもヨガ講師を務めることになり、さらにそのキャリアがヨガ指導者としての大きな信頼につながり、母校である早稲田大学からもラブコールが。
ただ、当時はまだ指導者としてのキャリアが浅かったので、少しためらっていたんですね。そうしたら、オンライン大学での指導経験があれば問題ないと言ってくださって。それで、非常勤講師としてヨガの指導に従事することを決めました。
“つながり”の豊かさを届けたい
早稲田大学では、ヨガの授業は抽選が必要なほど、学生たちの間でも人気科目のひとつだそう。
時代が、大きく変わったことを感じますね。
また、学生さんのなかには、大学4年間で友人が一人だけ、という学生もいらっしゃって。サイバー社会といわれる昨今、人と人とのリアルなつながりが希薄になっていることを目の当たりにしています。
それが原因なのかはわからないのですが、昔に比べて精神的に繊細な学生たちが多い印象を受けますね。
ヨガには“つながる”という意味があります。私は、この授業をとおして、若い学生さんたちに、自分とのつながりはもちろん、多くの人とのつながりを築いてほしいと、思っています
と、力を込める植村さん。一人ひとりが“つながり”を築き上げていくために、授業では、こんな工夫を取り入れているとか。
たとえば肩甲骨や背骨に触れてみて、その動きを確かめてみたり。そうすることで、体の構造を体得しやすくなると同時に、どんどん心が打ち解けてくるんですよ。
最初のうちは、このやり方に抵抗を抱く生徒さんたちもいますが、回を重ねるごとにクラスの雰囲気が明るく賑やかになっていきますね。
日常に役立つヨガを、未来を担う学生に
ヨガのクラスをとおして、つながりを構築しながら、日常生活の中でもヨガを活かしてほしい、というのが植村さんの願いでもあります。
試験や試合の前に緊張を和らげ、集中力を高めたり、就職活動のときに自分をコントロールできたり。
社会に出たときに求められる、自分の軸をしっかりもって物事に対処していく力というのもヨガで培えると思うのです。
日常で役立つヨガを、これからの未来を担う学生さんたちに教えることができるのは、本当にありがい経験です。
自分の信じた道を切り拓く勇気と熱意によって、自らの力で可能性を広げ、縁を引き寄せて。マルチな才能を活かしながら輝く日々を送られる植村さんの源泉には、まさにヨガを生きてこそ得られる、しなやかさと、たおやかさが息づいていました。
そんな植村さんの連載コラムが、今月スタートします。ヨガ講師が陥りやすい不調の対策を、東洋医学とアーユルヴェーダの知恵を取り入れながら、お応えいただきます。こちらも、お楽しみに!
植村智子プロフィール
ヨガ、アーユルヴェーダと鍼灸の伝統医学で、心と身体のケアをお伝えすることをライフワークにしている。