仕事に役立つヨガ:メディカルトレーナー編

仕事に役立つヨガ:メディカルトレーナー編

私は普段、整形外科で働くメディカルトレーナーとして患者様のリハビリをお手伝いさせてもらっています。同時に、ヨガのインスラクターとしても活動をしていますが、ヨガ指導より、メディカルトレーナーとして働いてきたキャリアのほうが長く、これまで外来の整形外科に勤務しながら、老若男女問わず、幅広い層の患者様を数多く診てきました。

メディカルトレーナーの仕事は、個人に合わせた疼痛部位のケア方法や運動機能改善の運動プログラム(リハビリ)の指導が中心になりますが、このアプローチの中に「ヨガ」を取り入れたことで、リハビリのバリエーションは格段と広がったように感じています。

アーサナの活用で、運動療法に応用がきくように

身体のどこかを痛めた場合、整形外科で行われる治療法には、湿布薬や鎮痛剤などの薬物療法、低周波や超音波などの物理療法、理学療法士などによる徒手療法、そして、運動機能改善を図る運動療法があります。

身体に痛みが生じる理由のひとつとして、運動機能の低下が考えられます。運動機能が低下すると、日常生活やスポーツ動作において、身体の一部にストレスが加わるような動きをしがちで、それが痛みを引き起こしてしまうのです。

運動療法の主な目的は、柔軟性・筋力を高めながら、身体の使い方を調整し、痛みを根本的に改善することです。

(下記の記事でも紹介しています)

身体の機能を高めるうえで、ヨガは万能ではない!?

私は、かつて患者様の柔軟性や筋力を向上させるうえで、エクササイズを指導していましたが、ヨガを学び始めてからアプローチが変わりました。ヨガのアーサナは筋力トレーニングのようにひとつの関節、筋肉だけを動かすということはありません。

身体の各部位が協調して動くことでアーサナが完成されます。日常生活動作もアーサナと同じでひとつの筋肉、関節だけが動くことはなく身体の各部位が協調して動くことで動作が行われるのが理想です。

身体の各部位が協調して動くことでアーサナが完成
身体の各部位が協調して動くことでアーサナが完成

たとえば、歩行動作を見ても下半身だけでなく骨盤、脊柱、上半身の動きがともなっています。

しかし高齢者の場合、全身の可動域が狭くなっているケースが多く、そのため各部位ごとの協調性も低下。結果、効率的な歩行がしにくくなっている人が多いのです。

この場合、三日月のポーズで股関節の屈曲と伸展の動きを促しつつアレンジを加えて、そのまま身体を捻る練習をしてもらいます。こうすることで股関節を広げながら身体を捻る、という歩行動作に近い動きを、身体に学習させ、意識づけることができるのです。

このようにアーサナを元にアレンジを加えることで、運動療法のバリエーションが、どんどん増えていきました。

そのほとんどが、実際に私自身が試して、体感をとおして手応えを感じたものです。どういうアレンジを加えれば、どこがどう反応し、どういうフィードバックを得られるのか。

それを、アウトプットすることで、運動療法のバリエーションが増え、かつ患者さまの、姿勢を調整するイメージも豊かになり、指導がスムーズにできるようになりました。

呼吸法は、患者さまの気持ちのコントロールにも応用できる

整形外科に来られる患者様は、捻挫や打撲のような外傷性の ケガで来られる方もいますが、肩、頚椎、腰の慢性的な痛みに悩まされて来られる方もいます。

「痛み」は交感神経を興奮させ筋肉や血管を収縮させます。収縮するということは血流が悪くなるため、筋肉の柔軟性を低下させ、それがさらに痛みを慢性化させる……という悪循環を引き起こします。

慢性化した痛みは日常生活、特に睡眠にも支障をきたし、それがストレスとなり気持ちを不安定にしてしまうことも考えられるでしょう。こうした状況に陥らないためには、痛みの悪循環からいかに早く脱却して、心身のストレスを無くすのかがポイントになります。

そこで有効なのが、「脊柱を中心とした柔軟性の改善」と「自律神経のコントロール」。前者は主にアーサナで、後者は呼吸で介入します。呼吸は、自律神経系のコントロールに役立つ唯一の方法です。

簡単に説明すると「息を吸う」時は交感神経が優位になり、「息を吐く」時は副交感神経が優位になります。

痛みのために交感神経が優位になり気持ちか不安定になりがちという人には、息を長めに吐くヨガの呼吸法を取り入れ、副交感神経を優位にし、血流を改善。心身のリラックスを図ります。

実際に体験してくださった方の反応としては「とても気持ちよかった」「リラックスできた」「身体が軽くなった」というポジティブな反応が多いですね。これは呼吸を整えることで自律神経のコントロールができて気持ちがポジティブになった証拠です。

さらに、こんなうれしい経験もありました。ある時、慢性的な腰痛に悩まれていた患者様に、アーサナを数種類指導し、かつ定期的に私のヨガレッスンにも参加いただきました。

さらに、自宅でも定期的にアーサナを継続いただいたところ、慢性的な痛みが改善。日常生活で痛みが出なくなったと言われたのです。

その上、「以前は家族のことでストレスを抱えて気持ちが不安定になっていたけどヨガの呼吸をすることで気持ちが安定して物事を冷静に考えられるようになった」とも言われ、ヨガや、またヨガの呼吸法のすごさを改めて実感したのを、いまでもはっきりと覚えています。

「ヨガ」自体が話題のネタになる

患者様との信頼関係を築くためには会話でのコミュニケーションは不可欠
患者様との信頼関係を築くためには会話でのコミュニケーションは不可欠

患者様との信頼関係を築くためには会話でのコミュニケーションは不可欠です。外来の整形外科では幅広い年齢層の方が来院されますので、それぞれの世代に適した話題が求められます。

時事ネタ、子育てネタ、地域ネタ……などを中心に会話をしていますが、私は広島在住なので、広島東洋カープのネタを話題にすれば、間違いなく盛り上がりますね(笑)。

地域ネタでいえば患者様は旅行、仕事、帰省で様々な地域に行かれるので私はできるだけ都道府県レベルではなく市町村レベルでの名所や特産物などを覚えるように心がけています。

このように患者様に信頼してもらえるために会話のネタは、ひとつでも多くあったほうが良いです。そのネタのひとつにヨガもあります。

これは私個人の主観ではありますが、ヨガの話題に興味を持ってくれるのは40歳以上の人達が多い印象です。ただ、70歳の方でもヨガの話には関心があるようで、少しお話しをさせていただくだけで、いろんな質問をしてくださいます。ちなみに小学校から中学生はあまり興味が無さそうです。

ヨガに興味を示してくださる年代の方々は「ヨガとは何なのか?」「ヨガの効果は?」「自分にもヨガはできるのか?」などの質問をされることが多く、その度に、ひとつずつ丁寧にお応えさせていただきます。

特に「ヨガは内観すること。周りを気にせずに自分の世界に入り込むことが大事。これはヨガのレッスン中だけでなく私生活や仕事でも同じことです」とお話しすると、もつれていた紐がスーッとほどけた時のように、非常に良い表情になります。

患者様の中には家族や職場での人間関係で常に周りに気を使い、肩の力を抜けずに緊張状態が続いているという方もいます。このような方には、特にヨガの話をとおして、いかに自分の時間を持つことが大事なのか説明します。ヨガの話がそのまま日常生活の過ごし方につながるのです。

以上が、私が感じたメディカルトレーナーとしての仕事に生きるヨガです。仕事をとおして多くの人との接するなか、ヨガの素晴らしさに日々気づかされています。