記事の項目
初めまして。フリーアナウンサーの植村智子と申します。現在、ヨガインストラクター、また鍼灸師、アーユルヴェーダセラピストとしても活動しています。
鍼灸師として東洋医学を学ぶなかで、古代中国の叡智である五行学説には、ヨガインストラクターの方が陥りがちな不調改善に役立つヒントがたくさんあることを、身を持って体感。ヨガの叡智とともに、東洋医学を日常に取り入れることで、心も身体も格段とラクになるんです!
そんな、ヨガインストラクターにこそ試してほしい、五行学説について、この連載では綴っていきたいと思います。
第1回目は、感情のコントロールに役立つ、五行学説について。
ヨガの指導者にとって、
……といった、感情を抱いてしまうこともあるかもしれません。
私自身、早稲田大学でヨガの授業を担当させて頂くなかで、こうした感情が湧き起こることがあります。“感情に振りまわされなくなる”というのがヨガの目的のひとつですが、時には難しいと感じることも、少なくないでしょう。
そんな感情の調整に役立つのが、臓器や感情と食の関係が伝えられている、中国に古くより伝わる、古代哲学理論「五行学説」をヨガのなかに取り入れること。
具体的な方法の前に、まず五行学説とは何かを、見ていきたいと思います。
五行学説とは?
五行学説とは、自然界や人間などの様々な現象を木・火・土・金・水の五つの性質に分類し、その関係性を考える古代中国の哲学理論。宇宙を構成する全てのもの、森羅万象を理解し、法則性を見出し体型化したものです。当初は政治に利用されることが多かった哲学理論でもあります。
すべての構成要素が5種類であるという考えに基づいているのですが、なぜ5種類なのかというのは、明らかになっていません。ただ、「五体満足」という言葉があるように、両手足と頭の数の組み合わせや、手足の指の数が5本であるなど、人体と関係性が深い数ということは読み取れるでしょう。
東洋医学では、五臓を軸に、組織・器官および生体現象、相互の関係性を5つにわけてとらえているのが特徴です。たとえば、木は肝、火は心、土は脾、金は肺、水は腎の各臓器に対応するとされていて、紀元前200年頃から220年頃にかけて変遷された医学理論の書『黄帝内経素問』には、次のような記述があります。
神は天に在りては風となし、地に在りては木となし、体に在りては筋となし、蔵に在りては肝となし、色に在りては蒼となし、音に在りては角となし、声に在りては呼となし、変動に在りては握となし、窮に在りては目となし、味に在りては酸となし、志に在りては、怒りとなす
と書かれています。
これは、木行に属する肝とその症状の関係性を述べています。肝は風という気候特性と関連性が強く、筋の症状を発症しやすく、病んだときの色のサインとしては、蒼(青)が現れ、角という高さの音を発し、患者の声は呼という特徴を持ち、握という病変が現れやすく、感覚器としては、目の症状が現れ、酸味を必要とし、怒りやすくなるということを表しているのです。
たとえば、「腰が痛い」時、その痛みが筋肉のつっぱりや、炎症から来る場合、木行と関係している、「怒り」の感情が腰痛の原因となっている可能性があるということになります。
五行学説に見る、各感情との向き合い方
クラスの流れがうまくいかずイラッとしてしまう
これは、木行に関連し、目や筋も同じ木行に属しています。怒ると目が血走るというのは、木行に属する怒りの感情が同じ木行に属する目に現れていると考えられます。
<対策>
イラっとする時は、「青色」を生活に取り入れるとよいでしょう。青は木行の色です。
青色の食材には、ほうれん草、ピーマン、にら、春菊、ブロッコリーなどがあります。これらを食事に取り入れたり、少し、酸味があるものを食べることがおすすめです。
生徒さんは満足しているのか心配になる
心配ごとがあったり、思い悩むという感情は、土行に関連しています。土行の臓器は「脾(脾臓)」で、消化・吸収を調節する働きがあります。悩み事があると、食欲がなくなるのは、この関係性からくるのです。
<対策>
土行に属する「黄色」を生活に取り入れるとよいでしょう。
黄色の食材には、卵の黄味、かぼちゃ、とうもろこし、柿、栗、みかんなどがあります。これら黄色の食材にくわえて、ナツメなどの甘みが思い悩む感情をゆるめてくれます。
思ったように、指導できず、悲しい気持ちになる
悲しみの感情は、金行に関連し、肺も同じ金行に属します。悲しいときに息苦しくなるというのも気(呼吸)をつかさどる肺とのつながりからきています。
<対策>
金行に属する「白色」を生活に取り入れるとよいでしょう。
色白の食材には大根、玉ねぎ、長ネギ、大豆などがあります。これら白い食材に、辛味のあるものをプラスにすると、悲しい気持ちからの解放につながります。
自信がなくなり、ヨガを伝えることが怖くなる
恐れの感情は、水行に関連し、腎と深いつながりがあります。生命活動を維持する腎の機能が低下すると、気の巡りが悪くなり、些細なことを怖がったり、ビクビクしやすくなります。
動悸は腎の機能の低下が原因とされています。恐れや驚きの感情が急激に発生したり、長く続くと、腎に影響を及ぼすのです。
<対策>
腎を強くする為には、黒いものを食べるようにするとよいでしょう。
たとえば、海苔、もずく、昆布、しいたけ、黒ごまなどが、おすすめです。また、鹹味(かんみ)といわれる塩辛さも腎を強くする働きがあります。
喜びも過剰になると、心を傷つける!?
ここまで、木、土、金、水、4つの行にまつわる感情と色と食についてお伝えしてきました。残りの、ひとつ「火行」に属する感情は「喜」です。火行の臓器は「心」。
喜ぶことは、素晴らしいことですが、『黄帝内経素問』に「喜は心を傷る」とあり、実は、喜び過ぎると、心を傷つける事につながります。喜び過ぎて、気持ちが高揚して眠れなくなるといった状態のことです。
「心」には、神が宿り、意識、精神はここから現れるとされています。考えて判断し、行動に移せるのは、「心」の働き。喜び過ぎると気が緩んで、集中力が低下しますので、喜びもほどほどに。
何ごとも、バランスが大切です。次回は、「五行説と身体の調和」について。五行、5つの関係性を紐解きながら解説します!
参考資料
- 『新版 東洋医学概論』(教科書検討小委員会 著/医道の日本社)
- 『臨床に役立つ五行理論−慢性病の漢方治療−』(土方康世 著/東洋学術出版)
- 『五行大義』(中村璋義 著/明徳出版社)
- 『女性の不調をなくす東洋医学式カラダとココロの整え方』(鈴木知世 著/河出書房新社)