ガネーシャ神の暗号〜深淵なる叡智の象徴〜

ガネーシャ神の暗号〜深淵なる叡智の象徴〜

象の顔を持ったガネーシャ神は、インドの神様の中で最も人気のある神様です。災難から人々を守り、ご利益を生み、学業と商業の神様でもあります。

インドの街角で商店を訪ねると、高確率で入り口付近にガネーシャ神が飾られているのは、ガネーシャ神が商業の繁栄を招いてくれるからです。

そんなガネーシャ神の顔、身体、持ち物には、実はヨガの教えが込められています。このことを知っている人はあまり多くないかもしれません。

今回は、そんなガネーシャの姿に秘められたメッセージをひもときます。

ガネーシャ神の“姿”が教える、ヨガの知恵

象の顔に、丸っこい胴体が可愛いらしいガネーシャ神ですが、その親しみやすい姿の一つひとつが、生き方の格言となっています。一体どんなメッセージが込められているのか。顔から順に見ていきましょう。

ガネーシャ神は、姿の一つひとつが、生き方の格言といわれる
ガネーシャ神は、姿の一つひとつが、生き方の格言といわれる

大きな頭:「尊大な知恵」と「永遠の魂」

大きな頭は、その中に詰まった知恵の大きさを表しています。そして、真理を知る唯一の人、アートマンの象徴でもあります。つまり賢さと同時に、アートマン=永遠に滅びない魂を表しているのです。

小さな目:「集中力」

愛らしいイメージのガネーシャ神ですが、よく見ると目はとても小さく描かれていることが多いです。この小さく描かれた目というのは、多くのものに気を紛らわされずに、一点に集中する能力を表します。

それは、自分自身の内側(真実)に意識を向けることです。いっぽう、大きい目というのは、外の世界に視界を奪われることを意味すると考えられています。

ヨガの瞑想は、ダーラナ(集中)から始まります。外の世界から得られる感覚を制御し、内側の一点に意識を向けることがヨガではとても大切です。

大きな耳:「他者の意見を聞く」

人はつい、自分の意見を主張しがちです。しかし、成長するためには他者からの意見にも心を開く必要があります。それは与えられた教えを受け取る能力でもあります。

小さな口:「話過ぎない」

自分の話をすることはとても気持ちが良いものですが、やはり避けるべきものです。また、ヨガでは議論に興じることも避けるべきだとされています。議論よりも実践を意識しましょう。

牙(きば):「悪いものを捨てて善良であること」

左右の牙は、人間のもつ賢さと感情の2つの側面を表しています。折れている左の牙は、感情を克服することを意味しています。また、牙は悪を破壊するものとしての意味もあります。

インド神話によると、ビシュヌ神の化身であるパラシュラーマがガネーシャ神の父親であるシヴァ神の武器を投げた時に、シヴァ神への忠誠心に従って、わざと攻撃をよけないで牙で受け止めたそうです。

その時に片方の牙が折れたとされています。このことから、信じるものへの絶対的な忠誠心・誠実さの象徴としても知られています。

胴体:「高い能力と包容力」

ガネーシャの大きな身体は、宇宙に存在するすべてのものを包み込む包容力を表しています。人生における、環境への高い順応性も表しています。

大きなお腹:「人生の中で良い事も悪いことも受け入れる」

大きなお腹は消化力の高さを表しています。人生で起きるあらゆる事柄を受け入れる大きな器を持つことで、感情的にならずに穏やかに過ごすことができます。

ヨガに通じる人は、自身の義務(ダルマ)をまっとうし、その結果に執着しません。自分に与えられたものに対して、自然と満足できる心の状態を維持することこそ、幸せに生きるコツです。

最高の幸せへと導く、サントーシャ

手に持つ斧:「すべての執着を断ち切るもの」

人間は行動の結果への執着によって、あらゆる苦悩を生み出します。貪愛(ラーガ)と呼ばれる執着を帯びた愛も苦しみを生みます。

心を解放させて幸せに生きるためには、すべての執着を断ち切る必要があります。それをするための道具がガネーシャの手に持つ斧です。

手に持つ縄:「目標へと手繰り寄せる」

手に持った縄は、自身の目標を手繰り寄せることを象徴しています。ところで、ヨガでは自身の目標をサンカルパと呼びます。サンカルパは目標よりも「自信への誓い」に近い意味を持ちます。

ヨガは「自力本願」の哲学です。自分自身で自分を導かなければなりません。同時に、そのための方法・道を教えてくれるのもヨガなのです。

モーダカ(スイーツ):「努力の先に得られるもの」

モーダカはガネーシャ神が大好きなスイーツです。毎年8月後半から9月上旬に行われるガネーシャ・チャトゥルシー(誕生祭)には、モーダカをお供えします。

ヨガでは、「結果に執着せずに行動を行いなさい」と説きますが、教えを信じで正しい行いをすることによって、必ずスイーツのような幸せな成果が訪れます。

「信じて行えば大丈夫」と教えてくれるのがモーダカです。

ネズミ:「心・エゴのコントロール」

ガネーシャの肖像画や像を見ると、足元にネズミがいることに気が付くと思います。実は足元のネズミはガネーシャの乗り物。移動の時には小さなネズミに乗ります。

チョコチョコと動き回るネズミは、止めどなく働き続ける心の作用・もしくは人間のエゴを象徴しています。そのネズミをコントロールするということは、自分自身の心をコントロールするという意味です。

ガネーシャの父親はシヴァ神、その神話が教えてくれる知恵

象の顔をもつガネーシャ神ですが、父親はシヴァ神です。日本で不動明王の起源として知られるシヴァ神は破壊の神としても有名ですが、ヨガを創造した神であるとも言われています。

シヴァ神には二人の息子がいます。一人は象の顔を持ったガネーシャ神、もう一人は戦いの神であるスカンダ(韋駄天)です。

ある日、父親であるシヴァ神は2人の息子に話しかけました。

「宇宙を3周してきなさい。先に3周できた方に褒美を与えよう」

それを聞いたスカンダは、すぐに飛び立ちました。素晴らしい脚力をもつ軍神スカンダは、ものすごいスピードで宇宙を3周してきました。スカンダが戻ってきた時、ガネーシャはまだ同じ場所にいたそうです。

そして、ガネーシャは言いました。

「スカンダが旅立った後に、私は父であるシヴァ神の周りを3周回った。シヴァ神こそが宇宙である。先に宇宙を3周したのは私です」

それを聞いたシヴァ神は大喜びし、ガネーシャに褒美を授けました。

知恵の大切さを教える神

神話だけを聞くと、ずる賢いと感じるかもしれません。しかし、この神話は知恵の大切さを説いています。

ヨガでは、ギャーナ・ヨガ(勉強)とカルマ・ヨガ(実践)は必ず両方必要だと説きます。

【ギャーナヨガ(知識のヨガ)】どうしてヨガ哲学を勉強した方がいいの?

ヨガの練習をしていても、なんだかモヤモヤが残ってしまう時はありませんか?

その時は、自身の向かう方向性が間違ってしまっているのかもしれません。努力は必要ですが、間違った方向に努力を重ねていると逆効果になってしまうことも。

自身の進むべき道を教えてくれるものがヨガ哲学です。

あまり有名ではありませんが『バガヴァット・ギーター』を紙に書き起こしたのも、知恵の神であるガネーシャ神です。私たちが生きていくためのヒントは、いつもガネーシャ神が与えてくれます。

キャッチーな神話は人の心に届きやすい

ガネーシャ神は、私たちが生きていくためのヒントをくれる
ガネーシャ神は、私たちが生きていくためのヒントをくれる

ガネーシャ神の姿そのものがヨガの教えに通じている、とても興味深い内容です。

ヨガを行っている時、宗教的な側面はちょっと怖いな……と思ってしまうかもしれません。しかし、妄信的な宗教ではなく、知恵を教えてくれる先生としてガネーシャ神や他の神様に向き合うと、一気に愛着が湧いてきます。

その中でもガネーシャ神は特に見た目も愛らしくて、ご利益もあり、世界中の国で愛されています。

ガネーシャ神の置物を置いてあるヨガスタジオも沢山あると思いますが、ただの飾り物ではなく、私たちの生き方を教えて下さる存在だと思い、その姿の意味する教訓に心を向けてみると、ますますヨガの恩恵を身近に受け取ることができます。

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