ダルマ(義務)に逆らわないヨガ的生き方

ダルマ(義務)に逆らわないヨガ的生き方

『バガヴァット・ギーター』でクリシュナは、自身のダルマ(義務)に沿った生き方をすることを教えています。ただ、「社会的な義務(ダルマ)の遂行もヨガ」と言われてもピンとこないかもしれません。

そこで今回は、ヨガで考えるダルマとは何か?ダルマに従った生き方とは?自分にとってのダルマとは?について考えてみましょう。

ダルマは弱点を克服するための宿題

人の心は魅力的なモノに安易に意識を奪われやすいものです。例えばヨガのクラスを受けたら、「インストラクターの先生が素敵だから、私もインストラクターをやりたい!」と思うことがあるかもしれません。

しかし、それは満足していない現実から逃げているだけの可能性もあります。「やりたい!」と思ったことに安易に飛びつくことが正解なのか、現状にいったん向きうべきなのか、客観的に自分のダルマを考えることは大切です。

もしも今の義務を無視して別の行いを選ぶと……現存しているカルマが解消できていないので、仕事の内容を変えても同じような課題に遭遇してしまう可能性が高いのです。

もしあなたが義務に基づく戦いを行わなければ、義務を果たさない不名誉となり、罪を得るであろう。(『バガヴァット・ギーター』2章32節)

義務に基づく行いを拒否することは良くないとされます。目の前の課題に向き合うことはとても大切なことです。

ダルマは、自分の心の弱い部分を克服するために必要な課題です。神様からの宿題と思ってもいいでしょう。とはいえ「今の職務がダルマに沿った生き方なのか?」を判断することは難しいでしょう。

そこで、おすすめしたいのが、何か悩みを感じている時、下記を基準に自身と向き合ってみることです。

  • 現状の悩みや問題点を解消するためには、環境を変えるのが良いのか。
  • それとも同じ環境で自身の考え方を変えるほうが良いのか?
  • 環境を変えたい場合には、ポジティブな理由なのか、現実から逃げたいだけなのか?

客観的に自身のダルマについて考えることは現代社会ではとても大切です。

古代インド人のダルマに対する認識

古代インドの人にとってダルマ(義務)とは身近なものでした。

インドではカースト制と呼ばれる職業別の階級制度があったため、誰が何の仕事を行うのかは生まれた時から決められています。

カースト制と呼ばれる職業別の階級制度
カースト制と呼ばれる職業別の階級制度

人々が自身の職務を放棄して、窃盗などの安易な方法を選べば社会が不安定になります。一旦治安が悪くなると社会全体を立て直すことが難しくなります。社会の維持のためには、個々が自分自身の仕事を行うことはとても重要です。

ギーターがカースト制によって与えられたダルマに強く言及している背景には、当時のインドの状況が色濃く反映されていたのが分かります。

では、自分自身で自らの職務を見つけないといけない現代を生きる私たちは、どうしたら良いのでしょうか。

ダルマは自分自身のカルマで生み出したものだと考える

まず、どうして人にはダルマ(義務)があるのか?を考えてみましょう。

「今世で良い行いをすれば来世で良い家柄に生まれる」といった輪廻転生の考え方は、今の価値観ではピンときにくいですよね。

ダルマを“社会のための行い”と考えると、「やりたくないな……」と思ってしまうかもしれないので、代わりに“自分のための課題“だと理解すると、しっかり向き合うことができるでしょう。

また、現代社会では、多くの義務は自分自身で作りだしたものである場合がほとんどと言っても過言ではありません。例えば……

  • 今、大変な仕事をしているのは、“給料で仕事を選んだ“から。
  • 犬の散歩に毎日いかないといけないのは、犬と生活することを選んだから。

多くは「自分の選択⇒義務になる(ダルマ)」という仕組みで成り立っています。しかし、自分自身が原因だと認めるためには強い心が必要です。

あらゆる原因を社会や他者に押し付けて、しまいには「子どもの時のトラウマが……」と、自分の力では動かせない運命を信じると、自分自身での修正ができなくなります。

子どもの時の精神状態は親や社会の影響を受けやすいですが、成長してからは独立した心で自身に向き合うことがとても大切です。

例)

問題:

今、好きではない仕事に毎日追われていて、会社の文句ばかり言っている。

現状の思考状態:


周りの人は「そんなに嫌なら転職すればいい」と言うけれど、私は学歴もないし、スキル(能力)もないし、若くもない。今よりいい会社に転職できるわけない。社会も非正規雇用の女性に厳しいから、仕方ない。

もし、このような思考が働くなら注意が必要。「原因が自分の外にある」と思うと、自身で状況を変えることができないからです。

それが、ひとたび自分自身に向き合うと、状況は一気に変わります。

ダルマを放棄しない思考

  • この仕事を辞めずに続けているのは自分の意思。就業時間中は文句を言わずに仕事に集中することで残業を減らそう。
  • この仕事が嫌なのは、効率が悪くて残業があるストレスが原因。だから、改善方法を提案しよう。
  • 仕事を頑張っても固定給で給料は変わらない。だけど、仕事中にスキルが上がれば。万が一仕事を失っても転職に有利になるかも。

→ 結果、嫌々やっていた時よりも仕事の能力が上がって評価が上がる。

→ 社内でもっと責任のある仕事を任される。もしくは、自身のスキルが上がって、転職するための自信がもてるようになる。

目の前のダルマを受け入れると行動が変わる
目の前のダルマを受け入れると行動が変わる

目の前のダルマを受け入れると行動が変わります。行動が変われば未来は変わります。

精神を壊すほどのストレスがあるなら、現状の仕事を放棄することが正解な場合もありますが、心の中には根本的な原因が残ってしまうので、すぐに平穏な心を取り戻すのは困難です。

環境は変えても変えなくても、どちらでも大丈夫です。大切なのは、自身の職務に対する考え方を見直すことです。

自分のダルマを見つける

今行っている行動が、自分の正しいダルマかを判断するのはとても難しいものです。感覚が研ぎ澄まされてくると自身のダルマに疑いがなくなりますが、迷ったと時には、下記を目安に向き合ってみましょう。

  • 社会のためにポジティブに作用する行為であること
  • 自身にとって不快でないこと
  • 自身を成長させてくれること

社会にとって良い行為かは、客観的に確認が取りやすいです。しかし、自身にとって不快であるかの評価は難しいかもしれません。ちゃんと向き合えば自分にとって有益な行為であっても、怠慢によって不快(めんどう)だと感じてしまうことがあります。

自身を客観視するヨガのトレーニングによって、ダルマを知ることができるようになっていきます。

現在のダルマが分からなければ、目の前のことに向き合う

現在のダルマが分からなければ、目の前のことに向き合う
現在のダルマが分からなければ、目の前のことに向き合う

どうしても自分のダルマが分からない時もあります。そうした時は、今目の前にあることに集中しましょう。将来のことばかりを考えていると、現実を受け入れることができなくなります。“今”に意識を集中することで、自然とダルマが分かるようになります。

  • 与えられた仕事は、淡々とこなす。
  • 仕事の中で、自身が快適になれるかを意識する。
  • その行為が、自身と周りの人、また社会にとっても良い行為であるのかを考える。

行動・観察・考察はセットで行うと良いです。

例えば、家族のために料理をする時に、仕方ないからと嫌々やっていると、それは何の成長も生みません。

時間をかけて丁寧に行ったほうが快適なのか、あるいはできるだけシンプルに行ったほうがフィットするのか、その時々の状況によって向き合い方は変わるかもしれませんが、その都度、どうすれば自身とまわりにとって快適なのかを意識してみましょう。

それだけで、日常生活の一部からも大きな学びを得ることができます。

家のこと、食事のことなど、目の前のことに丁寧に向き合って快適さについて考えると、その知恵を必要とする人が出てくるかもしれません。主婦出身の料理研究家や、片づけのアドバイザーに説得力があるのは、ご自身のために行った説得力のある知識だからです。

目の前のことに向き合うことで、それが自身のダルマとなることもあります。

「私は何をしたらいいのだろう?」という問いの答えが見つからない場合には、日常生活をマインドフルに行うことが近道かもしれません。

結果で判断しないこと

結果を目的に行う行為は執着を生んでしまい、平穏な幸せに繋がりにくいです。

あなたの務めは行為そのものにある。決してその結果にはない。行為の結果を動機として行動してはいけない。また、無行為へ執着してもいけない。(『バガヴァット・ギーター』2章47節

ダルマは、務めを行うことで自分自身を磨いてくれるものなので、その結果に期待を抱かないようにします。

カルマヨガの意味とは?行動・人生を変える日常での実践方法

例えば、ヨガを深く学びたいと思った動機が、「ヨガインストラクターになりたい」、「学んだことを周りの人に共有して、周りの人を救いたい」などであると、大きな落とし穴を生むことになります。

まずは自分自身がヨガをしっかりと学んで、自分自身で効果を体験しなくてはいけません。実践部分が充分でないと、その人の言葉に説得力がなく、聞く側の人も押し売りをされているような気持になるかもしれません。

自身がヨガによって成長をして、周りの人が感じたら、初めて人から必要とされるダルマが生まれます。

結果のための行為を行わず、目の前のことに集中する。結果は求めなくても必ず訪れるので、自身のダルマを執着なく行いましょう。

ヨガジェネレーション講座情報

再来日決定!永井先生のヨガ哲学講座