今年1月に初開催となり、大反響を呼んだ「超簡単ヨガ哲学講座」。その講師を務めてくださったのが、連載コラム「深めようヨガ哲学」でもおなじみの永井由香さんです。
現在、ヨガ哲学ライターとして、そしてバンスリー奏者として活躍されていますが、それらの活動は、導かれるままにインドへ渡り、執着を少しずつ手放す過程で、自然と始まったとか……
ビートルズ愛から、インド愛が芽生えて
そもそも、永井さんがインドに興味をもち始めたのは中学生時代。
聞いた瞬間に、大きな衝撃を受けたのをいまでも覚えています。以来、どんどんインドに魅了されていきましたね。
幼少の頃から、エスニックな世界観に、不思議と心が惹かれ、インドの神話にも興味をいだいていたといいますが、本格的にインドのことを知りたい!と思うようになったのは、このCD に出会ってから、と目を輝かせます。
そのうちにインドには、数多くの精神性を説く文献が存在することを知ったという永井さんは、すぐさま図書館へ。そして手にしたのが、なんと古代インドの聖典『リグ・ヴェーダ』でした。
いまほどヨガが一般的ではない時代。10代の少女が、ピュアな好奇心でヴェーダに巡り会い、しかもページをめくるたびに、頭での理解をこえて“これ、知っている”という感覚に包まれたというから不思議です。
社会人時代、ヨガ留学を決意
インドへのとめどない想いを抱きつつ、ついに憧れの地へと降り立ったのは社会人生活を送っていた2012年のこと。
それまでも、ヨガの呼吸法や瞑想は独学でやってはいたのですが、アシュタンガは本格的に学びたいな、と。幼少の頃からインドへ憧れていましたから、聖地リシケシで学ぶことを決意。
半年間、ヨガ留学をすることにしたんです。
この年、さらに運命的な出会いを果たします。
単身渡印し、ティーチャートレーニング(以下、TT)のクラスが始まるまでの1週間、仲間と一緒にインドを旅することにした永井さんは、ガンジス河沿いの聖地アラハバードへ向かいました。目的は、12年に一度だけ開催される、世界最大級ともいわれるヒンドゥー教の祭典「クンブ・メーラ」に参列するため。
そして、その音色の美しさにうっとりしながら、道を歩いていたら、たまたま目の前に楽器屋があって。
パッとショーウィンドウを見たら、バンスリーが飾られていたんですよ!これは、買わずにはいられないですよね(笑)
リシケシに戻った後、しばらく滞在していたシヴァナンダアシュラムでは、奇しくもバンスリー奏者と出会います。ただ、その当時は、アシュタンガヨガの修行中。連絡先を交換する程度の交流しかとらなかったそう。
そして、まだ奏で方もわからないバンスリーを、まるで相棒のようにそばに置き、TTではヨガ哲学の面白さに、いままで以上に目醒めていったといいます。
そして実際に授業を受けて、正しく腑に落とすには、哲学を生きる人の言葉をとおして理解を得、実践的に教典の教えを感じ取ることが大切だということが、どんどんわかってきて。
それで、もっと学びたい、もっと経験を積みたい、とティーチャーのアシスタントまでしながら、夢中になって勉強をしていました。
けれども、なかなかヨガの本質を生きることができなかったといいます。それは、帰国してヨガ講師をはじめると、より顕著になっていき……。
バンスリーへの道がひらかれる
帰国後、インストラクターをしているときにも、生徒さんの数や、クラスの回数ばかりに気が取られていて。
ヨガが説く真理とは真逆の、結果や未来にとらわれていたんです。その状態では、当然何をやってもうまくいかないですよね。
そんな永井さんを救ってくれたのが、「バンスリー」でした。
帰国後、シヴァナンダアシュラムで出会ったバンスリー奏者とスカイプで連絡をとる中で、自然とバンスリーの奏で方を教わるようになったそうですが、あくまで趣味の一環でやっていたといいます。
それが、みるみる上達をする永井さんの可能性を見出したそのバンスリー奏者は、グルジを紹介するからデリーに来ないかと持ちかけます。これを受け、永井さんは……
寝食をともにし、グルジの日常を間近で見ながら、バンスリーの指導を受け、それ以外の時間も、ずっと練習をしていました。
バンスリーは、ヨガ以上にヨガだった
この時間は、まさにプラナヤマそのもの。バンスリーの場合は音も出るのでより集中しやすく、瞑想的な楽器なんだな、と思いましたね。
そうして、バンスリーと向き合う日々を積み重ねていくうちに、結果にとらわれない心が培われていったといいます。
ただただ、グルジに対して恥ずかしくないように、いま与えられていることに集中して。
私にとっては、その積み重ねが、アシュタンガ以上にヨガ的効果をもたらし、未来や結果ではなく、いまこの瞬間に重きを置けるようになっていったように思います。
当時は演奏家になりたいとは、思ってもみなかったという永井さん。そんなさなか、インドでもっとも偉大な奏者と称されるムンバイ在住のPt. Hariprasad Chaurasiaを紹介され、意気投合。
デリーのグルジの元を離れ、ムンバイへ渡り師事するようになると、バンスリー奏者としての頭角をどんどんあらわしていきます。やがて世界各国のツアーに同行するほど信頼を得、演奏者とし活動するほどまでに腕を上げていきました。
このときから、人生がバンスリーの道へと導かれていたのかと思うと、感慨深いですね。
カルマヨガの真髄を、身をもって体感中
永井さんは、いまもなおPt. Hariprasad Chaurasiaに師事。そのため、ムンバイで生活を送られています。
とくにバンスリーを本格的に始めてからは、いまに集中するという意識が強化され、日常でのヨガが、いっそう深まりつつありますね。すべてが完璧ではありませんが、未来や結果に執着しない心が、人生をひらいていくというカルマヨガの教えは、本当だということを実感しています。
バンスリーが生活の軸になったいま、インドにいることがますます自然になり、以前にも増して、心が安定してきたそう。
これからどんな人生に向かうのか楽しみではありますが、それを考えてしまうと本来の道からはそれてしまうので、どんなことにも一喜一憂せず、気楽にいたいですね。
いまは、何よりもグルジと一緒に過ごせる時間が幸せ、と微笑む永井さん。その瞬間を大切にしながら「いまやるべきことに集中したい」と、清くすがすがしい、心のうちを語ってくれました。
紆余曲折を経て、自らも壁にぶつかりながら哲学を深めて。だからこそ、あのわかりやすくもディープな記事と講座を展開できるのか、と編集部一同、ただただ深く頷くばかりのインタビューになりました。