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2020年3月7日時点の発表では全世界の感染者数は101,165人、日本での感染者数は414人。刻々と増える感染者数情報にくわえて、マスクやトイレットペーパー不足を伝える報道など、不安を煽るニュースが後を絶ちません。
ヨガ業界に目をむけてみると、新型コロナウィルス感染者がヨガスタジオを利用したことが公表されました。さらに、スポーツジムでコロナウィルス感染者を介して複数の感染者が確認され、クラスターといわれる集団感染が発生したことも報道されました。
これらの事実を受け、2020年3月1日に厚生労働省から国民へのお願いとして、下記の告知が発令されました。
換気が悪く、人が密に集まって過ごすような空間に集団で集まる ことを避けてください。
イベントを開催する方々は、風通しの悪い空間や、人が至近距離で会話する 環境は、感染リスクが高いことから、その規模の大小にかかわらず、その開催の必要性について検討するとともに、開催する場合には、風通しの悪い空間をなるべく作らないなど、イベントの実施方法を工夫してください
これらの報道を受け、ヨガスタジオの多くがレッスンを自粛するなどの措置をとっています。
筆者が代表を務めるヨガスタジオWellnessLabo.はクリニックに併設されているという特徴もあり、ご病気をもつ方や比較的年配の利用者さまが多いことから、3月1日にヨガスタジでのレッスンを休止することを決定しました。
利用者さまにとってヨガが日常生活の一部となり、ご自身の心身の健康を保つ要となっている方も多いなか、レッスンの休止は苦渋の決断でした。
目に見えない恐怖に、どう向き合うべきか
目に見えない恐怖を前にしたとき、我々の心は不安になります。真っ暗な部屋にいると誰もが恐怖を感じるものです。そんなとき、ろうそくでもいい、一筋の光が見えると不安は過ぎ去っていきます。
ウィルスも同様に目には見えません。このような目に見えぬ脅威に直面し、まるで暗闇のなかに身を置くような状況下、不安を感じるのはいたって当然のことなのです。
この緊急事態に対応するべく、WHO(世界保健機構)から「新型コロナウィルスによるストレスへの対処法」を記したリーフレットが発表されました。ストレスを抱えた我々が取るべき行動指針にもなる、その内容をご紹介します。
WHOが提唱する、行動指針
- 危機的な状況下において悲しみや困惑、恐怖、怒りを感じるということはとても自然なことです。信頼できるどなたかに話すことはとても役立ちます。友人や家族に連絡しましょう。
- もしあなたが、外出できない状況であれば、健康的な生活を維持しましょう。栄養バランスの取れた食事、睡眠、運動、そしてご家庭でのコミュニケーション、友人や家族とメールや電話などの手段でのコミュニケーションなどです。
- タバコやアルコールやドラッグを、気持ちを落ち着けるために使わないでください。もし気持ちがどうにも落ち着かないときは、医療関係者やカウンセラーに相談してください。必要に応じて身体と心の健康について、どこでどのように相談すればよいかなど、教えてくれます。
- 信頼ある情報、事実のみを入手してください。正確なリスクを見極める情報を収集することで、適切な予防措置をとることができます。WHOや厚生労働省などから情報を得るとよいでしょう。
- 心が落ち着かなくなるような報道を避けるようにしてください。そうすることで心配や不安から遠ざかることができます。
- 自分なりのストレス対処法を確立しましょう。以前に辛かったときに助けになった対処法は、今回のような困難においても自らの助けになるでしょう。
WHOが提唱した行動指針にくわえて、以下にストレス対処法への若干の補足をしたいと思います。
不安の緩和に、役立つこと
親しい人との会話
小学校・中学・高校は休校となり、ヨガを含めて様々なイベントが中止となっています。マスメディアでは不安を惹起するような報道が多く、このような状況下で恐怖や不安を感じるのは至って当然と言ってよいでしょう。
そんなとき、親しい誰かに話すことによって、改めて自分の気持ちや考えに気がつくことができ、それによって自分の心が整理されます。さらにはホッとするような浄化作用が得られます。他の人も同じ考えや気持ちを持っていると気がつくことで安心することもあるかもしれません。
以前の調査になりますが、なにか困りごとがあったときに人に話して解決すると回答したのは女性の36.2%、男性ではわずか13.1%となっています。気持ちをありのままに親しい人に話すことは、慣れない方には気恥ずかしかったりするかもしれません。けれども、こんなときこそ、家族や友人とゆっくり語らいあう時間が必要なのです。
いつもどおりの生活を
なにか大きな出来事があったときこそ、いつもどおりの生活をすることは心身の健康に役立ちます。いつもどおりの生活をして、安心・安全が保障されることで心が整うのです。
スタジオがお休みのため、毎週のルーティンとなっているヨガができなかったとしても、畳1畳ほどのスペースがあれば家でもできるのがヨガの素晴らしいところです。安定した呼吸を継続することで自律神経が整います。呼吸を意識してアーサナを行ってみてください。
嗜好品に依存しない
タバコやお酒の量が増えてしまっている方は、ぜひ自分の健康に注意してみてください。自分の気持ちがコントロールできないと感じたら躊躇せず専門家に相談してください。
正しい情報を選択すること
見えない不安に直面したときには、正しい情報を得ることが最も重要です。真っ暗な部屋にいるときには誰でも不安になります。しかし、そこに一筋の光が照らせば不安は減じます。正しい知識は、光となり、不安を緩和。正しい対処へと導いてくれるでしょう。
新型コロナウィルスについても、我々には正しい知識が少ないため不安が高まっています。さらに、このような未知の脅威が現れると、残念ながらマスメディアではセンセーショナルに報道されがちですし、ウェブ上では出所不明の情報が飛び交うことがままあります。
今回も一部SNSでは「27度のお湯を飲むことで消毒できる」とか「ビタミンDが免疫を高める」などのフェイクニュースが流されたようです。誰でも自由にインターネットで情報を発信できるようになった現在、「正しい情報を選択する(見極める)こと』が我々に求められる能力であると言えます。
出典が明らかにされていない情報はすぐに鵜呑みにしないこと。誰かが正しいというだけでは、残念ながら医学的には正しい情報とは言えません。
ここまで読んでいただいて、お気づきの方もいらっしゃると思いますが、今回の記事は、新型コロナウィルスの医学的な情報を、筆者がお伝えしているものではありません。筆者は精神科専門医ではありますが、感染症専門医ではないからです。今回、医師というだけで間違った情報を発信し問題となった例もあります。
このような世界的危機のなかで、正しい情報を選択するためには、WHOの指針にもあるように、厚生労働省等の行政機関の発信する情報を参照してください。
自分に合った方法で、ストレスを解消
あなたにとってのストレス対処法は何ですか? たとえばそれが、ジムで運動することだった場合、ジムに行けなくなるとストレスがたまる一方でしょう。いまは、複数のスタジオが休業していますので、そのような方が多いかもしれません。
自衛官のメンタルヘルスを担当されていた下園壮太先生は複数のストレス対処法を持っていた方がよいと指摘されています。男性自衛官の方にアンケートをとると、多くの方がストレス対処法としてアルコールとランニングをあげる傾向があります。
ところが、彼らがイラクに派兵された際、イスラム教の関係で飲酒が禁止され、さらに危険地帯のためランニングも規制されました。結果多くの方がかなり苦しい生活を強いられたという反省から、下園先生は“動”と“静”の複数のストレス対処法を平時から用意することの重要性を指摘されています。
新型コロナウィルスが流行するいま、我々自身のストレス対処法を見直す良い機会ともいえるでしょう。ストレス対処法をリストアップして自分のメンテナンスのために、複数持っておくと良いでしょう。
日頃からヨガをされている方はもちろん自分のためのプラクティスを続けることはもちろん、ともに過ごす家族にヨガをお伝えしてみるのも、いいかもしれません。
新型コロナウィルス感染症関連の情報源
参考資料
- 厚生労働省『健康に対する意識調査(2014)』
- 被害者支援都民センター『事件・事故にあわれたときに』
- 下園壮太 著『心の疲れをとる技術』(朝日新書、2013年)