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どんな生徒さんでも、安心してほしいから
2019年春、ボストンのトラウマ・センターが開催している「トラウマ・センシティブ・ヨガ」の300時間にわたる講習を無事に終え、ファシリテーター認定を受けました。
トラウマ(心的外傷)といっても、いろいろな種類のものがあります。たとえば、1995年の阪神・淡路大震災後に広く知られるようになった交通事故や震災などの一時的なPTSD。
また、 虐待や育児放棄、性的暴力、いじめ、パワハラ……などの長期的・反復的な複雑性PTSDなど。トラウマ・センシティブ・ヨガは、このうちより後者へのアプローチになります。
トラウマを、特に本来ならば健全で幸福な発達を助けてくれる身近な人から長期にわたり受けた場合は、体験が去った後にも、精神的な変調があとを引きがちです。
しばしば成長過程で健全な人間関係、または自分自身との繋がりを歪めざるを得なかった方の場合、人と仲良くなることや、自分を大切にすることが未知の領域であったりします。新しく調和的な関係性や振る舞いを学びなおすことに、長い時間を要することもあるのです。
なぜ「トラウマ・センシティブ・ヨガ」がいま必要なのか
当たり前のことですが、私はヨガ講師であり心理療法の専門家ではありません。
世界中からヨガ講師のみならず精神科医や心理士、ソーシャルワーカーの方などが参加した研修を通じて改めて知ったことも多く、私はトラウマという言葉や、人を傷つける可能性がある言葉を、ヨガの指導中に、そして日常生活の中でカジュアルに使うことに敏感になりました。
言葉にならないような心の傷を負った人は、私が思っていた以上に社会の中にたくさんいらっしゃることを知ったからです。
複雑性トラウマのサバイバー、その後を生きる人たちは、ちょっとしたことで引っかかりやすくなります。
健全な人間関係とそうでないものの区別が混乱しがちであり、トラブルに巻き込まれやすくなったり、仕事が続かなかったり、耐えられないしんどさから逃れ、生き残るための手段として依存症に陥る人や、自分自身が受けた仕打ちを育児で再演してしまう人もいます。
こうした負の連鎖、パターンを書き換えるうえで、トラウマ・センターが提供しているようなヨガには補完療法として価値があるのです。
脳科学的な知見に基づいた治癒的なアプローチ
また、ヨガのすべてがトラウマの補完療法として有効なわけではなく、トラウマ・センシィティブ・ヨガには過去の臨床的な、そして脳科学的な知見に基づいた治癒的なアプローチが存在します。
残念なことですが、ここ数年世界的に高名なヨガ指導者の性的なスキャンダルが次々に明らかになっています。
信頼している先生に傷つけられた体験を、生徒さんはどう消化していけば良いのでしょうか。
よくあることとして、流してしまって良いのでしょうか。流派や指導者を賢く選ぶことが大切ですし、生徒さんの側も指導者が自分と同じ不完全な人間であることを知り、崇拝しすぎないことも健全なヨガコミュニティの形成につながるのだと思います。
誤った健康観で、誰かを傷つけないために……
生徒さん一人ひとりを尊重し、思いやりをベースにヨガを伝えることで、安心して練習できる可能性が高まります。
もし私のクラスに、何らかのトラウマを抱えられている方が参加くださった場合、小さな尺度で切り捨てたり、そのフィルター越しに、相手を判断して傷つけないためにも、「トラウマ・センシティブ・ヨガ」の講習を受けたことは、とても役立ちました。