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ヨガの練習をしている時のほか、日常生活のなかで、どれだけ呼吸に意識を向けられているでしょうか?伝統的なハタヨガでは、アーサナ以上に呼吸の効果について強調しています。
今回は、現在のハタヨガの原型となったと言われる教典『ハタヨガ・プラディーピカー』を参照しながら、呼吸の効果についてご説明します。
心・身体・気は繋がっている
健康を維持し、病気から身を守るには、身体的なアプローチだけでは充分ではないかもしれません。人の心・身体・気は常に相互に関係しているからです。
例えば、仕事などでストレスがある時に頭痛が起きたり、緊張状態が続いていると便秘になることがあります。さらに、良くない心理状態を放置していると、睡眠障害や自律神経の乱れに繋がることも。
こうしたストレスや緊張状態にいる時には、まず自分の呼吸を観察してみて下さい。無意識に浅い呼吸になっていたり、とても速い呼吸になっていることに気づくはずです。心が本当に苦しくて泣いている時には、呼吸することさえ上手くできなくなっているかもしれません。それが悪化すると過呼吸になります。
呼吸は健康や精神様態と深く関わっています。自分の健康維持を心がけたい時には、食事や運動だけでなくて、心や呼吸に意識を向けましょう。
呼吸は妙薬にも毒にもなる
呼吸をコントロールする練習は極めて慎重に行わなくてはいけません。
直接プラーナヤマの指導をしてくれる先生が身近にいない場合、クンバカ(息を止めること)を含んだ深いプラーナヤマの練習は避けて下さい。プラーナヤマの練習は生命エネルギーをコントロールする実践なので、やみくもに練習するのはよくありません。
調気を正しく行じていくならば、いっさいの病がなくなるであろう。しかし、修練の仕方を誤ると、かえってあらゆる病が生ずる。(『ハタヨガ・プラディーピカー』2章16節)
プラーナヤマの練習は、きわめて慎重に、少しずつ行わなければいけません。
クンバカの他、ひとりで練習する場合には、自分の限界まで息の長さを伸ばそうするのも危険なので、それ以外の方法を取り入れるようにしましょう。
プラーナヤマの練習が上手くいっていない時には以下のような症状が現れます。
- しゃっくり
- 喘息
- 咳
- 頭、耳、眼の痛み
など。
また、めまいなどを感じる人も多いです。そのような症状が出た場合には、速やかにシャバアーサナの姿勢で休みましょう。
プラーナヤマの実践が成功すると、身体の中のエネルギーが通る気道が清浄され、正しくエネルギーが通るようになります。
また、気道が清掃されると、気を好きなだけ静止しておくことができ、胃の中の火が盛んに燃え、ナーダ音がハッキリと聞こえ、無病息災になる。(『ハタヨガ・プラディーピカー』2章20節)
結果、新陳代謝や消化の力も高まり病気にもかかりにくくなります。たとえウイルスが体内に入ったとしても、体内の免疫力が正しく機能していると、発症しない、または症状が軽くなります。
アーサナの練習でも呼吸が重要
普段のアーサナの練習の時に、どれだけ呼吸に意識を向けられているでしょうか?アーサナは形だけではなくて、呼吸と合わせることによって効果が著しく増幅します。
両手を前で重ね合わせ、ことさらに固くパドマ体位を組み、深くアゴを胸にうずめて、心に「かのもの」(タット)を思念しながら、くりかえしてアパーナ気を上へ引き上げ、吸い込んだプラーナ気を下方へかよわせることによって、ひとはシャクティの助けを得て、無比な悟りを得る。(『ハタヨガ・プラディーピカー』1章24節)
こちらは、ハタヨガ・プラディーピカーに書かれた3種類のパドマ・アーサナ(蓮華座)の一つです。アーサナの意識づけに関して詳しく説明されています。
ここで書かれたパドマ・アーサナ(蓮華座)のコツは3つ。
- タット(ブラフマン・宇宙原理)をイメージ
- アパーナ気を引き上げる。(バンダを使う)
- 呼吸で吸ったプラーナ(気)を下方に届ける。
アーサナは形だけではなく(1)意識をどこに向けるのか、(2)バンダのしめつけ、(3)呼吸によるエネルギーのコントロールが重要です。
アパーナ気とはヘソから足までの間で働くエネルギー、プラーナ気は鼻頭から心臓までのエネルギーを意味します。呼吸によって体内に取り込んだエネルギーを、体内の潜在能力がやどるクンダリニーに届けることで効果を得ることができます。
パドマ体位はあらゆる疾患の破壊者といわれる。ただし、副分の薄い人は誰もこのこと(病気の破壊)に成功しない。この地上では、ひとりの賢明な人だけがこのことに成功する(『ハタヨガ・プラディーピカー』1章48節)
パドマ・アーサナだけでも、あらゆる身体的な疾患を破壊できると説いています。それはすごく難しいことですが、正しい意識づけで良いメリットを得ることは可能です。そのためには、アーサナの実践中にも呼吸を通したエネルギーの流れを意識することがとても大切になります。
日頃のアーサナの練習の時に、呼吸に対する意識を強めるだけで、アーサナの効果が一気に高まります。
各プラーナヤマ(調気法)の効果
古典派やヨガには様々な呼吸法が説かれていますが、中には日常生活の動作の中で行える呼吸法もあります。
『ハタヨガ・プラディーピカー』の中で効果について触れられている呼吸法のうち、3つを紹介します。
カパーラ・バーティ
火の呼吸として有名なカパーラ・バーティですが、直訳すると「頭蓋骨(前頭)の輝き」となります。実践した時に、鼻孔の奥が清浄されて、キラキラと輝いた光の映像を見ることができます。
『ハタヨガ・プラディーピカー』によると、カパーラ・バーティはプラーナヤマではなく、プラーナヤマの準備段階となるクリアヨガの一部と定義されています。そのため、誰でも実践しやすい呼吸法です。
かじ屋の使うふいごのように、すばやく交代する呼吸がカパーラ・バーティといわれるもので、粘液質の過剰からくる疾患を消す。(『ハタヨガ・プラディーピカー』2章35節)
粘液質の疾患とは、3つの体質(ヴァータ・ピッタ・カファ)の中の、カファが原因で起こる疾患です。気管支系、咳、喘息、アレルギー、鼻炎、糖尿病などです。
カパーラ・バーティの素早い呼吸で体内の火を燃やし、疾患の原因となる不純物を燃やします。
スーリヤ・ベーダナ・プラーナヤマ
スーリヤ・ベーダナ(太陽の呼吸)は、右の鼻孔で吸い込み、左の鼻孔で吐くプラーナヤマです。
この最上のクンバカなるスーリヤベーダナは頭の中を清掃し、ヴァータ質の疾患をとり去り、寄生虫の害を除いてくれる。それ故に繰り返し行うがよい。(ハタヨガ・プラディーピカー2章50節)
ヴァータ性の疾患には循環障害(高血圧、脳血管疾患、虚血性心疾患)、神経痛、目の疾患、乾燥、冷えなどがあります。
ウジャーイ・プラーナヤマ
両方の鼻孔で音を出しながら息を吸い、左の鼻から吐く呼吸をウジャーイ・プラーナヤマと呼びます。
この呼吸法はノドのセキを去り、体内の火(消化力)を増強し、気道、体液、腹部、全ての体質などに存在する疾患を消し去る。このウジャーイと呼ばれるクンバカは歩きながらでも、立ちながらでも行うことができる。(ハタヨガ・プラディーピカー2章52・53節)
ウジャーイは、とても多くの効果を体感することのできる呼吸法です。
さらに、歩いているときなど、日常生活でも実践することができます。
座って行うときには手で鼻孔を抑えて息を吐きますが、立って行うときなどには省きます。その場合はクンバカ(息を止めること)も行いません。
アシュタンガヨガでは、全てのアーサナをウジャーイ呼吸と連動させて行うことによって、よりアーサナの効果を増大させています。アーサナの練習ととても相性のいい呼吸法です。慣れてくれば、歩いている時、仕事中のちょっとした休憩に行うこともできます。
呼吸を使って、健康は自分の内側から整えましょう
すでに疾患として症状が現れてしまっているものに対して、呼吸を整えても急に治癒することは難しいでしょう。しかし、日常から自身の呼吸に意識を向けて整えることで、調子を崩しにくい身体、免疫力の強さを得ることができます。
自分の体質ごとに必要なプラーナヤマの実践を行うことで、病気に負けない健康的な身体作りをしましょう。