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ヨガの実践が定着してくると、古典ヨガの教典を読んで知識を、より深めていきたいと思う方も多いかもしれません。
ただ、ヨガの古典教典にはいくつもの種類があります。そのため、どれから読んだらいいのか悩んでしまうこともあるでしょう。
そこで、今回は、それぞれの教典の特徴についてご紹介します。それぞれ、どのような内容が、どういう視点で書かれているのかを把握し、深めたい内容とリンクしているものから読み進めていきましょう。
日本語訳になった、もっともポピュラーな4つの教典
どの教典もヨガについて書かれているのだから、内容も似ているのでは?と考えている方もいるかもしれません。しかし、実は文献によって書かれた時期も、内容も全く違いますし、違う宗派の人が書いているため、考え方が違うこともあります。
それを分からずに複数の経典を同時に読むと、内容の相違点に困惑することもあります。できれば、1つの教典を、まず読み切ってから、次の教典を読むのがいいでしょう。
今回ご紹介する経典は以下の4つ。古い順に並んでいます。
- バガヴァッド・ギーター
- ヨガ・スートラ
- ハタヨガ・プラディーピカ
- シヴァ・サンヒター
どれも、日本語訳が出版されているポピュラーなものです。この4つをなんとなく理解できると、星の数ほどある現代のヨガの様々な流派が、何を土台に築き上げられたものなのか、なんとなく分かるようになります。
バガヴァッド・ギーターは生き方の教科書
『バガヴァッド・ギーター』は、愛の神様として有名なクリシュナが、主人公アルジュナに向けて説いた世界の真実とヨガについて説いた会話が書かれている教典です。
もともとはマハーバーラタと呼ばれる巨大な叙事詩の中の一場面なので、1章目から読むと戦争のシーンから始まり、少し読みにくいかもしれません。
しかし、ストーリーにとらわれずに、自分自身の人生に当てはめて読むことで、一生役に立つ教えが説かれています。
インドでは、ヨガを実践している人にとどまらず、人々の生き方の指針・道徳書として広く愛されています。
ギーターのヨガの特徴
- 人生のどの場面でも使える生き方の智慧
- 様々な立場の人に合う、複数のヨガが説かれている
- 神・宇宙と一体になることを目指していて、神であるクリシュナへの愛について深く説かれる
ギーターのヨガの種類
『バガヴァッド・ギーター』では、下記のとおり複数のヨガの種類について説明されています。自分自身の環境や個性にあったヨガを実践することができます。方法は違っても、全てのヨガは終わりのない至高の幸せに続きます。
バクティ・ヨガ(信愛のヨガ)
クリシュナ神への深い信愛によって、自我意識(エゴ)を手放し、幸福と一体になれる。
ギャーナ・ヨガ(知識のヨガ)
学ぶことによって、真実を知り、生き方を変えて、幸せに生きる道を知る。
カルマ・ヨガ(行為のヨガ)
自分自身が行うべきことを知り、献身に行動を実践することで幸せな生き方を見つける。
アビヤーサ・ヨガ(常修のヨガ)
常に宇宙意識や神といった純粋な真実に心を結ぶことで、苦悩を生む世界の幻に騙されない。
ブッディ・ヨガ(知性のヨガ)
深い瞑想状態を実践することで、自分の真実と一体になる。
サンヤサ・ヨガ(放棄のヨガ)
自分の行いへの執着を完全に捨てることで、心の自由と幸福を得る。
ヨーガ・スートラは現代ヨガの土台
現在、ヨガの教典として最も有名な『ヨガ・スートラ』。自分自身の心を取り扱うための説明書のようなものです。『ヨガ・スートラ』では、心の働きについて説明し、どのように心をコントロールしていくかを8つの実践(八支則)で説明しています。
ヨガ・スートラのヨガの特徴
『ヨガ・スートラ』では、たった一つのヨガの道について説かれています。現在では、『ヨガ・スートラ』で説かれたヨガをラージャヨガ(王のヨガ)と呼んでいます。
ヨガの実践では、外側への意識から、徐々に内側に意識を向けていき、最終的には心の働きを完全に制止させます。
思考を止めることによって、普段は感じることが難しい本当の自分(=プルシャ)に出会うことができ、確固たる軸そのものである、何ものにも惑わされない、純粋で光り輝く自己に気が付くことができます。
ヨガ・スートラの八支則
『ヨガ・スートラ』では、下記の8つの実践方法を順番に実践することで最終的な目的に到達できると説いていますが、その8つを八支則(アシュタンガ・ヨガ)と呼びます。八支則によってサマディ状態を経験し、その先にある完全な解脱を目指します。
ヤマ(制戒)
社会的な禁止事項。アヒムサ―(非暴力)、サティヤ(正直)、アスティヤ(不盗)、ブラフマチャリヤ(禁欲)、アパリグラハ(不貪)の5つが含まれる。
ニヤマ(内制)
自分に対する制御。シャウチャ(清浄)、サントーシャ(知足)、タパス(熱業)、サヴァディアーヤ(読誦)、イシュワラ・プラニダーナ(神への祈念)の5つが含まれる。
アーサナ(座法)
瞑想に適した座り方。
プラーナヤマ(調気法)
呼吸によって体内外のプラーナ(気)をコントロールする。
プラティヤーハーラ(制感)
外の世界から受ける感覚を制御する。
ダーラナ(凝念)
意識を1点の対象に集中させる。
ディヤーナ(静慮)
ダーラナによって集中された意識が自然に広がっていく。
サマディ(三昧)
自然に自我意識(エゴ)が消え去り、静けさが訪れた状態。
ハタヨガ・プラディーピカで、身体と心の関係を知る
ハタヨガの教典として最もポピュラーなのが『ハタヨガ・プラディーピカ』です。ハタヨガは、瞑想を中心とするラージャヨガ(ヨガスートラのヨガ)への準備段階として説かれています。
ひとえに人々をラージャ・ヨガに導かんがために、ハタヨガの教えを説く。(『ハタヨガ・プラディーピカ』1章2節より)
ハタヨガ・プラディーピカのヨガの特徴
『ヨガ・スートラ』よりもずっと後に書かれた教典で、原則としては古典ヨガ(ラージャ・ヨガ)に向かうための実践方法として書かれていますが、よりタントラ的な要素が強く、神と一体となることを目指す神秘的な密教の要素があるのも特徴です。
現在のヨガで中心的に行われているアーサナやプラーナヤマについて、詳しく実践方法と効果が書かれています。身体と心の関係を知るためには最適な一冊です。
ハタヨガ・プラディーピカのヨガ
アーサナ(体位)
代表的な15のアーサナの方法、効果について説かれる。
クリヤ(浄化法)
6つの浄化法で、体内のナーディー(気の通る道)を浄化する。プラーナヤマの前に行う。
プラーナヤマ(調気法)
8つの調気法が説かれる。呼吸をコントロールすることで、体内のプラーナ(生命エネルギー)を制御する。
ムドラー(印)
6つのムドラーにより、体内の眠っている潜在能力(クンダリニー)を目覚めさせる。
ラージャ・ヨガ
サマディの状態に入ること。
シヴァ・サンヒターで神秘的なヨガの世界が知れる
いくつも残っているハタヨガの経典の中で、もう一つご紹介したいのが『シヴァ・サンヒター』です。『シヴァ・サンヒター』はシヴァ神を信仰するナータ派の教典ですが、ハタヨガの行法についても書かれています。
本来密教として伝えられてきた神秘的な思考を知ることができる、興味深い教典です。プラーナやチャクラなどを理解するためにも役に立ちます。
シヴァ・サンヒターの内容
宇宙観
唯一の真実であるアートマンについて、それを知るたった一つの方法がヨガであると説く。宇宙や人間が生まれる仕組みも知ることができます。
人間論
ヨガ的に説かれた人間の仕組み。体内のプラーナの道であるナーディや、魂について。
ヨガの実践
プラーナヤマやアーサナ、ムドラーについて、理論的に説明。
雑記録
ヨガの種類、6つのチャクラ、ナーダ音、マントラなど、現代のヨガに繋がる知識。
自分に合った教典を見つけましょう
このように、数あるヨガの教典は、書かれた背景も内容もまったく違うものです。自分が実践しているヨガにあったもの、今知りたいことに即して、勉強する教典を選んでください。
注意していただきたいのは、ヨガの答えはたった一つではないことです。
以上のことからもわかるとおり、実際にいくつも教典を読むと、宗派によって全く違う見解が述べられていますが、ぜひ何が正しいかをジャッジすることなく読み進めてみてください。
自分にとって最適な教えを見つけることによって、迷いが消えていくと思います。