みなさん、こんにちは!丘紫真璃です。今回は、大草原の小さな家シリ-ズの中の一冊『長い冬』をご紹介したいと思います。
コロナウイルスの影響で日常生活がガラリと様変わりしてしまい、多くの方が苦しんでいらっしゃると思います。そんなコロナのニュースを日々聞きながら、私が思い出したのが、この『長い冬』の物語でした。
主人公のローラは、かつて経験したことのない猛吹雪に襲われて、7ヶ月もの間、家からほとんど出ることができなくなります。そんな過酷な状況を乗り越えていくお話なのですが、今の私達の状況と共通するところがあるなと私は思い、この本を開いてみたのです。
それでは、早速、アメリカの大草原に飛んでいってみましょう!
大草原の小さな家シリーズとは
作者のローラ・インガルス・ワイルダーは、1867年、アメリカのウィスコンシン州に生まれます。開拓時代を大草原の各地で過ごしたローラは、65歳になってから、その子ども時代を9冊の本に残しました。それが『大草原の小さな家シリーズ』です。
ローラの娘のローズ・ワイルダー・レインは、有名な作家だったそうで、ローラは娘と力を合わせ、二人三脚で、このシリーズを書き上げたといわれています。
作者のローラは、この物語を書いた理由を次のように語っています。
わたしは大草原で体験したことをどうしても語り継ぎたいと思いました。消えてしまうのはもったいないほど、すばらしい物語だからです。
ローラが書き残してくれたおかげで消えずに残った大草原の物語は、今も色あせない名作といえるでしょう。
厳しい冬
『長い冬』は、『大草原の小さな家シリーズ』の第六巻にあたります。主人公のローラは13歳。父さんのチャールズと、母さんのキャロライン、姉で盲目のメアリと、妹のキャリー、グレイスの6人家族で暮らしています。
彼らが住んでいるのは、大草原の中にポツンとある小さな農地。10月なのに猛吹雪に襲われてしまいます。あまりの猛吹雪に、外にいた牛の頭が地面に凍り付いてしまうくらい。
その猛吹雪はいったんやむのですが、町にいった父さんは、インディアンのおじいさんから、不吉な予言を聞かされます。「この冬はかつてないほど厳しくなり、猛吹雪が7ヶ月も続くだろう」というのです。農地の家はスキマだらけでとても寒さがふせげないということで、父さんは、町に建てた頑丈な家に、家族で引っ越すことを決意します。
町に引っ越して、学校も近くなったので、ローラと妹のキャリ-は、学校に通いはじめます。ところが、2人が学校に馴染み始めてまもなく、下校中に猛吹雪が襲います。
たたきつけ、渦を巻くような猛烈な風で、ほとんど歩けなかった。
目に入るものはただ、うずまく白い世界と、雪と、それから影のようにすぐに消えて見えなくなるお互いの姿だけだった。
ー 『長い冬』第九章より[1]
という状態で、家にたどり着くまで困難を極めます。
必死に妹の手をにぎり、何とか命がけで家まで帰ったローラ達ですが、その事件の後、猛吹雪が絶えず町を襲い掛かるようになり、学校は休校になってしまいます。
困ったことは、猛吹雪が来るたびに、汽車が止まってしまうことです。雪で線路が埋まってしまうと、汽車が走れなくなるのです。汽車が走れないと、生活に必要な食糧や燃料が、町に届かなくなってしまいます。
ローラは吠えたける風の音を聞きながら、すぐとなりの家の明かりさえ見えないほど吹きあばれている吹雪の中に、ぽつんとある小さな町一軒一軒の小さな家のことを考えていた。
この小さな町は、広大な大草原にとりのこされて孤立している。町も大草原もこの荒あらしい吹雪の中で、まいごになってしまった。地面もなく空もない、ただとてつもなく激しい風と何も見えない白い世界にのみこまれてしまった。
(略)激しい音と不気味な白い光を持つこの嵐の中では、よその明かりも声もまったく届かなかった。
ー 『長い冬』第十二章より[1]
そのうち、春まで汽車は通らないということになり、大草原の中の小さな町は、食糧不足に苦しむことになっていきます。
吹雪に負けない
素晴らしいのは、この厳しい状況の中でのローラの父さんと母さんのふるまいです。雪粒がまるで散弾のように降り注ぎ、風が吠え、汽車が止まってしまい、物資が届かなくなって、町から食料がなくなるという心配の中でも、父さんはほがらかに、
わたしらはここで気持ちよく、暖かく暮らしている。店やほかの人間がたくさんいなくても今までやってきたように快適だ。
さ、その温かい夕めしをごちそうになろうじゃないか!
ー 『長い冬』第十二章より[1]
と明るく言い、ヴァイオリンでにぎやかな明るい曲を次々に奏でて歌います。すると、みんなは気持ちが晴れやかになり、子ども達は立ちあがって、息があがるまで踊ってはしゃぎます。
汽車が来ないため、町の物資がどんどん減ってしまい、父さんは、店に買い物に行っても、灯油も肉も燃料も買えなくなってしまいます。買うことができたのは紅茶だけだったのですが、母さんはとても喜んで、父さんに明るく言います。
紅茶を買ってくるのを思いついてくださって、うれしいわ。なかったら、どんなにか味気ないでしょうよ!
ー 『長い冬』第十五章より[1]
どんなに物がなくなっていっても、父さんと母さんは決して明るさとほがらかさを失いません。灯油がなくなって、ランプに明かりを灯せなくなってしまっても、母さんは、わずかな車軸油とボタンと布を使って、小さな明かりをこしらえます。すると、父さんは、それを大げさに喜ぶのです。
キャロライン、おまえはすばらしいよ。ほんのわずかな明かりだが、あるのとないのとでは大ちがいだ!
ー 『長い冬』第十九章より[1]
最後の石炭がなくなってしまうと、父さんは干し草を木の棒のように固くよって、薪の代わりに使います。今度は、母さんがその工夫にとても喜んで、声をあげて笑います。
干し草の棒とは!次は何を考えつくのやら。チャールズ、あなたは道さがしの名人だわ。
ー 『長い冬』第十八章より[1]
それでも、来る日も来る日も猛吹雪が続き、食料も燃料も乏しくなり、家に閉じ込められる日々が続くと、さすがのローラ達も、だんだんまいってしまいます。すると、父さんは寒さの中で干し草をよりすぎて、赤くはれあがったこわばった手をにぎりしめて、こういうのです。
負けるもんか!いずれきっとやむんだ。しかし、わたしらは負けない。やられてたまるもんか。決してあきらめないぞ。
ー 『長い冬』第三十章より[1]
父さんの言う通り、どんなに長い猛吹雪もいずれ終わりを迎えます。
とうとう、ローラ達の家の食糧もつきかけてしまった5月、ようやく春が来て、汽車が通ります。汽車は、父さんと母さんの知り合いが送ってくれたクリスマスの贈り物とごちそうを運んできてくれました。
それは、クリスマスに届くはずの贈り物だったのですが、春になってようやく来たのです。みんなが、5月のクリスマスを祝い、にぎやかにごちそうを食べるところで、物語は幕を閉じます。
ヨギーの心が天国を作る
私達は、猛吹雪を止めることはできません。けれども、どんな状況においても、ヨギーは、喜びと平安を見出すことができるのだと『ヨガ・スートラ』には書かれています。
ヨガの全ての修行は、どんな時にも振り回されず、平和に心を保っていられるようにするためにあるのだと、パタンジャリはくりかえし語っています。
そう考える時、ローラの父さんと母さんこそ、ヨギーだといえるのではないでしょうか。
来る日も来る日も猛吹雪が襲い、食料はどんどん乏しくなって、いつ凍え死にするか、いつ飢え死にするかという瀬戸際まで追い詰められながらも、父さんと母さんは、決して自分を見失いません。
食卓に並ぶ食べ物が、どんなにまずしくても、父さんはいつも、「やあ! これはうまそうだ!」と大げさに喜んで、テーブルにつきます。
明日、小麦粉がなくなるという時にも、母さんは、「今あるものに感謝しましょうよ」と、明るく朗らかに、娘達に言って聞かせます。
外でどんなに猛吹雪が荒れ狂っていても、父さんは明るくヴァイオリンを奏でて、家の中をにぎやかで楽しい場所に変えてしまいます。父さんの指が、寒い中で長いこと働きすぎてはれてしまい、ヴァイオリンが弾けなくなっても、みんなは、力強く歌います。
どうってことない おそれるな」
シリーズ全体を通して、ローラの家はいつも、厳しい自然と闘い、イナゴの大群に襲われたり、家じゅうが猩紅熱(しょうこうねつ)にかかってしまったり、メアリが失明したりと、その暮らしは決して、安定しているとはいえません。
それなのに、いつだって、ローラの家の中には、明るさと平安さがみなぎり、父さんのヴァイオリンが明るく響き渡っているのです。
猛吹雪の冬の中でさえ、ローラは、家の中にいて、こんな風に思います。
天国が、今自分のいるところよりもっといいところだとはとても思えなかった。
だんだん体が温まって、いい気持ちになり、熱い、あまい紅茶をすすっていると、そばには、かあさん、グレイス、とうさん、キャリー、メアリがいて、それを飲んでいるのが見える。
外では吹雪があばれまわっているけれど、みんなに手出しはできないのだ。ほかに、こんなすばらしいところがあるだろうか。
ー 『長い冬』第九章より[1]
不意に襲ってくる災厄からは逃れることはできないのだと、今、つくづく痛感します。先が見えない不安の中、それでも、自分の暮らしを天国に変えるのは自分自身の心であり、だからこそ、ヨガが大事なんだと、ローラ達の暮らしぶりから改めて思うのです。
参考資料
- ローラ・インガルス・ワイルダー著、谷口由美子訳『長い冬』岩波少年文庫、2000年