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私たちが生きている世界は、3つのグナ(性質)の組み合わせでできていると考えられています。それは、物質的なものも、私たちの心の状態にも当てはまります。
ヨガでは、できるだけ自分自身の純粋さを上げることを目指します。今の自分の状態、自分の周りのものの性質について考えて、サットヴァ性の高い生活を目指しましょう。
まずは、3つのグナの特徴を理解しよう
3つのグナとは、ヨガの哲学の土台となったサーンキャ哲学の基本的な概念です。
サットヴァ(純粋さ)、ラジャス(激しさ)、タマス(鈍さ)の3つからなります。世界に存在する全てのものは、この3つのバランスによって作られています。
サットヴァ・ラジャス・タマスという、プラクリティ(根本原質)から生ずる諸グナは、不変のデーヒン(主体)を身体において束縛する。(『バガヴァッド・ギーター』14章5節)
詳しくは過去の記事でご説明しているので、基本部分だけご説明します。
サットヴァ(純質)は最もプルシャに近い
サットヴァとは純粋さに支配された性質を意味します。透明で軽く、明るくて、静かで、幸せで……限りなく純粋な状態を意味しています。
心の中のサットヴァ性が上がることで、自分自身の本性であるプルシャ(真我)またはアートマン(個の根源)を知ることができます。
ラジャス(激質)は他のグナを活発にする
ラジャスとは激しさに支配された性質を意味します。動き、欲望、激しさ、躁状態、反感、怒り、渇愛、集中力のない状態です。
ラジャスの性質が活発になると、サットバやタマスも刺激され活発に動きます。
タマス(鈍質)は真実を覆い隠す
タマスは鈍さに支配された性質です。
重さ、暗さ、濁り、無知、暗さ、怠慢、怠惰、睡眠、貪欲、執着、鬱状態などです。
タマスが優勢になると、真実が見えず、利己的になり、苦しみを生みだします。
サットヴァ性を上げることで幸せになれる
サットヴァに依存するものは上方にいき、ラジャス性のものは中間に止まり、最低のグナの活動に依存するタマス性のものは下方に行く。(『バガヴァッド・ギーター』14章18節)
タマス性は怠慢さによって上がってしまいます。しかし、タマスが上がってしまった状態は正しい見地が失われて、執着や苦しみが増幅してしまいます。
心の中の光を見つけて幸福を感じるためには、サットヴァ性を上げるようにします。ヨガ的な生き方をするためには、できるだけサットヴァ性の高いものを選ぶようにしましょう。
自分の生活を囲むもののグナを考える
私たちの心は、自分の周りを流れるエネルギーに影響されやすいといった特徴があります。
例えばアヒムサについて書かれたヨガスートラを読むと、自分自身のアヒムサ(非暴力)を高めることで、周りの人や動物までが敵意を失うと書かれています。
非暴力の戒行に徹したならば、その人のそばでは全てのものが敵意を捨てる。(『ヨガ・スートラ』2章35節)
自分が相手に与える影響・自分が周りから受ける影響は相関関係になっており、ともに大きな力といえます。だからこそ、自分の生活に関わるもののグナの状態には常に気を使うと良いでしょう。
自分の部屋(家)の状態を整える
ヨガの古典教典の中にも、適切な住居について書かれています。
ハタの道にいそしむ大師は、ヨーガの庵室の構えを次のように描いている。戸口は小さく、窓、床のくぼみ、隙間などが無く、高からず、低からず、広すぎず、如法に牛糞を厚く塗り、汚れなく、一ぴきの虫もおらず、戸口にはあずまや、テラス、井戸などがあって住み心地よく、まわりを塀がとりかこんでいる。(『ハタ・ヨーガ・プラディーピカ』1章13節)
牛糞は日本では馴染みがありませんが、インドで自然の草のみを食べている牛の糞は、神からの恵みとして様々な方法で使われます。臭い匂いもせず、家を建てる時には最適な材料となり、食事を作る時の燃料としても使われます。
どのような住居が快適であるかは、風土や時代、生活スタイルによって違います。古代インドの聖者の生きた気候と日本の気候は全く違うため、その土地ごとに適した住居が最適だと考えられます。
いくつかのチェックポイントを、挙げておきますので、自分の住居について見直しましょう。
- ものが多く、雑多な状態になっていないか
- 掃除されていて、ホコリなどが溜まっていないか
- 自分が好きでないものが多くないか
- 部屋にいて快適だと感じられるか
ヨガは心の状態をできるだけシンプルに、そして快適にするものです。自分の生活となる自分の部屋がものにあふれていると、頭の中もゴチャゴチャとしてしまいます。
神社の敷地に足を踏み入れただけで神聖な気持ちになったり、自然の中で晴れやかな気持ちになったり、洗練されたカフェに行くと集中力が高まるように、自分自身が生活をする自分の部屋が自分の心に影響を与えていることを意識しましょう。部屋の中を見直したくなりますね。
安くて便利だからと買ったプラスチック製の収納容器など、妥協して購入したものも気になります。自分が心地いいと思えるものを最小限だけ所有しましょう。
自分の持ち物を見直す
室内同様、自分の持ち物も見直しましょう。
例えば、洋服を買うときに「お買い得で無難なデザインだから仕事着に…」という選び方をすると、無意識に安いものを多く買ってしまう習慣がつきます。すると、翌年には生地が傷んだり、デザインが流行遅れになってしまったと感じて、また買い直しになってしまいます。
満足できないので、無意識に買いすぎてしまい、クローゼットにはまだ着ていないのに捨てるのはもったいない服があふれてしまっているかもしれません。
「自分には、普段着にはもったいない」と思うくらいの、良い素材の洋服を買った方が、少ない枚数で満足して、長く着ることができます。値段ではなくて、自分が満足できるかが重要です。
状態を整えることも大切です。同じ洋服でも、きちんとシワができないように畳んであるか、裾が擦り切れていないか、など、心地よく着ることができる状態になっているかも気にかけましょう。沢山のものを所有すると、メンテンナンスが大変ですが、少なく気に入ったものを所有すると丁寧に扱えるようになります。
食とも、向き合ってみよう
最もダイレクトに影響を受けやすいのは食べるものです。ストレスが溜まっている時は、添加物の沢山入ったジャンクフードが食べたくなってしまいます。しかし、心の中のタマス性が上がっている時に、タマス性の高い食べ物を食べることで一時的に快楽を感じたとしても、ますます心のタマス性が上がってしまいます。
疲れている時、心がすさんでしまった時こそ、ゆっくりと自分のために丁寧に1杯のコーヒーを煎れたり(コーヒー自体はサットヴァではありませんが)、新鮮な野菜をたっぷりと使った料理をお気に入りのお皿で頂いたり、自分を大切にすることを思い出せるといいですね。
自分の心の中の状態の観察の仕方
ヨガで最も大切なのは、自分の心をサットヴァな状態に近づけることです。3つのグナの心の状態について考えましょう。
- サットヴァな心の状態
知性のある状態。幸福、満足している、怒らない、中傷しない、平等、温和、欲がない。
サットバは、満足して幸せを感じている状態です。不利益なことが起こったとしても落ち込まず、成功しても高慢になりません。他者を批評せず、穏やかです。
- ラジャスな心の状態
貪欲、渇望、焦り、躁状態。
心の中がアクティブになっているとラジャスな状態です。成功などを強く望みます。起こったことに一喜一憂しやすいです。ラジャスは一見対照的に見えるタマスの性質を上げます。躁鬱病の人が、異常に元気になったと思ったら、一気にネガティブになるが典型的な例です。
- タマスな心の状態
無知、妬み深い、怠慢、暴力的、貪欲、嫉妬深い、不安、偽善、高慢。
タマスの状態は、最も苦痛を生みやすい心の状態です。自身の怠慢性が上がるのと同時に、他者のことが気になって批評します。執着心が強く、満足感を生みにくいです。安定した幸せよりも、一時的な快楽を求めます。
まずは自身の心を受け入れることから
自分自身を直視して受け入れることはとても難しいことです。
自分の心を観察していると、例えば「ああ、今の私は、苦しいくらい嫉妬しているな」と気が付くことが沢山あります。しかし、どの状態であっても、自分の心を受け入れることはとても大切です。
自分の心を受け入れることができないと、不快の原因を外側に探そうとします。テレビで見た有名人を不快に感じた時、「私の中の嫉妬心が原因かな」と考えることができれば、人のことよりも自分に満足できる方法を考えた方が得策だと分かります。
しかし、原因を外に求めると、「あの芸能人は悪い」と他者を責めて、「あんな不快な人をテレビに出すな」と抗議したり、SNSに悪口を書く原因になるかもしれません。
タマスは無知の状態、サットヴァは知性の状態です。自分の心を正しく理解しようとすることでも、自分の純粋さを上げることができます。
自分の心を自分で変えることは非常に難しいので、自身を受け入れることが難しいと感じた時には、自然の中などサットヴァ性の高い場所に行ったり、良質な洋服を着る、素材にこだわった食事を頂くなど、自分が心地よく感じるものの影響を受けましょう。
サットヴァ性の高い生き方を選ぶことで、自然と自身の周りに同じようにサットヴァ性の高い人やものが集まり、心地いい生き方ができるようになります。