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「チャレンジしてもらいたいけれども、あと一歩が踏み出せない部下がいるんです。どうやったらチャレンジしてもらえるでしょうか?」
ある日、筆者は産業医先のクライアントさんから質問をうけました。若手の管理職の方です。筆者は会社に訪問して健康指導や悩み相談などをお受けする産業医もしています。チャレンジしたいけれども、あと一歩踏み出せないでいる。そんな経験が自分にもあったので、チャレンジと最近接発達領域についてお話しました。
経験値を超えて、一歩踏み出す勇気の大切さ
自分の経験とはヨガジェネレーションの連載を開始する際のことです。昨年4月、メンタルクリニックとヨガスタジオをオープンし、ヨガジェネレーションさんの取材を受けたことがきっかけで連載のお話を頂きました。しかし、文章を書いたこともなく、何を書いていいのかもわからなかったので躊躇していたところ、MIKIZO先生が背中を押してくれたのです。それも行動で。
ある日MIKIZO先生から連載の説明を受けたあと、飲みに行こうというながれになり、話は尽きず、では二次会に行こうとなったときの話です。あまりに印象的だったので鮮明に覚えています。
結果としてMIKIZO先生が感性で選んだ名前がちょっとメルヘンなお店に行ったのですが、そこでは最高のワインを出してくれた上、何故か隣合わせたカップルに国際結婚の後押しをし、その次に行った渋いバーでは最高のウィスキーを堪能し、地元の新しい情報を得たのでした。
筆者としては、地元の池袋でしたし、幹事として100%の返答をしたいと思っていたのです。けれども少しの勇気をもって前に進むと新しい体験が待っている。そんなことを感じた夜でした。結果として連載という新しいチャレンジに取り組むことができたのです。
最近接発達領域とは……
最近接発達領域(ZPD: Zone Proximal Development)とは旧ソビエト連邦の心理学者、レフ・ヴィゴツキーが発表した理論です。
そもそもは子どもの発達の領域の理論ですが、職域のマネジメント領域でも使われています。子どもの知的発達の水準を、
- 自力で問題解決できる現下の発達水準
- 他者からの援助や協力、共同によって達成が可能になる水準
の2つに分けて考え、この2つの水準のずれの範囲を最近接発達領域と呼んだのです。ZPDゾーンにあるものは誰かの助けがあればできること、チャレンジする領域であり、そこを誰かと行うことで成長するのです。
真の成長は、“安心”と“闇雲な挑戦”からは得られない
図の左側は「安心領域」で今の知識とスキルでできるものです。安心領域の仕事ばかりしているときにはもちろん失敗しないです。先程の筆者でいうところの食べログで無難な店を選ぶ秘書や、前例を踏襲してばかりというような仕事です。失敗もしませんし安全ですが成長もそこにはありません。さらに安心領域の仕事ばかりだと成果に結びつきにくいので、成功体験を与えて部下に自信をつけさせることも難しいでしょう。
一方右側は「挑戦領域」で、部下がまだできない仕事に該当します。ティーチャートレーニングが終わったばかりの新米ヨガ講師がベテランのヨガ講師の代行をするようなものです。教育を欠いた仕事の委譲は無責任な丸投げになってしまいます。
最近接発達領域(ZPD)ゾーンにあることとは
- 周囲が少し手伝えば、できるようになること
- 周囲が教えれば、できるようになること
- 本人がチャレンジしたがっていること
などを指します。
これらを任されることで成長を実感する方も多いでしょう。
成長につながるチャレンジゾーン“最近接発達領域”の探りかた
ではその人のZPDゾーンはどうやったらわかるのでしょうか?
そのためには常日頃からのコミュニケーションが必要です。その方のメンタルや時間配分、事務作業や知識レベルなど様々なことから判断されるのです。
さらに本人にこう訊ねてみるのもよいでしょう。
「A社との仕事、あなたにやってもらいたいけどどう思う?もちろん一緒に取り組むけれど?」
ヨガクラスでも、チャレンジポーズがレッスンの中に組み込まれていて、それができたことで自信につながった経験を持っている方もいらっしゃるのではないでしょうか?さらに先生から良いフィードバックをもらうことで自己効力感があがったりしたことはないでしょうか?
以前臨床心理士でヨガティーチャーの方から以前こんな話を伺いました。
心理療法のセッションで、もう少し頑張ってみたらいいのではないか?とセラピストは考えていても、セラピストからそれを伝えることが難しい生徒さんもいます。
そこでヨガのクラスを通じて、もう少しだけ頑張る目標、自分の限界に挑戦するようなアーサナを繰り返し取り入れてみると、不思議とそれが実生活にも活きてきたりするのです。
アーサナの指導の際にはこちらから頑張るように促すことは全くありませんが、やり遂げたこと、上達していることのフィードバックはします。自ら達成したことが自信となるのはないでしょうか。
まさにクライアントさんにZPDゾーンにチャレンジしてもらい、自己効力感を上げている素晴らしい体験だと思います。ともに取り組むことでその人の成長が促されるのです。
不確実な時代に求められる能力は日々変化しています。ストレッチな目標を掲げて、成長を促す。これは自分自身の成長にも必要なことなのでしょう。
参考資料
- 『スタンフォード式最高のリーダーシップ』スティーブン・マーフィー重松 著(サンマーク出版)