命の連鎖と向き合う『考える絵本』から考える

くまとうさぎの物語、うさぎとくまの物語

環境が破壊された山に棲むくまの親子。エサを取りに行ったけれど、猟師に撃たれ戻らない父くま。お腹を空かして冬眠できない子ども達。ついに母くまはエサを探しに行くことに。そして、うさぎと出会います。『くまとうさぎ』より。

親グマと子グマが載っている絵本の見開き

環境が破壊された山に棲むうさぎの親子。エサを取りに行ったけれど、猟師に撃たれ戻らない父うさぎ。お腹を空かして冬眠できない子ども達。ついに母うさぎはエサを探しに行くことに。そして、くまと出会います。『うさぎとくま』より。

親ウサギと子ウサギが載っている絵本の見開き

この絵本は、二つの物語が合わさっています。どちらにも表紙があり、それぞれのストーリーが真ん中で出会います。そして、それぞれが出会った先にあるページは、真っ白。そこは読む人が、自分自身で考えられるスペースになっているのです。

絵本の中の空白の見開き

出会った時に起こること

くまとうさぎは、普通に考えれば、捕食者(食べるほう)と被食者(食べられるほう)という関係があります。だから物語は、この両者が出会ったところで考えられる行く末がいくつかしかありません。①くまがうさぎをエサとしてつかまえる。②うさぎが逃げ切る。③横から別の捕食者が割り込む。食べなければ、くまもうさぎも死んでしまいます。しかも、子ども達が巣で待っている。戻ってこないということは、子ども達の越冬も危ない…。

でも絵本では、あえて、出会った部分は真っ白いページです。ここに私達の想像力を発揮していいからです。

絵本は教育施設などでディスカッションの資料になったりしています。この物語から、あなたが感じることは? と。『Yogini』vol.77(7月18日発売)で監修をお願いしている、企画者の下條茂先生からは「小学校では全員に物語を作らせて、それぞれの視点や、それぞれの正義を話し合っているようです。 餌と食べ物という言葉使いすら生き物を差別してる、食べ物がなくなったのは木を切りすぎた人間が悪い…なんて面白い話が出ているようです」との答えが返ってきました。

「命」というエネルギー

さて、ヨガをするあなたは、この絵本をどう受け止めるでしょうか。食物連鎖というルールで言えば、雑食のくまがうさぎを捕まえるのは不思議ではありません。食物連鎖の頂点に立つ人間は、もっとさまざまな命をいただいています。

「食べる」とは、感謝して命をいただき、そのエネルギーを自分の身に蓄え生かしていく。そういう行為でしょう。お腹が減るのは、エネルギーが足りなくなっている、というサイン。私達は食べるものでできていると、よく話に出てきますが、それは機能的な理由もちろんのこと、命がまとうエネルギーを受け取って自分に染み込ませていくということではないでしょうか。

命は多面的なもの。動物だから荒々しいとか、植物だからおとなしい、というシンプルな話でもないかもしれません。

命と命の関係

「命がまとっているエネルギー」と書きましたが、一つの命に宿っているものはいろいろあります。強さも優しさもあるでしょう。古神道では、一霊四魂(いちれいしこん)といって、アートマン(直霊・なおひ)に四つのソウル(魂)が備わって命は成り立っていると考えます。四つのソウルは和魂(にぎみたま・調和)、幸霊(さちみたま・幸福)、奇魂(くしみたま・智慧)、荒魂(あらみたま・勇気)。例えば、伊勢神宮に行くと、この四つに該当するそれぞれの社があります。命はどこか片側の側面では捉えきれないものなのです。

また、脳の移植をされたら最初の持ち主のようになっていき、自分自身の元の意識が塗り替えられていくことが題材のミステリー小説を読んだことがあります。肺を移植すると、同じようなことが起こるという話も聞いたことがあります。意識は、細胞の一つひとつにあって、その集合体が「私」だからです。

だから、どこかの臓器がなくなったら、今までの私とは異なる意識状態になっても不思議ではありません。実際、脳の一部を損傷すると、その部位によって人格が変わってしまうという医学的な報告もあります。

では、命のエネルギーをいただいて生きている私達は、どんな風に変わるのでしょうか? いただくものの質を変えてみて、その答えを得ている人はいるでしょう。アーユルヴェーダでは新鮮なものをいただくように言うのも、そうしたことからに違いありません。

「敵」に出会った時

くまとうさぎに戻りましょう。くまとうさぎが出会った時、両者が仲良くなって、食事にも困らないという状況はあり得るのでしょうか? 私達は「ヤマ・ニヤマ」という哲学を知っています。ヤマ・ニヤマは五つずつありますが、最重要なのは「アヒンサー」、不殺生です。これは人間という理性を持つ生物の特権でしょうか? もし、すべての生物が食物連鎖から抜け出したらどうなるのでしょうか?

人は食物連鎖から抜け出すことはできるでしょうか? プラーナを食べて生きているという人がいるとも聞きます。意識的に行動を起こせば、命の在り方も変わっていくのでしょうか?

世界では、少しずつ種を超えた良質な関係が生まれ始めています(まだ個体レベルですが)。どんな生物にも意識があって、喜びも悲しみもあると思うと、私達が取る行動も変わっていきます。

どう在ると私達は心地いいのか。自分達自身が、取り巻く命が、地球が、そして宇宙が。

簡単に答えは出ないけれど、私達自身ができることに気づける状態でありたいと思います。


企画 下條茂/絵 長谷川恭子
発売 エコール国際ネットワーク
¥1,200+税
ISBN978−4-9911557-0-3 C0711

問い合わせ先
ナチュラルメディカル
http://www.natural-mj.com/
info@natural-mj.com

Text=Yogini編集部