コロナ禍の「運動不足とアルコール依存症」との向き合いかた

コロナ禍の「運動不足とアルコール依存症」との向き合いかた

緊急事態宣言が解除され、感染者数は再び増加傾向にありますが、現実として朝の通勤電車はかつての喧騒を取り戻し、学校も再開され子どもたちにも日常が戻りつつあります。

筆者が訪問している産業医先の会社も通常業務に戻り、社員さんとパソコンの画面越しでなく久々にお会いすることができ、オフ会をしているような高揚感を感じました。

ですがコロナ禍の爪痕は大きいと感じることがあります。

会社での健康診断結果の判定も産業医の仕事のうちの一つですが、緊急事態宣言が解除されてすぐに行われたものでは、多くの方の数値が悪化していました。

数名の方と面接したところ、コロナ禍の過程で、運動不足やアルコール摂取量が増えたことなどを自覚されており、それらが影響したものと思われました。

筆者も東京都内の決して広くはないマンションに居住しており、コロナ禍における家族の運動不足が懸念事項でした。

イギリスでは日本よりもかなり強力なロックダウンが行われたことは記憶に新しいと思います。イギリスの公衆衛生学者であるディングウォール博士は、4月末に放送されたNHKBSの討論番組でロックダウンの弊害を次のように辛辣に指摘しており、まさに博士の指摘どおりの事柄が起こっていると思われました。

ロックダウンは社会ですでにあった緊張を顕在化させています。この政策は大きな家と庭を持つ人が策定して、持たざる人々に押し付けました。(中略)

私が見るには非常に大きな不満がたまり、頂点に達しようとしています。(中略)この措置によって、人々は精神的にも肉体的にも、健康を犠牲にしています。

コロナ禍と運動不足の関係

コロナ禍と運動不足の関係
コロナ禍と運動不足の関係

通勤などの普通の生活がかなりの運動になっていたと振り返られた方も多いのではないでしょうか?コロナ禍の運動不足が我々にどのような結果を与えたかどうかは今後の研究に委ねられますが、筆者はかなりの割合の方々の筋力が失われたのではないかと考えています。

わずか2週間の運動不足で筋肉は大幅に減少しますが、回復には実にその3倍の時間がかかるとされています。

普段から運動する習慣を持っている方は、今回のコロナ禍で図らずも生まれたゆとりを奇貨として運動時間を増やしている方もいらっしゃいました。他方、運動習慣が無くリモートワークが多い方のなかには不活発になってしまっている方も多くいらっしゃいます。筆者はそういった方にヨガ等オンラインでのレッスンを強くおすすめしていますが、なかなか行動変容につなげることが難しいことを痛感しています。

まとまった時間がとれない場合でも、少しの時間の運動でも有効とされています。1日10分の散歩からスタートしてみてはいかがでしょうか。

アルコールとの付き合いかたにも目を向けて

コロナ禍においてソーシャルディスタンシングが課せられたことで新たなストレスが生まれました。人と会えない孤独感はもちろん、むしろ家族が密となったことで家族から受けるストレスです。こういった非常事態においてストレス解消法が飲酒という方も多く見受けられます。

節度ある適切な飲酒であればもちろん問題はありません。厚生労働省が推奨するアルコール量は純アルコール20g程度であり、ビール500mlを1本、日本酒なら1合程度です。

ですが、普段より飲みすぎてしまっているとか、記憶をなくしたなどがあればアルコール依存症が疑われます。

CAGEテストというアルコール依存症の簡易テストがあります。

下記の4項目中2項目が当てはまるとアルコール依存症が疑われますので、医療機関への受診をおすすめします。

GAGE 〜アルコールへの依存度をチェック〜

  1. あなたは今までに、飲酒を減らさなければいけないと思ったことがありますか?
  2. (Cut down)

  3. あなたは今までに、飲酒を批判されて、腹が立ったり苛立ったことがありますか?
  4. (Annoyed by criticism)

  5. あなたは今までに、飲酒に後ろめたい気持ちや罪悪感を持ったことがありますか?
  6. (Guilty feeling)

  7. あなたは今までに、朝酒や迎え酒を飲んだことがありますか?
  8. (Eye-opener)

アルコール依存症にヨガが効く!?

大量のお酒を長期にわたって飲み続けることで、お酒がないといられなくなる状態が、アルコール依存症です。その影響が精神面にも、身体面にも表れ、仕事ができなくなるなど生活面にも支障が出てきます。

つまり身体・精神のみならず社会性にも支障が現れるのです。多くの方が不安や孤独などを感じ、自己治癒的に強迫的な飲酒行動に走ってしまうといわれています。周知のとおり、断酒や節酒の選択がアルコール依存症における治療には欠かせません。

なお、筆者が学ぶ友永ヨーガ学院の友永乾史副院長は、断酒を目標としているアルコール依存症の方にもヨガを指導されています。

ゆっくりと無理のないアーサナを繰り返し、身体の感覚を感じ取る。湧いてくる感情や衝動に目を向ける。

アーサナや瞑想をともに行うレッスンや、自宅での練習を続けることで断酒をサポートすることが目的です。

自分の身体を感じること、後に身体のあちこちが痛くならない程度を見極めることが、ヨガを続けていくこと、ひいては断酒を継続していくことに必要であることも、やっていくうちに気づかされました。(中略)

これらの事が、私にとって、病で見失っていた自身の肉体や、社会性、人間関係を回復することに役立っていると思います。

と経験者の方も語られています。

アルコール依存症にヨガが効く
アルコール依存症にヨガが効く

友永乾史先生がアルコール依存症の自助グループであるアルコホーリクス・アノニマスのミーティングに参加された際の体験をヨガとの近似性に触れられていました。

アルコホーリクス・アノニマスのミーティングに混ぜてもらったことがあります。幸せ、ありのままの自分などのお題に沿って、ミーティングを先導するメンバーに続いて、皆さんが次々と自分の今の気持ちを吐露していく場にいられたのは、非常に貴重な経験です。

自らを遠く、客観的に眺めて自分の言葉で、その瞬間の自分を表現するという作業は、私にとってはヨーガそのものに映ります。集中してひるむことなく意識に沸きあがることばをつかみ取るという作業は、瞑想と同じ作業をしていると感じました。

私たちが、普段行っている、身体を動かすヨガもおなじような心の働きを求めています。自分の身体を距離をおいて眺めてみる。(中略)試行と気づきを繰り返し、自分の身体を軽く、暖かく、柔らかく、自分を心地よくしていく。

つまり、自分を、健康に、幸せにしていく作業です。この作業を続けることが断酒を毎日続けていくことを容易にしていくと思うのです。

未曾有のストレスがかかる不確実な社会の中、アルコール依存症の増加、悪化が指摘されています。このような社会を生き抜いていくためには、自らの精神と身体を見つめて結びつけるヨガがきっと役立つことでしょう。

参考資料

  1. グローバル・アジェンダ「緊急討論・世界はどう向き合う 感染爆発×ロックダウン」
  2. Global Agenda 緊急討論「どう立ち向かう 感染爆発Xロックダウン」詳報
  3. Andreas Vigelso(2015) Six weeks’ aerobic retraining after two weeks’ immobilization restores leg lean mass and aerobic capacity but not fully rehabilitate leg strength in young and old men J Rehabil Med 2015; 47: 552–560
  4. e-ヘルスネット 飲酒のガイドライン
  5. 特定非営利活動法人STORY『依存症のためのヨーガ』
  6. アルコホーリクス・アノニマス