■流動的な時代を柔らかく生きる
子どものころは、前転、逆上がり、怖いもの知らずで、ヒザを鉄棒に引っかけてぶら下がったり、無意識に世界をさまざまな角度から見て、楽しんでいませんでしたか?日常でも自由な発想を持ち、周りの大人達のことなんて気にかけず、ただ思うがままに走り回ったり、転んだり、泣いたり、笑ったり。
それが成長して大人になるにつれ、角度を変えて世界を見る機会なんて滅多になくなり、その感覚すら覚えていない。頭が心臓より下になった時の体感、まるで今までいた世界とは別の世界を見ているような新鮮さ、覚えていますか?
日常でも、「これはこうでなくてはいけない」とか「〜べき」という、積み上げてきた自分の価値観がこびりつき、硬くなった心を通して世界を見るため、無意識のうちに世界が固定されてしまっている…。そんな状態で、目まぐるしく変化する今の時代を生き抜くには、あまりにも窮屈。
今の時代を心地よく生きていくためには、子どものころのように、自由な角度から世界を見て、いつでも飛び込んでいける、そんな柔軟な心が求められてのではないでしょうか?
■逆さまに見るということ
7/18発売、『Yogini』Vol.77は、まさしく普段見ている世界をまったく違う角度から見る逆転をテーマにしています。
逆転のポーズ、皆さんは好きでしょうか?
好きな人もいれば、挑戦したいけど怖い、挑戦したこともない、などさまざまでしょう。
逆転、つまりは体を逆さまにすることは、例えれば飲み物の入ったペットボトルを引っくり返すようなもの。
想像してみて下さい。どんな現象が起きるでしょうか? 底にたまっていた沈殿物は攪拌され、かかっていた圧力も変化する。体で考えると、それはとても大きな変化ですよね。
血液が頭部に巡りやすくなり、酸素供給が促されれば頭もすっきり。重力で下半身にたまっていたリンパ液の流れが促されれば、だるさも改善されます。
よく、心と体はつながっているなんて話を聞きますが、逆転のポーズで起こる体の変化を考えると、心の状態にも変化が起こることは容易に想像できますよね。
もちろん、最も大きいのは視覚的変化。
体を折り曲げ、脚の間から逆さまに風景を見ながら絵を描くと、上手に描けるという話を聞いたことがありますか? それは、こうだろうという先入観がないーーもっと言えば持つことができない状態で風景を描くから、普段の自分を超越した絵を描くことができるのでしょう。
それと同様に、逆転のポーズで逆さまに世界を見ることで、自分の中での常識を手放し、今まで気づきもしなかった新しい視点を持つことができるかもしれない。
新しい視点を持つことができれば、思いがけない感情が生まれたり、実はすぐそばにあった可能性や、幸せに気づくことができるかもしれません。
■視点を変えることで自己肯定感を整える。
実は、今回の号は、第二特集も逆転です。でも、テーマは「自己肯定感を整える」。
自己肯定、つまりは自分を認められるか、自分で自分を評価できるか、ということ。言葉で言うには簡単だけれど、これって案外難しいことですよね。
私達は自己評価をする時、無意識に他人と比較した評価、社会的に見た時の評価など、自分ではコントロールできないものを根拠としがちです。変動していくものに価値基準を置くことは、不安定で心は休まりません。
よくよく考えてみると、私達の価値は不変です。
自分の価値を決めるのは、外界のものではありません。また、自分自身の中での比較でもありません。私達は、今、ここに存在するだけで価値があるからです。この世に生まれ、生き、さまざまな経験をすることが、私達が生まれた意味だからです。
このように、考え方、視点を変えるだけで、スーッと心の重荷が消えたり、今まで自分を縛っていたものから解放される。
「逆転のポーズ」と「自己肯定感」。一見、共通点がなさそうに見えるこの二つですが、世界を逆さまに見る、視点を変えることで、思い込みという重荷を手放し、今ここにある自分という幸せに気づくことができるという点で、同じなのです。
■ヨガを通して人生を豊かに
一年前は、こんな世の中がやって来るなんて、思いもしなかったですよね。たった数カ月で、人とのかかわり方、距離感、ライフスタイル、ワークスタイルまで、たくさんの変化が起き、それに適応する努力をしてきた私達。
「社会的大きな変化が文明の進化を早める」と言いますが、変化にともなった犠牲に心を向けながらも、多面的にものごとを捉え、ポジティブな側面を見ることができる心の余裕が必要ですね。
ヨガは、「私達が心地よく生きていくためのツール」。
ヨガをすることを目的とするのではなく、ヨガから得たものを日常に還元し、人生を豊かにすることができたら幸せです。
流動的な時代だからこそ、大地に力強い根を張り、環境の変化に驚くほど順応する植物のように、柔軟性と、力強い自分の軸を併せ持った人になりたいものです。
文=Yogini編集部
イラスト=マー関口