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ダイエットをヨガ哲学で考える
多くの人、特に女性は一度はダイエットを経験したことがあるのでは?
テレビや雑誌に出ている女優やモデルを見て、あんな体形になれたらと憧れを抱くのは、ごく自然なことなのかもしれないが、今に満足できずに常に別の自分を求めているのは苦しい。
ヨガの哲学には私達が、心地よく、幸せに生きていくためのヒントがたくさんある。今回は「ダイエット、食事とどう向き合っていくか」というテーマで、気持ちよく生きるためのヨガ哲学を伝える、佐藤ゴウ先生(以下、ゴウ先生)に話を聞いた。
食事についてのヨガ哲学の教え
『バガヴァッド・ギーター』の第6章には「食べすぎも、食べなさすぎもよくない」とある。
「食べすぎると、眠くなったりだるくなったり、タマスの影響を受け始めるのです。一方で、食べなさすぎても、空腹でイライラしたり、無気力になったり、それもやっぱりタマス。つまり、食べすぎても、食べなさすぎても、サットヴァから離れ、真実が見えなくなってしまうのです」とゴウ先生。
タマスとは心の根元にあり、さまざまな精神状態を生み出す三つの要素であるグナ(サットヴァ、ラジャス、タマス)の一つ。
サットヴァ(純性)は、明晰さ、喜び、透明感が特徴で、知性や心をイキイキとさせる。
ラジャス(激質)は活動性や刺激が特徴で、欲望、野心、気まぐれな心を支配する。
そしてタマス(鈍質)は重さや妨害が特徴で、知覚や活動を妨げ妄想、怠惰、無関心、否定を生む。
この三つのうちどれかの要素の影響を、私達の心は常に受けており、それは行動にも現れる。
痩せたい気持ちはどこから?
「ヨガ哲学的に言うと、痩せたいという気持ちは、本当の自分を知らず、自分と肉体を同一視しているということが根底にあります」
本当の自分すなわち真我は、肉体や心、感覚を観る存在であり不変である、とヨガ哲学では考える。
『ヨーガ・スートラ』には、自分自身を、肉体や心と同一視することから苦しみが生まれる、とあり、痩せたいという思いも、体形によって自分の価値が変わると勘違いしていることから生まれる。
体形がいくら変化しようと、本来の自分は不変であり、常に満たされた存在。そのことをまずは大切に心にとどめておきたい。
しかし、頭ではわかっていても、いっさい体形を気にしない、というのは難しい話…。
ついつい食べすぎてしまう原因はどうしてだろうか。
どうして食べすぎてしまうの?
意識的にコントロールして、簡単に食べすぎを防げるのなら、そもそもダイエットがこんなにも世間で注目されることはないだろう。
自分でコントロールできずに、ストレスがたまるとついつい食べすぎてしまう、我慢ができない、一時我慢してもリバウンドしてしまうという悪循環がダイエットの難しいところ。
「ストレス状態、余裕がない状態は、生理学の目線で言うと、交感神経が優位になるので、バランスを取ろうと、本能的に副交感神経を優位にするように体は働きます」
「眠って休むことができればいいのですが、したくてもできないことも多いですよね。そこで、食べるというワンクッションを挟むことで、副交感神経を優位にさせ、リラックスさせるということが本能的に起こる」
「なので、機械的に気持ちを切り替えるというのは実際とても難しいと思います」
「また、ヨガ哲学の目線で言うと、ストレスがたまってイライラしたりしているのは、三つのグナのうち、タマスの影響下にいる状態。タマスの影響下にいる人は、タマス的なものでしかその時の自分を補えないと思ってしまうのです」
「食べすぎることもそうですし、お酒もタマスです。お酒は陶酔物で、現実から引き離してしまう。ものごとの本質を隠してしまう」
「タマス的なものでストレス解消をすると、一瞬はよくなるけれど、すぐタマスの影響下に戻って、結局またストレス状態に戻る。これを繰り返している人がとても多いと思います」
悪循環から抜け出すために
ストレスがたまって、食べて発散、そして食べすぎたことでまたストレス…そんな悪循環から抜け出すにはどうしたらいいだろうか。
「まず、タマスに落ちている自分に気づくこと。気づくためには、ヨガの哲学、知識に触れ、グナの性質を理解し、サトヴァな目線を持つ必要があります」
「この知識がない人は、タマスの時はタマス、ラジャスの時はラジャスに自然と落ちていきます。しかし、一瞬でもその人の中に、この知識が通りすぎたなら、選択肢が少し変わってきます」
「タマスに落ちてしまった時に、タマスに落ちちゃったと気づくことができるようになる。この気づきがとても大切。そのことに気づいたら、自然、音楽、ハタヨガ、マントラなど、サットヴァなものに触れてみる」
「サットヴァなものに触れると、マインドが切り替えやすくなって、よくよく考えれば、今の自分は足りている、満たされていると気づくことができるのです」
本質的なヨガこそ、最強のダイエットメソッド⁉︎
大多数の人は自分のためにダイエットをする。これは当たり前のことに思えるが、「自分のためというスタンスだと、機械的に食事制限や運動量を増やすということになりやすく、ストレスがかかって続きにくい」とゴウ先生。
「誰かのためのダイエット、というのはなかなか難しいけれど、いつでもフラットな目線で真実を観ることができるようにサットヴァな暮らしに整えようとすると、自然と痩せていくのではないでしょうか」
「ヨガは、サットヴァを高める方法。ハタヨガにダイエットを求める人も多いですが、運動としてではなく、ヨガを通してサットヴァな暮らしを目指していけば、自然と内側から幸せな気持ちがあふれてきて満たされる」
「たくさん食べる幸せよりも、健康的に生きたほうが価値がある。肉体への執着が消え、誰かを喜ばせることの幸せに気づく。そうしていると、そもそもダイエットという概念が消えると思います」
「『痩せないのは目的意識が弱いからだ』とかよく言いますが、結果にこだわっているうちは、ラジャス。サットヴァから離れ、ストレスがかかり楽しくないし、嫌になってしまう」
「結果は私の手の内にはありません、私ができることを一歩一歩積み重ねるだけです。みたいな考えを持って、ライトにダイエットを楽しむことがいいのではないでしょうか」
結果を求め続けるのは苦しい。痩せるためにヨガをするのではなく、本質的なヨガの暮らしを目指すことが、結局は健康的で最強のダイエットなのだ。
毎日の生活の中で、タマスやラジャスに落ちてしまうことは誰だってある。そんな時、手軽にできるマントラや、身の回りにある自然に触れるなど、サットヴァな存在を見方につけて自分を整えたら、本当の意味で、幸せなダイエットが叶うかもしれない。
イラスト=マー関口
文=Yoigni編集部
教えてくれた人=佐藤ゴウ
さとうごう。ヨーガ講師。『radhika yoga』代表。バクティヨーガの師ジャヤーナンダ・ダーサ氏の門下に入り、スピリチュアルネーム“ゴウラ・ゴーヴィンダ・ダーサ”を授かる。