記事の項目
私たちが行っているアーサナや呼吸などのヨガの練習は、ハタヨガの考えを土台に作られたものです。私たちが身体を使ったヨガを行っていると、どのような効果があるのでしょうか?それを知るきっかけが、ハタヨガの語源にあります。
ハタとは2つのマントラの組み合わせ
ハタヨガの語源にはいくつかの説があります。
最も有名なものだと、「ハ」は太陽、「タ」は月を表しているというものですね。
また、ハタという単語に「力強さ、努力」などの意味があり、「力のヨガ」と訳すこともできます。
「ハン」と「タン」という2つのマントラの意味
今回は、ハタヨガをハンとタンという2つのマントラの組み合わせと見なして解き明かします。ハタヨガに大きな影響を与えてるタントラでは、ビージャ・マントラという1文字からなる短いマントラを使います。
ハンとタンというマントラについて詳しく見てみましょう。
それぞれのマントラには月と太陽の性質が備わっています。
日中に輝く太陽は、エネルギーや力強さの象徴です。活動的なラジャスの状態であり、交感神経が活発になっています。思考レベルではポジティブで外交的です。
また、大きな意味でプラーナを意味します。プラーナは身体を動かすために必要な生命エネルギーです。物質的な人間の象徴でもあります。
夜に現れる月は、女性的で静けさの象徴です。副交感神経が優勢になった眠りの状態に近く、タマス的です。内向的でネガティブに偏りがち。人間の心(チッタ)を司ります。
太陽と月のバランスを整えるのがハタヨガ
太陽と月のエネルギー、または心と身体は常に両方がバランスを取れていないといけません。
太陽の出ている日中、人は活動的になります。人が生命を維持するためには必ず行動しないといけません。しかし、常にアクティブな状態でも生命を維持することができません。必ず月の時間には、酷使した身体をリカバリーする必要があります。
ヨガはバランスを整える実践です。特にハタヨガでは、必要な時にアクティブに、休む時には最大限にリラックスできる方法を学びます。
人生には、必ず2つのエネルギーが必要で、その2つをコントロールすることが快適に生きるコツです。
心と身体の両方を整える
「ハン」というマントラは身体を動かすためのプラーナ(生命エネルギー)。「タン」というマントラは心の働きであるチッタを表しています。
ハタヨガでは、身体と心は一体であり、切り離せないものだと考えられています。そのことは古代インドから認識されていて、ハタヨガが生まれるずっと前に書かれた『バガヴァッド・ギーター』の中にも読み取れます。
『バガヴァッド・ギーター』の第一章は、主人公アルジュナが望まない戦争を目の前にして失望している場面です。その時、アルジュナは精神的なストレスから身体の異常を感じていました。
私の四肢は沈み込み、口は干からび、私の身体は震え、総毛立つ。(『バガヴァッド・ギーター』1章29節)
ここでは、人の心の状態が乱れている時の身体の反応について書かれています。口が乾燥したり、身体が震えたり、鳥肌がたつ、またアルジュナは肌が焼かれるような感覚を覚え、立っていられないと言いました。
同じような経験は誰にでもあると思います。筆者はストレスの中で頭痛が起こったり、肌に蕁麻疹ができるといった拒絶反応が起こります。心のストレスをため込むことは、身体によくないことです。
心が身体に影響を与えるのであれば、身体も心に影響を与えると考えたのがハタヨガです。心を快適な状態にするためには、必ず身体も快適な状態にする必要があります。
そのため、瞑想を中心とするラージャ・ヨガと比べ、アーサナやプラーナヤーマ、ムドラといった身体的アプローチを行うのがハタヨガの特徴です。
相反する2つのエネルギーの調和によってアートマンに到達
ハタヨガの実践は、とても身体的なものだと考えられがちです。しかし、本来のハタヨガは、『ヨガ・スートラ』のラージャヨガと同じように高い精神状態であるサマディを目指します。
様々な体位(アーサナ)、クンバカ(プラーナヤーマ)、その他の優れた諸所作など、ハタ・ヨガの実践に関するすべてのことは、その結果たるラージャ・ヨガに達するまで修業しなければならない。(ハタヨガ・プラディーピカ1章67節)
しかし、アプローチの方法は他のヨガと少し違います。ハタヨガは、「ハン」と「タン」の表す2つのエネルギーをコントロールすることでサマディの状態が現れると考えられています。
まずは呼吸で、月と太陽のエネルギーバランスを整える
人間は呼吸をするときにエネルギーを左右の鼻孔から取り入れます。右の鼻は太陽の気道(ピンガラ)、左は月の気道(イダー)と呼ばれます。
日常の生活を行うためには、2つの気道が正常に働いている必要があります。健康的な人であれば、一日の中で左右のどちらの鼻で呼吸をするのか、自然に規則正しく切り替わっています。
朝、自然に気持ちよく目覚めることができれば右の鼻の方が通っているはずです。また、食後や寝る前などは、左の鼻がスムーズに通るようになっています。
1日のサイクルで身体が自動的に呼吸を切り替えていますが、この切り替えのリズムが上手くできなくなると、不調の原因となってしまいます。
呼吸で、スシュムナーに気を流すと潜在能力が開花
ハタヨガの実践では、まずは左右の気道を、詰まりなく正常に機能するように整えます。その後、身体の中心にあるスシュムナー気道を通すためのアプローチをします。
スシュムナーは、とても微細な気道です。他の気道が働いている間には、活動を止めています。ハタヨガではクンバカ(息を止めること)を行いますが、それは左右の気道の活動をやめさせることです。
体内のエネルギーが清浄な状態で気道の働きを止めることによってエネルギーが中央のスシュムナーに流れます。スシュムナーに気が流れることで、潜在的な能力が開花すると考えられます。その結果、高い意識の状態であるサマディが起こります。
サマディは心と身体両方の働きが整い、活動をやめた時に到達できるものとハタヨガでは考えられています。
ハタヨガでは身体のエネルギーを整えることによって精神的にも高い次元に到達できると考えられているのが特徴です。
スシュムナーの特徴
左右のイダーとピンガラの特徴と比較して、中央を通るスシュムナーにも特徴があります。
まず、スシュムナーは「宇宙全体」を意味します。性質は限りなくサットバ(純粋)であり、調和のとれた状態です。それは、アートマン(自己の根本原理)の状態で、あらゆる思考や身体的な動きが止まった状態です。
すべてを偏りのない状態へ…。それが、ヨガの道
ハタヨガでは、常に「ハン」と「タン」の音が表す2つの性質のバランスを整えます。
アーサナなどのヨガの実践を行うときには、自分の身体(プラーナ)と心(チッタ)の両方に意識を向けましょう。日常生活の中で、「静」と「動」のバランスがどうなっているのか、外への意識と内への意識のバランス。暖かさと冷たさ。様々な視点で自分を観察することができます。
なにか一つに偏らないことが、快適さを手に入れるためのコツだと考えられます。