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ヨガの四大聖典を整理しよう
ヨガの学びを深めていくと、アーサナだけではないヨガの魅力に気づく。
もっといろいろな知識を得たいと勉強始めると、たくさんの書籍や講座が目に入り、何から手をつけたらいいのか迷ったり、頭の中がぐちゃぐちゃなることも。
そこで、今回はヨガを語る上で欠かせない四つの聖典について整理していく。
幅広いヨガの世界。片っ端から学ぶのもいいが、まずはこの四つの違いを押さえて、自分にとって必要な、今学びたいものを見極めよう。
『カタ・ウパニシャッド』
「アートマンは車に乗るものであり、肉体は車である。ブッディは御者で、マナスは手綱である」
ヨガ哲学では、5頭立ての馬車の例えでおなじみの『カタ・ウパニシャッド』をはじめとして、多数存在する『ウパニシャッド』。
それら『ウパニシャッド』の誕生の裏には、インドのカースト制の存在がある。
もともとインドにはインダス文明があり、そこに侵略してきたアーリア人がカースト制とヴェーダ聖典を作り、インド全土を統治した。
カースト制の頂点に位置するバラモンのみが神とつながることができる身分とされ、王族や戦士は、布施をして、神への祈祷をバラモンに依頼する日々が続いた。
しかし、権力層はいつしかバラモンを介さずに自分で神に近づく方法を探り始め、その秘密を『ウパニシャッド』として書き記したのだ。
自ら神に近づこうとした修行法、すなわちそれがヨガの発生である。
ウパ=そばに、ニシャッド=座るという意味。
ウパニシャッドは師匠のそばに座って1対1で学ばれた。人里離れた山や森の中で、師匠とともに生活することによって修行に取り組む。
肉体とは何か、プラーナとは何か、オームとは何か、実在とは何か、我とは何か…ありとあらゆるテーマについて、ジュニャーナヨガ(考えるヨガ)を通して探求した。
『バガヴァッド・ギーター』
「君には定められた義務を行うことはできるが、行為の結果はどうすることもできない」
『バガヴァッド・ギーター』は、西暦100年ごろのインドの大叙事詩『マハーバーラタ』の第6巻に収められたストーリー。作者は不明で、カルマヨガ(行為のヨガ)の教科書的存在だ。
話は戦場が舞台となっており、戦士アルジュナと、クリシュナ神の対話によって物語が進んでいく。
戦場は現代に置き換えることができる。心の中に苦しみが生まれる満員電車や職場はまさに修行の場だ。
クリシュナという神性を自分の中に見つけることによって、ストレスの風にあおられ、揺らいでいる自分がいる時でも、心の奥底では大丈夫だと思える。
現代を生き抜くヒントがギュッと詰まった教典だ。
現在もインドでこよなく愛される国民的物語であり、社会に生きながらヨガを行う人のライフスタイルの指針として、広く活用されている。
『ヨーガ・スートラ』
「ヨガは心の作用を止滅すること」
『ヨーガ・スートラ』は5世紀ごろ、パタンジャリによってラージャヨガの聖典として編纂された。
サマーディに入り、真我を知る師匠にいつでも出会えるとは限らない時代に変わっていった当時、自分独りでもサマーディに入れるように、段階的に進むガイドラインが必要とされた。
そうして誕生したのが、『ヨーガ・スートラ』。
『ヨーガ・スートラ』では、『カタ・ウパニシャッド』で示された“心の作用を止滅することで真我を見出す方法”がより具体的に説明されている。
『ウパニシャッド』の時代は、あれこれ深く考えることで真我を見つけようとしたヨガのスタイルだった。
一方で『ヨーガ・スートラ』の時代は、あれこれ考えるのをやめることで真我を見つけようとした。
『ハタヨーガ・プラディピカー』
「人々をラージャヨガに導くために、これからハタヨガの教えを説く」
『ハタヨーガ・プラディピカー』は12世紀に生まれ、16世紀に編纂された。スヴァートマラーマによって書かれたハタヨガの根本教典。
当時、ヨガの流派がたくさん誕生しヨガに迷う人も多かったため、ガイドラインとなる書物が必要とされた。
そうして誕生したのが『ハタヨーガ・プラディピカー』。
「プラディピカー」には、数あるヨガの中の一抹の光、ヨガの闇の中の灯火になりますように、という意味が込められている。
ハタヨガはラージャヨガに向かうステップであり、あえて肉体を使うことで、心身を超越しようと試みた。バンダやアーサナなど、肉体を使った行法が多数紹介されている。
本来ヨガは世俗を離れて、山奥で行じるものであった。
しかしサニヤシ(出家者)でなくても、普通に生活しながら、家族を持ったり働きながらヨガの修行ができる、と考えた点が本書の特徴だ。
気軽にヨガの聖典に触れてみよう
四つの代表的な聖典の違いを整理してきた。それぞれ、時代背景によって教えが異なる部分もあるが、何かしら自分の人生を豊かにする知恵が詰まっている。
聖典と言うと、仰々しくて手を伸ばしにくいイメージを持ってしまうが、それぞれが教える知恵は現代社会の日常生活で生かせるものも多い。
なんとなく知りたい、と思ったらためらわずに気負わずに目を通してみよう。
きっと、あなたなりのヨガとの向き合い方の道標になってくれるだろう。
こやまかずお。クンダリーニヨガ、中国養生医学、東洋哲学を38年にわたり研究をし、独自の「火の呼吸メソッド」を確立。著書多数。
にしかわまちこ。アーユルヴェーダ&ヨーガ研究科。世界の自然療法を40年にわたり研究。スワミ・サッチダーナンダに学ぶ。著書多数。
文=Yogini編集部