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『ヨガ・スートラ』の八支則、ヤマの中にサティヤ(正直)という教えがあります。心の中の不純性を取り除くヨガの実践においては、嘘をつかないことは大切な実践方法です。
「嘘をついてはいけない」というのは、子どもでも知っている道徳ですが、実際に守ろうと思うと難しい場面が多くあります。人を気遣う優しさで嘘をついてしまうこともありますよね。生活の中で、知らない間に小さな嘘を積み上げてしまっていないかと見直してみましょう。
正直に生きる“サティヤ”の実践で心の純度を上げる
パタンジャリの『ヨガ・スートラ』の中では、八支則と呼ばれる8つの実践方法を順番に行うことで、深い瞑想状態であるサマディに到達し、苦悩に惑わされない自由な心を育てます。
今回ご紹介するサティヤは、八支則の1番目であるヤマ(制戒)に含まれています。
ヤマには以下の5つがあります。
5つのマヤ
- アヒムサー(非暴力): 肉体的に、言語的に、思考のレベルでも暴力を振るわないこと。
- サティヤ(正直):嘘をつかなこと。
- アスティヤ(不盗):他人のものを盗まないこと。
- ブラフマチャリヤ(禁欲):性欲などでエネルギーの無駄遣いをしないこと。
- アパリグラハ(不貪):所有しないこと。
ヤマは社会生活での規則や道徳ではなく、自分の心の純度を上げるためのヨガの練習法です。
知らぬまに積み重ねていること……。 さまざまな嘘の種類
私たちは日常で無意識に小さな嘘を積み上げてしまっています。どのような嘘があるのかを考えてみましょう。
悪意のある嘘と優しい嘘
相手を傷つけようとしたり、自分の利益のために相手を騙すような嘘は断固道断です。
例えば、子どもに冗談で「あなたは橋の下で拾ってきたのよ」と言ってしまったりすると、子どもはそれが真実なのでは?と恐れて、親から怒られるたびに「自分は本当の子どもじゃないから、お母さんに愛してもらえない」と勘違いしてしまいます。
冗談だったでは、済まされない心の傷になる場合もあります。もちろん、詐欺師が相手の富を奪うために使う嘘ももってのほかです。
日常で悩むのは、相手のための優しい嘘です。例えば、仕事で上司や取引先へのお世辞で、思ってもいないことを言っていることはありませんか。また、体型に悩んでいる友達に「私、太ったよね?」と聞かれたら、「そんなことないよ!」と咄嗟に言ってしまうかもしれません。
それらも、自分の心の中には嘘として蓄積されてしまいます。
他人への嘘と自分への嘘
他人への嘘は多くの場合自覚があります。もしも、無意識に嘘が出てしまっているのであれば、自分の言動に注意深く意識したほうがいいかもしれません。
私たちが見落としがちなのは自分への嘘です。他人のことばかりを気にしていると、自分に意識が向かず、知らず知らずのうちに自分の心に嘘をついてしまいます。
意識的な嘘と無意識の嘘
嘘をついていると分かっている時と、無意識に嘘をついてしまっていることがあります。例えば、人から聞いた情報を間違って解釈して、他の人に話している時には、無意識に相手に間違った情報を与えてしまっています。相手の話をあまり聞いていなくて、適当に相槌を打っている時にも、無意識に嘘をついているかもしれませんね。
自分自身に対しても同じです。疲れているけれど仕事が終わらない時に、「大丈夫!まだできる!」と、エネルギードリンクのカフェインを摂って無理やり頑張るのも自分への嘘になるかもしれません。本当は身体は休みたいのに、カフェインで騙している状態ですね。
人を傷つける真実だとしても、正直に伝えるべき?
正しいことを言う、嘘をついてはいけないというのは、誰でも分かっていることです。では、実際の生活の中で小さな嘘をやめられない理由は何でしょうか?
ほとんどの場合、悪気はなくても、相手や自分を傷つけたくなくて、守るために嘘をついてしまいます。
あえて何も言わない方が良いときもある
多くのヨガの先生は、サティヤ(正直)とアヒムサ(非暴力)の両方を守るために、沈黙することを勧めます。相手を傷つける真実であるのなら、言わない方が良い場合があるということです。
例えば、体型を気にしている友人に「私、最近太ったよね?」と聞かれたら、太ったと思っていても、なかなか言えませんよね。「そう?気が付かなかったよ!見た目じゃ分からないよ!」と言ってあげたら、それは嘘になってしまいます。
このような場面で急に黙っても不自然です。「ダイエットしたいの?私の友達も最近ウォーキング始めたら効果あったらしいよ!」と、ポジティブな話題にもっていったり、「私も二の腕が最近気になって、いい方法探しているんだよね。何かないかな?」と、自分話題にしてしまえば、サティヤを守りながらも、相手を傷つけない会話を続けることができます。
相手を傷つけないようにするには、ちょっとしたコツがいる場合があります。
一時的に相手を傷つけても、言った方が良いこともある
同じような場面でも、真実を言ってあげた方が良い場合もあります。
多少ぽっちゃりしているだけなら、上の例のように、話題をポジティブに変換して会話を楽しめるかもしれません。しかし、あからさまに健康に良くない肥満であったり、健康に影響が出ているのであれば、言ってあげた方が良い場面もあります。
その時も、言い方によって相手を極力傷つけないように言い換えてあげることはできます。
「○○さんは肌も綺麗だし明るいし、今のままでも可愛いのだけど、最近息切れしやすくなったなら身体の方が心配だな。元気でいて欲しいから、甘いお菓子だけでも控えた方が健康のために良いかもね!なにかあったら、話してね。」と、相手のことを肯定しながらも、心配だと伝えれば、相手も悪い気がしないでしょう。
言うときと言わない時のバランスも大切
相手にとって必要な言葉でも、全て言えばいいわけではありません。
例えば、仕事で毎日同じミスをしている後輩には、間違えを正してあげることは大切です。しかし、すでに本人も自覚して落ち込んでいて、余計に集中力がなくなってしまっている時には、小さなミスを見つけても、黙ってカバーしてあげた方が良い場合もあります。
サティヤを実践せねばと、真実を全て言えばいいわけではありません。時には、言わない方が最善の場合もあります。
今日から実践したい、無理のない真実のサティヤ
サティヤは、ただ正しいことや思ったことを言えばいいわけではなく、同時にアヒムサ(非暴力)などの他の教えも考えなくてはいけないので、実際の生活の中で実践すると悩む場面が多々出てきます。だからこそ、自分自身の言葉に意識を向ける習慣がとても大切になります。
まずは、あからさまな嘘は避けるようにしましょう。例えば、頼まれていたことを忘れていた時に「覚えていたけど他の仕事が忙しくて」と言い訳をするのはよくありません。忘れていたのであれば、正直に言って、誠意を込めて謝るようにしてみましょう。
誠意が伝われば、相手も許してくれる場合があります。自分自身も、嘘で誤魔化さないように習慣付けることで、次回は気を付けようと正直に心がけることができます。これができないと、毎回嘘を繰り返す癖がついてしまいますね。
小さな嘘の積み重ねは、いつの間にか居心地の悪さに繋がります。一つの小さな嘘が原因で、それがバレないために、他の嘘を積み重ねないといけないことも多く、自分の心の中にモヤモヤが溜まってしまいます。
サティヤを気を心がけると、心がとてもスッキリとなるのを感じることができます。日常で自分の発する言葉を意識してみましょう。