「自然のいのちの輝き」に感謝して生きるということ

日本人の心の源「大和心」

しき嶋のやまとごころを人とはば
朝日ににほふ山ざくら花

国学の四大人の一人、本居宣長(もとおりのりなが)は自らの大和心の象徴として、山桜を詠みました。大和心とは、自然を敬い、自然とともに生きるという大和民族の根本的な思想、生き方を言います。しかし、この宣長の歌は単に「もののあはれ」にも通ずる感慨やはかなさを、大和心だと言っているわけではありません。なぜなら、繊細さ、はかなさ、死などをいたずらに美化することは、大和心の本意ではないからです。

では、なぜ桜なのかというと、古代からこの桜に生命の躍動と繁栄、そして移ろいを感じていたからです。長い冬の厳しい寒さを越えて、華麗に美しく花を咲かせる桜は、まさに大和心の象徴でした。桜に、大和言葉で言う「さきはひ」と「むすび」を感じたのです。

「さきはひ」とは、「さく…輝きの極まり(とても充実した状態)の表れ」と「はひ…延ふ(一つの状態が継続するという意味)」が合わさった言葉です。むすびは後述しましょう。

そして桜の見せるさまざまな様相——蕾、開花、桜吹雪、大地や水面に広がる花びらの美しさなどに、自然の生成化育、四季の移ろい、さらに人生を重ね合わせていたのです。つまり桜を通して、命の尊さ、美しさ、有り難さ、はかなさなどを学んでいたのでしょう。

自然のすべてに神性を見、感謝する

日本は豊葦原(とよあしはら)の瑞穂(みずほ)の国と言われ、古くから農耕を営んできました。常に自然と向き合うことで、人間はもとより動植物、さらに鉱物に至るまで大自然のあらゆるものに神性を感じていました

和はいのち(神)への感謝から始まります。日本人らしい美しさは、この大自然(=神)とともに生きることから育まれてきたのです。自然との共生を意識し、自然を通していのちの大切さと感謝を学ぶことが、大和民族にとっての美しい在り方の原点になると思います。

霊性に四季を当てはめる

大和心では、人生を四季の移ろいに重ねます。四季にはそれぞれに美しさ、強さ、気高さ、柔らかさ、ぬくもり、輝き、厳しさなどがあります。神道では、霊魂を一霊四魂(いちれいしこん)と言って、霊は「直霊(なおひ)」、魂には「和魂(にぎみたま)、荒魂(あらみたま)、幸霊(さちみたま)、奇魂(くしみたま)」の四つがあるとしています。この四魂を四季に当てはめると、幸霊=春、荒魂=夏、和魂=秋、奇魂=冬となります。これは四季に神性さ(神=自然の生成化育)を感じていたことからの発想でしょう。

幸霊は緑色の輝きを持つことで春を象徴し、別名を愛魂(あいこん)と言い、「愛」の働きがあります。人生で言えば若いころに多くの人と交わり、知識のみならず、人間としての生き方や慈愛を学ぶ時期です。

荒魂は赤色の輝きを持ち、夏を象徴します。別名を勇魂(ゆうこん)と言い、「勇」の働きがあります。人生で言えば成年期に当たり、仕事や学問などに精力的に取り組む活動的な時期になります。

和魂は黄色い輝きを持つ魂で秋。別名を親魂(しんこん)と言い、「親」の働きがあります。人生では壮年期になり、周囲や家族に手厚い加護と安定を与える円熟期です。

奇魂は青紫色の輝きを持ち、冬の象徴。別名を「智魂(ちこん)」と言い、「智」の働き。人生で言えば熟年期で、これまでに学んださまざまな事柄を整理し、さらに高めていく時期になります。

インドの四住期とも対応

これは、ある部分、インドの四住期の考え方に似ています。

  • 学生期——師の下でヴェーダなどを学ぶ時期。
  • 家住期——家庭にあって仕事に励み、子を設け、家の祭式を主宰する時期。
  • 林棲期——一人森林に隠棲して学問と修業をする時期。
  • 遊行期——一定の住所を持たず遊行する時期。

若い時には若い時にやるべきことを、そして老いた時には老いた時にこそできることをするものだ、という考え方。年を重ねた時には、若い時の輝きとは違う、もっと深い輝き、知性や霊性からにじみ出てくるような輝きをまとえるようになっていくものです。おそらく、四住期なども、それを目指しているはずです。

美しさとは自然のいのちの輝き

そもそも日本人が感じてきた美しさとは、作られた美しさではなく、自然の美しさいのちの輝きです。「穢れ(けがれ)」を嫌いますが、穢れとは「気が枯れる」の意味で。生命力が損なわれている状態だからです。それに対して「祓い(はらい)」とは、生命力を復活させる働きを持った神事。古神道で祓いを重視するのは、それにより生命力を回復することで「いのちの輝き」を取り戻せると考えているからです。

いのちあるものは、すべて、いわゆる死を迎えます。万物は生まれた瞬間から死に向かって歩み始めるのです。散りゆく桜に大和心を感じるのは、大地に落ちた花びらが、新たないのちの元になるから。万物には生も死もなく、すべては「むすび」のあらわれです。そこに大いなる「和(和魂)」の奇霊(くしび)なる大自然の働きを見て、いのち(神)の輝きを感得する、それを素直に受け止めることができる心を大和心と言うのです。

桜は大和心の象徴とされていますが、本当は大自然の生きとし生けるものなら何でもいいのです。大自然とともに歩んできた大和民族。自然の移ろいに自分自身の人生を重ね合わせ、いのちの尊さ、美しさ、有り難さ、さらにはかなさにさえ感謝して、ただ今を生きていく。この姿にこそ日本人の美しさは宿るのです。

話してくれた人:小山一夫
クンダリーニJP代表。「火の呼吸」を体系づける。古神道家。『Yogini』の連載でもおなじみ。

出典:『Yogini』Vol.44