ハタヨガの源流〜日常のすべてを整えるタントラ〜

ハタヨガの源流〜日常のすべてを整えるタントラ〜

タントラという言葉を聞くと、何やらスピリチュアルで怪しげな言葉に感じられる方も多いのではないでしょうか。しかし、現代ヨガの多くの人が実践しているハタヨガは、タントラの考え方を深く取り入れています。

タントラについて理解を深めることによって、ハタヨガがどのようなものなのかを理解しやすくなります。

タントラって怪しくないの?その意味と特徴

タントラという言葉を使うと、何やら怪しいものだと感じられる方は非常に多いです。それは、ヨガやタントラの発祥地であるインドでも同じです。インドでは白魔術や黒魔術といった超常現象を行ったり、性行為にまつわるテクニックを説くという先入観を持たれがちです。

しかし、タントラの本質を正しく理解することによって、私たちは多くの恩恵を受けることができます。

タントラの語源

タントラは一般的に「たて糸・織機」を意味すると考えられていますが、「タン」と「トラ」の組み合わせで作られた言葉だとも言い伝えられています。それぞれの言葉の意味は下記の通りです。

タン(Tanoti):拡大すること
トラ(Tryati):自身の解脱の経験を成し遂げる

この2つの言葉を合わせて、タントラは「解脱(解放)を実現させるもの」であると考えられています。

世界の全てを受け入れるタントラの教え

ヨガやヴェーダンタの教えと比べると、タントラは非常に俗世的な教えだと考えられています。

ヴェーダンタ学派(ギーター)をはじめとするバラモン教や、ヨガ・スートラでは高い精神性のみを良しとして、物質世界について追及することはありません。そのため、精神世界のみが真実であり、現世での富や欲に意識を向けることを卑しいとさえ考えられる風潮があります。

それに対してタントラは、この世の全てを真実として受け入れて愛します。ヨガ哲学ではあまり語られない、肉体的な健康や、長寿、富や子孫繁栄など、人間らしい望みも現実であり、ないがしろにしません。

迷信・呪術・俗信などを積極的に採用

タントラでは魔術や、土着の迷信を積極的に採用しています。ヴェーダンタや古典ヨガでは排除されたそれらのテクニックが採用されたのは、やはりタントラの現世利益を否定しない特徴が大きいです。

ヨガなどでは精神世界に追求することは高貴であり、物質世界や超能力などは低次のものだと考えます。しかし、タントラは何が高貴で何が卑しいかと批評することを一切行いません。

タントラは何が高貴で何が卑しいかと批評することを一切行いません。
タントラは個人の自由を尊重した流派

だからこそ、土着の迷信も全て取り入れ、それを使うかどうかは本人の意思に委ねます。中には、黒魔術など、人を陥れるような教えもタントラには含まれています。黒魔術は、使用することによって、使った本人にも悪い作用が訪れます。

良い・悪いをジャッジするのは流派ではなく、使用する本人が考えるべきこと。使い方によって人は幸せにもなれるし、不幸になる場合もある。何を求めるのかを自分で決めることのできる、本当に個人の自由を尊重した流派だと考えられるのではないでしょうか。

タントラの特徴

タントラの主な特徴をあげてみます。

・生活に密着した信仰
瞑想や特別な修業の状態だけでなく、人が今世を生きる現実に密着した教えです。

・生きることや快楽に対しても積極的
ヨガでは輪廻転生からの解脱を求めますが、タントラでは生きることに対してもポジティブです。

・現実的な利益をも良しとする
健康・長寿・子孫繁栄・商売繁盛についても追及。

・身体も神聖なものだと考える
人間が生をもって与えられた身体も神聖なものと考えます。心や精神だけを重要視する古典ヨガとの大きな違いです。

・男性原理×女性原理
タントラでは常に2つのエネルギーのバランスを考えます。その2つは女性と男性という特徴で表されます。

ハタヨガや魔術だけがタントラではない

タントラはでは、人が生きていく中で関わる全ての事柄のエネルギーに関して深く追求します。そのため、一般に知られるよりも沢山の流派があります。

  • 占星術
  • 家や寺院の建築(建築技術や、方角などの風水的な概念も含む)
  • 性行為(より優れた子孫を生む方法)
  • 料理
  • マントラ(呪文)
  • ヤントラ(聖なる図形)
  • ハタヨガ

これらは一例ですが、それぞれの分野に流派があり、エネルギー的な観念からとても深い知恵があります。そのため、全てのタントラを一生涯で学ぶことは不可能だと考えられています。

建築や料理さえもタントラであると考えると、タントラの教えはとても身近なものであることを理解することができますね。

神秘に包まれたタントラの発祥

神秘に包まれたタントラの発祥
神秘に包まれたタントラの発祥

タントラの発祥時期については、多くの謎に包まれています。リグヴェーダなど、最も古いインドの聖典よりもずっと古いと考える学者もいます。

例えばタントラで重要視されるシャクティ(クンダリニー)の現存する最も古い像は紀元前9000年頃のものだと考えられ、シヴァ神の象徴であるリンガムの古いものは紀元前3000年頃のものだと言われます。

他にも、多くのタントラに関する遺跡が古代インドの遺跡から見つかっていますが、文字で説明されたものではないので、現代のタントラとの関係性については不明です。

言い伝えでは、シヴァ神はタントラの最初のグル(師)であり、シヴァが教えを説いた最初の生徒がシャクティ(パールヴァティ女神の別名)だとされます。

そして、シャクティによってタントラの教えは聖者たちに伝えられました。ハタヨガの多くの文献の中でも、シヴァ神をヨガの最初のグルであると書かれることが多いです。

ヴェーダとタントラの関係

タントラという言葉が残された最も古い文献は『リグヴェーダ』です。『リグヴェーダ』はインドで現存する最も古い文献でもあります。

タントラの起源をヴェーダだと考える人も多く、特に祭式について書かれた『ヤジュル・ヴェーダ』などはタントラそのままだと考えられることもあります。

実際、ヴェーダの説く宇宙観はタントラに大きな影響を与えています。タントラでは二元的なエネルギーについて深く説きながらも、最終的には1つの宇宙原理と一体化を求めます。

そのため、タントラから派生したハタヨガを考える時には、『ヨガ・スートラ』以上に『バガヴァッド・ギーター』などに書かれた一元論を理解する必要があります。

男性と女性:タントラが説く二元性

タントラでは、男性と女性という二元性をとても重要視します。二元性の教えは、ハタヨガにも受け継がれています。

ハタヨガが「ハ:太陽」「タ:月」の組み合わせであることも、タントラの流れをもとに考えると納得できます。

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シヴァとシャクティのエネルギーの融合

タントラでは全てをシヴァ(男性)とシャクティ(女性)の2つの特性に分類します。その2つのエネルギーのバランスを整えることが大切です。

シヴァ シャクティ
不明瞭 明瞭
形のない 形ある
物質
プルシャ プラクリティ
純粋な知識 純粋なエネルギー
男性エネルギー 女性エネルギー

人間の体内でもシヴァとシャクティのエネルギーが存在します。シヴァは頭頂部にあるサハスラーラ・チャクラの位置に宿っています。シャクティはクンダリニーとも呼ばれ、胴体の底辺であるムーラダーラ・チャクラの位置に眠っています。

ハタヨガでは、眠る潜在エネルギーであるクンダリニーを呼び起こし、エネルギーが頭頂のシヴァの座まで到達させることで、シヴァとシャクティのエネルギーの融合を行い、それを解脱と呼びます。

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実はタントラは私たちの身近な教え

タントラには性的なテクニックや超自然的な能力が含まれているため、良くない先入観を持たれがちです。しかし、本来のタントラはこの世界のエネルギー全てを整えるためのテクニックであるため、私たちが快適に生きるための衣食住・健康や精神的な幸福など、誰もが恩恵を受けることのできる教えです。

特にアーサナやプラーナヤマなど、ハタヨガ的な練習はタントラの理論を取り入れているため、ヨガについて深く知るために、タントラについて知ることはとても役に立ちます。

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