「啐啄同時」(そったくどうじ)
鳥が卵からかえる時、ヒナは卵の殻を破って出てきます。このとき、ヒナは内側からこつこつと卵の殻をつついて出ようとします。これを「啐(そつ)」といいます。ちょうど同じ時に親鳥は、外側から卵の殻をコツコツとつついて、ヒナが出てくるのを助けます。これを「啄(たく)」といいます。
ヒナと親鳥、内側と外側から同時につつくことで、殻が破れてヒナが生まれ出ることができるのです。つつく時期が少しでもずれたり、場所がずれたりすると、ヒナは生命を受けることができないかもしれません。この絶妙なタイミングを、「啐啄同時」(そったくどうじ)」といいます。
禅にまつわるこんなお話
中国に鏡清禅師という人がいました。一人の僧が禅師に「私は悟りの機が熟し、殻を破ろうとしています。親鳥のように、外からつついてください」と言いました。すると鏡清禅師は「そうしたら、本当に悟ることができるのか」と答えました。
僧は「もし悟ることができなかったら、人に笑われます」と言いました。それに対して禅師は「この馬鹿者!」と、一喝したということです。
問答からわかること
鏡清禅師は、いつも弟子たちに「啐啄同時」の大切さを説いていたそうです。中から殻を破ろうとする力と、それを外から助ける力。師弟関係で、両者の呼吸がぴったり合わなければ、修行で学びは得られないのです。けれど、意図的に助けてもらおうと考えるのではなく、その絶妙なタイミングを察するにはどうしたらいいのでしょう。
ヨガと禅
学校、職場、習い事、子供への教育など、日常生活の様々な場面で、私たちは相互に教え、教えられる機会があります。良い指導者に巡り会うことで、殻を破ってますます伸びていくこともある一方、逆に殻を破れずに終わってしまうこともあるかもしれません。
ヨガに置き換えて考えてみるとどうでしょうか。例えばヨガのレッスンに通っていて、苦手なポーズがあったとします。ある日ふとしたタイミングで、指導者にそっとアジャストメントされたことで、「あっ、ポイントがつかめた!」と思った瞬間はありませんか?
- アシストしてもらった時の心地よさ
- 的確なアシストができた喜び
- 指導者と受ける側のお互いの息があう時
それが殻を破る瞬間となるのでしょう。自分が殻を破る瞬間、人が殻を破る瞬間。ヨガに限らず、その瞬間にたくさん出会いたいものです。