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畳の産地から、新しいヨガのスタイルの提案
畳の香りを嗅いだり、その手触りを感じると、どこか懐かしく落ち着いた気持ちになる。子どものころの思い出が懐古されるためか、はたまたDNAレベルで日本の伝統文化に懐かしさを感じるようにできているためなのだろうか。
この畳に触れた時に感じる温かく、満たされた感覚は、ヨガで得られる感覚と近いものがある。そのヨガと畳の親和性に着目した、新しいスタイルのヨガが八代産畳表認知向上・需要拡大推進協議会から提案されている。
八代地域(八代市・氷川町)は、畳の原材料、い草の栽培面積は全国の98%、畳表(畳の表面のござの部分)の生産量も国内生産の98%以上を誇る日本一の畳の産地だ。そんな自治体や農業団体、民間企業で構成される協議会が、畳の上で心と体を解放してくれる100ポーズ『YATSUSHIRO GORONE COLLECTION』を10月26日より公開した。
畳の上でできる寝ポーズ100
『YATSUSHIRO GORONE COLLECTION』の100ポーズは、日本人初のヨガ世界大会のチャンピオンであり、ヨガを生活の中でさまざまな形で楽しめるように普及活動に取り組んでいる三和由香利さんが考案したもの。
畳の心地よさを最大限に感じられる、畳ならではのポーズを意識して、さまざまな寝ポーズ
を考えた。
ヨガのポーズをアレンジしたものからヨガから少し離れた自然体なものまで、自由な発想の中で、心身に働きかける効果を兼ね備えている。ヨガマットがなくても、ケガをしにくく全身で畳の柔らかさ、心地よさを感じられるポーズばかりだ。
ここでは、三つのポーズを例として紹介する。
ヤモリ寝
畳を思いっ切り感じられる、畳に張りつくポーズ。曲げたヒザとヒジを近づけることで、股関節まわりがほぐれ、柔軟性アップと、下半身のむくみ解消にも効果的だ。
くの字返し寝
両手脚を伸ばし、左右の体側をそれぞれ畳の隅の方まで伸ばすことで、日常生活で縮こまりがちな側面の筋肉がほぐれる。ウエストの引き締めや、大腸のマッサージとしても効果的だ。
なにとぞ寝
ヨガで言えば、ポーズの合間の休みとして行うことが多いチャイルドポーズ。両腕を前に伸ばすことで、背中がストレッチされる。また、頭を下げることで疲労回復にもつながる。畳の香りを感じれば、普段のチャイルドポーズよりもさらにリラックス効果が上がりそうだ。
100ポーズすべての詳細は、下記リンクの特設ページをチェック! 家に畳がある人は、ぜひ実践してみて。
畳とヨガが相性ピッタリなわけ
畳の部屋は落ち着く、多くの人がそう感じるのは気のせいではないようだ。
い草研究の第一人者である、北九州市立大学の森田洋教授によると、畳のリラックス効果には三つの要因がある。
一つ目が畳表の色で、一般的な畳の緑色が人に安心感をもたらす。
二つ目が、その肌触り。畳表独特の肌触りの気持ちよさは気持ちを落ち着けてくれる効果がある。
そして三つ目が香りの効果で、い草の特徴的な香り成分には、バニラエッセンスに含まれているバニリンという成分が含まれ、それがリラックス効果をもたらすと考えられているのだ。
い草の大きな特徴の一つであるスポンジのような断面構造も、畳で寝転がった時の心地よさを助長してくれている。このスポンジ構造が持つ弾力性によって、畳独自の絶妙なクッション性が生まれる。
また、吸放湿性も兼ね備えていて、湿気を吸ったり吐いたりする力がとても優れている。室内の湿気を畳表がコントロールしてくれるため、フローリングの部屋に比べると夏場は涼しく、冬場は暖かく過ごすことができる。
ヨガは心身ともに快適に導いてくれるが、そこに畳が作り出す、快適でリラックスできる環境が加われば、相乗効果でさらに呼吸も効果も深まりそうだ。
日本の伝統文化で生活を豊かに
協議会が『YATSUSHIRO GORONE COLLECTION』をはじめとして、畳のある生活の新提案を行っている背景には、年々減少している国産畳の需要と価格の低迷がある。
作付面積は30年前と比較して90%の激減。生産量にいたっては94%の減少だ。このままでは、国産畳表が絶滅することまでも危惧されている現状がある。
私達の心と体を落ち着かせてくれる日本の伝統文化の畳。数十年前までは家にひと部屋はあった畳部屋も、今ではない家も多い。畳以外にも失われつつある伝統文化は多いが、それらの伝統文化には、大量生産で使い捨ての物にはない美しさ、柔らかさ、穏やかさがある。
もう一度、畳をはじめとした日本古来の物の魅力を再認識して、それらを新しい形で取り入れた快適なライフスタイルを考えてみたい。
サステイナブルな取り組みは、新しいものを求めるより、ヨガと同じように古くからの先人達の知恵を現代の生活にうまく取り入れることで実現するものもあるのではないだろうか。
文=Yogini編集部