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整形外科に勤めていますと老若男女問わず多くの患者様が来院されます。痛める身体の部位も様々で、職種や日々行われているスポーツなど、その人が送られているライフスタイルや、社会背景によっても大きく異なります。
例えば、パソコンや書き仕事で長時間椅子に座ることの多いデスクワーク中心の人だと、必然的に首や腰が痛くなりやすく、手を使う時間も長いため、手首や肘を痛めることも多くなります。
一方、保育士の方の場合、子どもを抱っこしたり、重たい道具を運ぶ機会が多く、かつ子ども目線に合わせてかがむ動作を繰り返すことによって、腰に加えて、膝や足の痛みを抱える方が多い印象です。
いずれの場合も、まず患部の状態を確認してリハビリをすすめます。炎症が強いのであればアイシングを行ったり、硬くなっている筋肉があればストレッチします。時間をかけて痛みを取り除いたら次の段階として「再発予防」のリハビリを行います。
ヨガで深まる、正しい身体の使い方
身体を痛める理由はオーバーユース。不慮の事故、加齢による関節変形などもありますが、多くの場合「身体の正しい使い方を理解できていない」がゆえの、誤った動作の繰り返しが、一番の理由です。
例えば、中腰姿勢になる時、脊柱を真っ直ぐにするイメージをもつことで、身体への負担は大きく回避できるのですが、背中を丸めた姿勢になると腰を痛めてしまいます。
この場合、たとえ治療で一時的に症状を改善できたとしても、正しい姿勢、身体の動かしかたを理解できないままだと、再発する可能性があります。根本的な改善を望むなら、正しい中腰姿勢をきちんと理解することが大切です。
そこで役立つのがヨガ。ヨガは、障害再発予防のリハビリに非常に有効だと考えます。
まずはハタヨガで、身体に負担をかけない姿勢を探求
一般的にヨガというと、柔軟性を上げる側面にフォーカスされがちですが、これにプラスして、様々なアーサナを通じて身体と対話をし、自分の身体を知っていく過程の中で、正しい身体の動かし方を学ぶことができるのです。
身体の動かし方を学べば日常生活のふとした動作の中で「この動作の時はこういう感じで身体を動かしてみよう」、「この動作では身体の左右の歪みが出ているな」といった細かい身体の状態を把握することができます。
まずはハタヨガのようなアーサナをしっかりキープするヨガを行うのがおすすめです。キープ中、自分の身体と対話をしながら身体の状態を探求していきましょう。
指導者として、サポートする場合
もし、ケガや障害の予防としてのヨガを提案したいと考えられている場合、指導者は生徒さんがきちんと身体と向き合えるよう丁寧にサポートしてください。
生徒さんのなかでも、身体の感覚が鋭い人は指導者が伝えるとすぐに身体で吸収し、またそれを表現してくれますが、元々どこかを痛めて治療をされる人の中には、頭で理解できても、身体に落とし込めない人もいます。その場合は、時間をかけて反復して練習するよう導いてあげるのがよいでしょう。
ヴィンヤサで、身体の日常動作がラクに、スムーズに
さて、アーサナがうまくできるようになったら、次の段階としてヴィンヤサスタイルのように、一連の流れをアクティブに行っていきます。ひとつのアーサナにじっくり向き合う時間が「静」の身体の使い方を学ぶ段階だとすると、ヴィンヤサスタイルは「動」の身体の使い方を学ぶ段階といえるでしょう。
ご存知のとおり、ヴィンヤサスタイルは呼吸に合わせて連続的にアーサナを行います。このときのポイントはアーサナからアーサナへ移る時のアライメントです。
アーサナの完成形だけ、アライメントを正しく維持できるだけでは意味がありません。次のアーサナへの移行時にも手先から足先まで身体の細かい部位まで意識を置くことが重要です。
動きの中で身体への意識が高まってくると日常生活で行う動作も修正できるようになります。
リハビリのゴールは、正しい動作が無意識にできたとき
先程、中腰姿勢で腰痛になる例を出しましたが、このような人は太陽礼拝Bの冒頭で行う立位→イスのポーズの流れを練習すると良いでしょう。
ここを反復して練習を行うことで立位から中腰、中腰から立位へ姿勢を変える時のアライメントへの良い姿勢の意識を高めていきます。
このような様々なアーサナを行い、次のアーサナへ移る時のアライメントを細かい部位まで意識することで、自分の身体を知り、そして修正をかけていくことが自ずとできるようになります。
正しい動作を「無意識」でも行えるまで修正を何度もかけて身体を洗練させた時、障害再発予防のリハビリが終わったといえるでしょう。
このようにヨガを通じて自分の身体を知る事は障害予防に繋がります。現在、身体のどこかを痛めている人はもちろん、いつまでも健康的に過ごしたいと考えている人にもヨガは有効です。